22日、パンパシフィック水泳選手権2日目がオーストラリア・ゴールドコーストで行われ、男子400メートル個人メドレー決勝は萩野公介(東洋大)が4分8秒31で優勝した。昨年の世界選手権同種目金の瀬戸大也(JSS毛呂山)は5位だった。萩野は800メートルフリーリレーにも第1泳者として出場。坂田怜央(イトマンSS)、小堀勇氣(日大)、松田丈志(セガサミー)と米国代表との接戦を演じたが、惜しくもタッチ差で2位だった。萩野は個人種目と合わせて、今大会3個目のメダルを手にした。100メートル平泳ぎは、小関也朱篤(ミキハウス)が自己ベストを更新する59秒62で初優勝を収めた。女子100メートル平泳ぎ決勝は、17歳の渡部香生子(JSS立石)が2位に入り、銀メダルを獲得した。鈴木聡美(ミキハウス)は6位で前回大会に続くメダル獲得はならなかった。
 やはり主役はこの男なのか。萩野が2種目でメダルを獲得。前日は金メダルを獲った入江陵介(イトマン東進)と瀬戸に主役の座を譲ったかたちとなったが、この日は400メートル個人メドレーでは瀬戸を抑えての金メダル。800メートルフリーリレーでも日本の銀メダル獲得に貢献した。

 先に行われた400メートル個人メドレー。萩野は予選をトップで通過すると、決勝は予選2位の瀬戸と隣のレーンで泳ぐことになった。瀬戸は昨年の世界選手権で日本人唯一の金メダルを獲得している。一方の萩野もマルチスイマーとして他種目に挑戦しているが、本職は個人メドレーである。内心忸怩たる思いがあったはずだ。今年4月の日本選手権では2位・瀬戸に4秒42の大差で圧勝した。

 萩野は日本選手権同様、序盤から積極的なレースを展開した。第1泳法のバタフライでは、前日に200メートルバタフライを制した瀬戸をリードする。続く背泳ぎでは、体半分抜け出した。200メートルのターン時点では、背泳ぎを得意とするタイラー・クラーリー(米国)に追い上げられ、一度はかわされたが、平泳ぎでトップを奪い返す。そこから一気に抜け出して、あとはひとり旅。ラストの自由形で、体ひとつ分のリード。残り50メートルで1秒近く迫られるも、それまでの貯金が生き、1着でゴールインした。

「コンディションは良いとは言えない」としながらも、しっかりと最後まで粘り勝ったことは大きい。4分8秒31のタイムは、萩野自身が持つ日本記録に0秒7及ばず、「もうちょっと欲しい」と納得はしていない。すぐに800メートルフリーリレーへと気持ちを切り替えた。

 約30分後にスタートしたリレー種目の決勝では、萩野は第1泳者として先陣を切った。米国のコナー・ドワイヤーにリードを許すが、後半勝負で逆転。トップで第2泳者の坂田にタッチした。トップで“バトン”を受けとったチーム最年少18歳の坂田は、日本の勢いを加速させた。“水の怪物”マイケル・フェルプス相手に、リードを広げる快泳だった。今大会がフェルプスにとって、国際大会復帰戦になるとはいえ、十分すぎる役割を果たした。

 だが、競泳大国もそのまま黙っているわけはない。第3泳者はフェルプスと並ぶ競泳界のスーパースター、ライアン・ロクテ。日本の小堀から0秒3の差をすぐに縮めると、追い抜いた。一度は逆転された小堀も意地を見せ、ラスト50メートルで巻き返す。最後は0秒01の僅差でアンカー勝負となった。

 前3人の奮闘に「気合いが入った」と松田。入りの50メートルは、0秒04とわずかながらにリードを広げた。しかし自力で勝る米国が、100メートルを通過した時点で、逆転する。ラスト50メートルで、1秒近くの差が生まれていた。後半型の松田は、「相手はきつそうだった。いけると思った」と一気に距離を縮めたが、最後はとらえ切ることができなかった。タッチ差の0秒13差での惜しい銀メダルとなった。

 とはいえ、この種目で圧倒的な力を見せている米国にあわやという大善戦。萩野は「いい勝負ができたことでフリーのレベルも上がっていると、明るい希望が見えてきた」と自信をつけたようだ。昨年の世界選手権では優勝した米国に3秒以上の差をつけられての5位だったが、3位とは僅差だった。上げ潮のトビウオジャパンを象徴するようなレース。その渦の中心には、20歳のマルチスイマー・萩野の存在がある。

 小関、渡部と男女の平泳ぎの新エース候補もきっちりと結果を残した。男子100メートル平泳ぎ決勝に進んだ小関は、今大会が初代表の22歳。今年の日本短水路選手権、日本選手権、ジャパンオープンと結果を残してきた新鋭だ。折り返しのターン時点で3位と、好位置につけると後半勝負をかけた。身長188センチと海外勢にも劣らぬ体格の持ち主。力強いストロークで前をよくフィリペ・シウバ(ブラジル)を追いかける。ラスト5メートルは「無我夢中でかいた」と最後はタッチで逆転。前日に背泳ぎの入江、バタフライの瀬戸が金メダルを獲ったこともあって、チームの雰囲気も良いようだ。「自分もその波に乗れた」と喜んだ。

