「鯉のぼりの季節まで」。春先にいくら勝ったところで、長続きはしない。弱い頃のカープはよく、こう陰口を叩かれたものだ。4月は白星が先行しても、連休が終わる頃には落ちてくる。その姿は風が止んだあと、ダランと屋根にしなだれかかる鯉のぼりそのものだった。

 

 3年に渡って吹き続けた追い風がパタリと止んでしまった。4月15日現在、4勝11敗の最下位。開幕5カード連続負け越しは球団ワーストである。どの球団にもいいように料理され、さながら「まな板の鯉」状態だ。

 

 口さがないカープファンは言う。「今年は“鯉のぼりの季節まで”どころか、そこまで持たんじゃろう」。「令和元日(5月1日)の最下位は、もう決まりじゃな」。2016年からの3連覇は何だったのか。私たちは黄金時代の“終わりの始まり”を見ているのだろうか……。

 

 言わずもがな3連覇の原動力は強力打線だった。16年=684。17年=736。18年=721。総得点は3年続けてリーグトップ。その中心にいたのがFA権を行使して巨人に移籍した3番・丸佳浩である。15日現在、4番の鈴木誠也はリーグトップタイの6本塁打と気を吐いているが、そこからつながらない。孤軍奮闘を余儀なくされているように映る。

 

 かつて江夏豊が口にした言葉を思い出す。「最強のバッターはOでもNでもない。ONよ」。V9巨人の3番・王貞治と4番・長嶋茂雄はどちらが最強か? という問いに対するレジェンドの答えだ。「ひとりなら何とかなる。しかし2人続けておさえるのは容易じゃない」

 

 阪神の3番ランディ・バースが2年連続(85年、86年)で三冠王に輝いたのは、もちろん本人の傑出した能力に依るものだが、4番・掛布雅之のアシストがあったことを忘れてはならない。1たす1が2ではなく、3にも4にもなるのが3・4番の理想的な関係なのだろう。

 

 カープの思いもかけぬ失速により、シーズン中に初めて時代をまたぐセ・リーグのペナントレースは先が読めない。16年からの3連覇は全て先行逃げ切りによるものだった。カープが本当に地力のあるチームなら、14年ぶりにマスターズを制したタイガー・ウッズばりの、サンデーバックナインの混戦から抜け出すような戦い方ができるだろう。断崖を背にしての「鯉の滝登り」は見られるのか、それとも……。

 

<この原稿は19年4月17日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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