現在、日本郵政グループ女子陸上部に所属する宇都宮恵理。幼少期は外で遊ぶことが大好きな少女だった。生まれ育った愛媛県大洲市は小さな町で幼稚園から中学校までクラスメイトは変わらなかった。男子9人、女子7人の少人数。家族のように仲は良かった。

 

愛媛新聞社

 

 

 

 

 宇都宮は自身の幼少期を振り返った。

「いつも外で遊んでいました。凧揚げをしていて、田んぼから落ちて怪我をしたりもしました。それでもめげずに遊んでいました。鬼ごっこもよくやりましたね」

 

 母・育子に訊いても「体を動かすのが大好きな子でした」と返ってきた。山で木登りをするなど活発な少女だった。

 

 宇都宮が本格的に陸上を始めたのは高校に入学してからだ。だが、幼稚園の時と中学の時に陸上に触れている。はじめは幼稚園の頃に出場した大洲市健康マラソン大会だ。平野運動公園で行われるこのマラソン大会は幼稚園児から小学校3年生まではファミリーコースと呼ばれる約1.5kmの距離を親子で手をつないで走る。小学4年生からは約2kmのコースをひとりで走るのだ。

 

 幼稚園児にとって1.5kmはなかなかタフな距離だが、宇都宮は「長い距離を走るのはこの時からそんなに嫌じゃなかったです。親子で手をつないで走った思い出があります」と頬を緩めた。

 

 母・育子は「実は、私も陸上をやっていたんです。私が娘や息子と一緒に走りたいなぁという思いで参加したんです」と語り、こう続けた。

「ですが子供たちが先に走って行ってしまったような……(笑)」

 宇都宮たちの元気が有り余っていた証左だろう。

 

 小学校に入学すると水泳教室に通った。宇都宮が「習いたい」言って始めたという。運動神経も良く、進級テストで苦労することもなかった。水泳は6年間続けた。この他にも、小学校4年生からミニバスケットを始めた宇都宮。「6年生の時、隣町の小学校との合同チームで県大会に出場したことが忘れられないです。大きな会場で試合ができてうれしかったんです」とキラキラした表情で語った。

 

 小学生時代の思い出を訊くと「3泊4日で広島と九州に行った修学旅行」と即答した。初めて野球観戦をし、大きな遊園地で仲間と遊んだ。

 

「グリーンランドに行き、お化け屋敷に入って騒ぎました。地元の愛媛にはこういう大きな遊園地がなかったので、とても新鮮でした」

 

 持ち前のわんぱくっぷりで駆け抜けた小学校時代。クラスメイトも変わらず、そのまま地元の平野中学校に入学した。

 

 ランナーとしての素質

 

 同中学には女子が入部できる部活は卓球部とバレーボール部の2つだけだった。夏の大会で試合に負けると期間限定で水泳部か陸上部のどちらかを兼部するのだ。宇都宮は1年生の時、水泳部を選択した。

 

 ところが、である。

 

 宇都宮が1年生の時からランナーとしての素質があると見抜いていた人物がいる。平野中学の体育教師・中岡靖典だ。このエピソードについてはまず、母・育子がこう述べた。

 

「最初の保護者会で中岡先生が“恵理さんは僕に任せてください”と。理由までは聞いていないんですが……。中岡先生が素質を見抜いて、のちに陸上に引っ張ってくれたんだと思います。そして恵理は2年生の時に陸上部を選びました。ここが“運命の分かれ道”だったと思います」

 

 中岡は宇都宮のどこにランナーとしての魅力を感じたのか。中岡の解説――。

「身体能力が高かった。全身のバネがあるんです。短距離で全国に行くレベルではなかったですが、“このバネ、このスピードで長距離を走れるようになれれば”とイメージできた。1年生の時も陸上部に誘ったんですけど本人が“水泳に出ます”と断られました(笑)」

 

 小学校の6年間、水泳をやってきた。だから水泳部を選択するのは当然と言えば、当然である。宇都宮の陸上選手としての素質が開花するのは、1年先送りになった。

 

 中学2年になると宇都宮は中岡の誘いを受け、陸上部を選択した。「走ることは凄く好きだった」と本人が言うように、陸上を始めて充実した日々を送る。母・育子は陸上を兼部していた愛娘の様子を語る。

 

「3年生は当然、速い。それでも“あの先輩に追いついた、この先輩に追いつけた”と少しずつ自分が速くなっていくのが、嬉しかったみたいです。“頑張れば、どうにかなるんだ”と気がついたんじゃないかなと思います」

 

 宇都宮はランナーとして素質を見抜いた中岡のもとで、“期間限定の陸上部”ではあるものの徐々に頭角を現すのだった。

 

(第3回につづく)

 

<宇都宮恵理(うつのみや・えり)プロフィール>

1993年6月17日、愛媛県大洲市生まれ。八幡浜高校で本格的に陸上を始める。高校卒業後、大東文化大学を経て2016年に日本郵政グループ陸上部に入部(勤務はかんぽ生命保険)。18年、19年と都道府県対抗女子駅伝の愛媛県の第1区を担当した。自己ベストは3000m9分24秒99、5000m15分42秒82、1万m32分57秒61。身長170センチ。

 

(文・写真/大木雄貴)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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