 一方、女子100メートル平泳ぎの渡部は、銀メダルを獲得。ロンドン五輪にも出場している実力者で「金メダルを目指した」。ただ、昨年は本職の平泳ぎでなかなか結果を残せずにいた。中村真衣らを育てた竹村吉昭コーチに師事を仰ぐなどし、今年になって覚醒した感がある。日本選手権では平泳ぎ2種目と個人メドレーの3冠を達成した。渡部はジャパンオープンでは、100メートル平泳ぎで日本記録をマークするなど、更なる成長を見せている。最終日には200メートル平泳ぎと200メートル個人メドレーのレースが控える。「かなりタフな1日になる」と本人も語るが、3日間で計17レースというハードスケジュールを経験したこともある。その際には200メートル個人メドレーでは日本記録を更新しているだけに、最後まで彼女の泳ぎに目が離せない。

 初日からメダルラッシュに沸くトビウオジャパン。2日目も金メダル2個、銀メダル2個の好成績で、折り返し地点で早くも前回大会の金メダル獲得数を超えた。総メダル数も8個で、前回大会を上回るペースだ。五輪、世界選手権に次ぐグレードとされるパンパシ。26名のトビウオジャパンの精鋭たちは4年に1度の大舞台でも、きっちりと結果を残している。残り2日間、息切れすることなく、この勢いのまま泳ぎ切ってもらいたい。

 主な決勝の結果は次の通り。

<男子100メートル自由形・決勝>
1位 キャメロン・マケヴォイ(オーストラリア) 47秒82 ※大会新
2位 ネーサン・エイドリアン(米国) 48秒30
3位 ジェーミー・マグナッセン(オーストラリア) 48秒36
6位 中村克(早稲田大) 48秒96
8位 塩浦慎理(イトマン東進) 49秒08
藤井拓郎(コナミ)、伊藤健太(ミキハウス)、原田蘭丸(自衛隊体育学校)、古賀淳也(第一三共)、坂田怜央(イトマンSS)、小堀勇氣(日大)、平井健太(セントラルスポーツ)、池端宏文(法政大)、坂井聖人(早稲田大)は予選落ち

<男子100メートル平泳ぎ・決勝>
1位 小関也朱篤(ミキハウス) 59秒62
2位 フェリペ・シウバ(ブラジル) 59秒82
3位 グレン・スナイダーズ(ニュージーランド) 1分0秒18
7位 冨田尚弥(チームアリーナ) 1分1秒08
崎本浩成(コナミ)、小日向一輝(セントラルスポーツ)、押切雄太(日大)は予選落ち

<男子400メートル個人メドレー・決勝>
1位 萩野公介(東洋大) 4分8秒31 
2位 タイラー・クラーリー(米国) 4分9秒03
3位 チェーズ・カリシュ(米国) 4分9秒62
5位 瀬戸大也(JSS毛呂山) 4分10秒55
藤森丈晴(日本体育大)、藤森太将(ミキハウス)は予選落ち

<男子800メートルフリーリレー・決勝>
1位 米国 7分1秒72
2位 日本(萩野、坂田、小堀、松田) 7分5秒30
3位 オーストラリア 7分8秒55

<女子メートル100メートル自由形・決勝>
1位 ケイト・キャンベル(オーストラリア) 52秒72
2位 ブロント・キャンベル(オーストラリア) 53秒45
3位 シモーネ・マニュエル(米国) 53秒71
7位 内田美希(東洋大) 54秒91
山口美咲(イトマンSS)、松本弥生(ミキハウス)、宮本靖子(東洋大)、五十嵐千尋(日本体育大)、高野綾(イトマンSS)、竹村幸(イトマンSS)は予選落ち

<女子100メートル平泳ぎ・決勝>
1位 ジェシカ・ハーディ(米国) 1分6秒74
2位 渡部香生子(JSS立石) 1分6秒78
3位 ブリージャ・ラーソン(米国) 1分6秒99
6位 鈴木聡美(ミキハウス) 1分7秒99
金藤理絵(Jaked)、寺村美穂(セントラルスポーツ)、茂木美桜(ルネサンス幕張)は予選落ち

<女子400メートル個人メドレー・決勝>
1位 エリザベス・ベイゼル(米国) 4分36秒89
2位 マヤ・ディラド(米国) 4分37秒53
3位 ケーリン・マクマスター(オーストラリア) 4分38秒72
4位 清水咲子(日本体育大) 4分40秒64
5位 高橋美帆(日本体育大) 4分42秒52
大本里佳(イトマンSS)、大塚美優(日本体育大)は予選落ち

<女子800メートルフリーリレー・決勝>
1位 米国 7分46秒40 ※大会新
2位 オーストラリア 7分47秒47
3位 カナダ 7分58秒03
4位 日本(五十嵐、宮本、高野、山口) 8分0秒83

(文/杉浦泰介)