先日、研究・イノベーション学会、映像情報メディア学会等主催のシンポジウムに参加しました。タイトルは産官学民連携シンポジウム「アート、デザインとICTテクノロジーのクロスプロデュースによるイノベーションと東日本大震災からの8年間を振り返って~」です。


 実行委員長の中原新太郎さんからお声がけをいただき、もちろん、「参加します」と即答。しかし、その後、シンポジウムのタイトルを改めて見直してみて、少し不安に……。

 

 中原さんから「そもそもプロデュース研究会だから。異なる人が集まるからこそ何かが産まれる」といったようなお言葉をいただき、シンポジウムに参上しました。

 

(写真:シンポジウム実行委員長の中原新太郎さん)

 当日、中原さんはご自身の地域の様々な活動の中でのいきさつから、障害のある人は災害時には"お荷物"としか認識されないという危機感を覚えて、私のことが思い浮かんだとおっしゃいました。

 

 パネルディスカッション「震災からの復興・再生、地域活性化」では、岡本正さん(銀座パートナーズ法律事務所弁護士)、多田陽香さん(一般社団法人NextCommonsLab遠野)、牧慎太郎さん(市町村職員中央研修所副学長)とご一緒しました。

 

 中原さんが抱く危機感について、私は障害の医学モデルと社会モデルのお話をさせてもらいました。これは以前、当コラムでも書きました(第67回)。障害がその人にある(医学モデル)のではなく、障害は社会の側にあること。車いすに乗っているその人に障害があるのではなく、階段しかないことが障害である。つまり障害は建物に、社会にある。このことを考えの出発点にすれば、障害のある人に対して"お荷物"という発想は生まれてこない--。これには大いに賛同いただきました。

 

 中原さんは異なる人を集める天才です。異なる人が集まれば、それぞれが持つ異なる考えは最初は反発します。でも、それを経ないと次のステージへと進まない、というのが中原さんの考えです。「確かにそうだ」と、あることを思い出しました。

 

 NPO法人STANDを立ち上げたのは2005年でした。いつだって私はいろんなことを後から知ります(調査が甘いという悪い癖があります)。当時パラスポーツの管轄は厚生労働省、自立支援振興のセクションにありました。いわゆる障害者福祉政策のひとつで、例えばパラスポーツ大会はエンターテインメントとして広く見に来てもらうイベントではなく、障害のある人の心身の健康への施策でした。

 

 そんな中、パラスポーツを何のためらいもなくビジネスとして事業展開しようとしたのです。違和感を持たれても当然の行動だったことを、今ならよく理解できます。

 

 設立当初は、パラスポーツ大会のインターネット中継を行っていました。他の競技団体の方から「うちの大会も中継をやってください」との依頼を受けて、「このくらいの費用がかかります」と見積もりを提示すると「えーッ、お金がかかるんですか?」と驚かれました。他の競技の中継はどのようにしているのかと聞かれ、協賛を募ったり、助成金に応募したりしていますと答えると、「ではSTANDさんでお願いします」と。

 

 当時はこれを「何だか変だな」と思っていましたが、例えば福祉器具を購入する際に助成があったり、それと同様なものと思えばそう考えるのも自然の流れです。

 

 これは当コラムでも何度も書きましたが、「お前ら障害者をネタに商売するつもりか!」と言われたこともしょっちゅうでした。好意を持ってくださっている方からは「伊藤さん、あまりビジネスとは言わないほうがいいですよ」とアドバイスもいただきました。これに当時は反発したけど、今は「ああ、そうだな」と理解できます。

 

 言うなれば私が法人を興してやってきたことは、それまでの障害のある人を取り巻く環境では異質なものだったのです。異質な物がぶつかり合うと最初は反発する、これはごく自然な当たり前のプロセスでした。大切なのはその次です。ぶつかり合い、その後で自分はどのくらい変われたのか? 何か変革は起こせたのか、そこから新しいものを産み出せたのか……。そんなことを、しみじみと振り返るきかっけとなった1日でした。せっかく振り返ったのだから、ここからまた何か新しい芽が出てくれることを期待しています。誰にって? もちろん私自身に、です。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

◎バックナンバーはこちらから