中学2年生の時、宇都宮恵理はバレーボール部との兼任で陸上部を選択した。陸上部としての活動は夏から冬までだった。

愛媛新聞社

 

 

 

 

 この時期の1日のスケジュールは多忙だった。朝の7時半から授業前までバレーボールの練習。放課後の1時間は陸上部の練習。そして最終下校時間までは再びバレーボールの練習をこなした。この多忙な時期について宇都宮は笑顔で「私は早くこの陸上の季節が来ないかなぁと思っていた」と笑顔で語り、こう振り返る。

 

「陸上とバレーボールの兼任期間が楽しかったんです。もちろん、陸上の練習でへとへとになりながら、バレーボールの練習をする。体力的にはしんどかったですが、キツいのは皆も同じです。“キツいけど、頑張ろう”って言いながら、妙な一体感が生まれるんですよ。その雰囲気の中、練習をするのが楽しかったんです」

 

 陸上の練習メニューは「400mを全力で4、5本走るといったインターバル系のトレーニングが多かった」と宇都宮。バレーボール部兼陸上部顧問の中岡靖典にその理由を訊いた。

 

「インターバル、ビルドアップトレーニングが中心でした。そこにロングジョグを織り交ぜた練習をしていました。私としては、宇都宮も他の生徒も高校で花が咲けばいいな、というイメージで育てていました。中学で潰してしまうのではなく、高校に伸びしろを持った状態で送り出してあげるのが、一番いいのかなと」

 

 優しさのこもった声で再び中岡。

「速くなるためには、どんどん負荷をかけたトレーニングをすればいいいんですけどね。でも、それだと本人たちはしんどいでしょう。負荷のキツいトレーニングばかりでは、怪我もしやすくなりし、何より精神的に持たないと思います。中学で燃え尽き症候群になってしまうのは一番勿体ない。成長期でもあるので、故障もしやすい時期です。だから、陸上に飽きないようなトレーニングをさせていました」

 

 インターバル系のトレーニング中心のメニュー構成が宇都宮には合ったのだろう。めきめきと力をつけた宇都宮はこの年の県駅伝で1区を任された。だが、この時の成績は本人曰く芳しくなかったらしい。「50くらい学校があって20位とかで次にタスキを渡した気がします」。それでも、宇都宮の走りに可能性を感じた人物がいた。八幡浜高校陸上部の顧問・倉田茂である。

 

 見出された素質

 

 この大会の後、宇都宮の所属する平野中学陸上部は八幡浜高校陸上部と合同トレーニングを行った。練習後に宇都宮は倉田から「いい走りだ」と言われたという。本人は「理由はわかりません」と首を傾げた。実は顧問同士で宇都宮の話題になった。

 

「倉田先生とは宇都宮のストライドの長さと彼女の地面を蹴る強さの話になりました」と中岡。当時、既に倉田は宇都宮の素質に目を付けていたのだ。おそらくバネの強さも1区を走り抜ける時やトレーニングで披露していたのだろう。

 

 冬の陸上シーズンも過ぎ、兼任期間は一旦終わる。宇都宮は春が終わり、陸上部の練習が始まる夏の到来を首を長くしてまっていたのだろう。中学生活最後の夏彼女の才能は開花した。中学3年生になった2008年、大洲市喜多郡中学校総合体育大会の1500mで5分3秒の好記録を叩き出した。これは今でも大会記録である。

 

 これを契機に県大会に出場した。ここで宇都宮は4位と大健闘した。

「大きい大会で結果が出せたのはこれが初めてでした。バレーボール部との兼任でここまでできたので陸上の練習に専念すれば……という手ごたえを掴めた大会でした」

 

 宇都宮は後に、推薦で八幡浜高校に合格した。「私の住んでいる地区では、八幡浜高校は進学校の部類でした。なので陸上をやるにしてもやらないにしても、一般受験でも受けようと思っていました」(宇都宮)

 

 中学卒業の時、宇都宮は中岡に卒業アルバムに「メッセージを書いて欲しい」とねだった。すると、中岡は“かけっこを楽しみなさい”というエールを記した。宇都宮は今でもこの言葉を胸に日々の練習に励んでいるという。このメッセージを送った真意を恩師はこう説明する。

 

「走るだけの練習は本当にしんどいんです。でも、実は奥が深かったりするんです。中学生は駅伝の大会を目標に走ります。レースの展開や、誰が何区を走るのか……。だから、生徒には“たかがかけっこ、されどかけっこだよ。楽しみなさい”と言っています。宇都宮がこの言葉を大事にしてくれているのはとてもありがたいです」

 

 中学時代をバレーボール部と陸上部の兼部で駆け抜けた。いよいよ宇都宮は進学先の八幡浜高校で本格的に陸上を始めるのだが、最初は中学とのギャップに苦しんだという。

 

(最終回につづく)

 

<宇都宮恵理(うつのみや・えり)プロフィール>

1993年6月17日、愛媛県大洲市生まれ。八幡浜高校で本格的に陸上を始める。高校卒業後、大東文化大学を経て2016年に日本郵政グループ陸上部に入部(勤務はかんぽ生命保険)。18年、19年と都道府県対抗女子駅伝の愛媛県の第1区を担当した。自己ベストは3000m9分24秒99、5000m15分42秒82、1万m32分57秒61。身長170センチ。

 

(文・写真/大木雄貴)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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