先日、関西学院大学のキャンパス内でスポーツ義足のイベントを開催しました。STANDと関西学院大学は2015年に、多様性を認め合う社会の実現に向けて連携して取り組んでいくために協定を締結しました。このイベントもその一環です。今回のイベントは同大学が東京オリンピック・パラリンピックを来年に控え、学生にパラスポーツを身近なもののとして捉えてもらいたいと企画されたものです。内容はスポーツ義足歩行体験、義足のパラリンピアンのデモ走行、パラリンピアンと義足技師との対話などです。講師は義肢装具士の沖野敦郎さん(オキノスポーツ義肢装具代表)、パラリンピアンの春田純選手(ロンドンパラリンピック4×100mリレー4位)でした。

 

 会場は西宮上ケ原キャンパスの中庭。四方を校舎に囲まれたところ。行きかう学生やキャンパス内で寛いでいる学生たちにも声をかけて、多くの人にスポーツ義足を体験してもらいました。

 

 体験した人はほぼ一様に最初はこわごわと、補助する人につかまったり、中にはしがみつく人もいました。周囲で見ている学生に話を聞くと「不安」「怖い」「立てる気がしない」「ムリムリ」との声もありました。沖野さんがおっしゃるには、スポーツ義足で歩いたり走ったりするとき大事なのは「筋力よりもバランス」とのこと。

 

 なるほど、その通りでした。体験者はジャージ姿の体育会学生から、スポーツは苦手という人まで様々でしたが、体育会学生が「おっとっと」と苦労する場面もあり、逆に日頃運動しない人が軽やかに走ったりしていました。補助の人につかまったままゆっくり歩く人から、ジャンプや片足でケンケンまでこなした人。両膝をついた姿勢から手をついて立ち上がれるようになる人など、体験者の「到達度」は様々でしたが、体験後の第一声は揃って「面白い、楽しい」というものでした。

 

 カヌーに乗っているという学生は、最初は義足を「障害のある人の足の代わり」と思っていたそうですが、実際に体験してみると「スポーツの道具だ」と認識したと言います。さらに「自分も道具を使うスポーツをしているから道具には愛着がある。春田選手にとって義足はスポーツをするときの道具なんだ、と思いました」と語ってくれました。他にも竹馬みたい、遊び道具として使える、などの感想もありました。

 

 学生たちの感想は実に様々でした。「反発力がすごい。手で押してもしならないし反発力を受けられない。体重をかけて初めて反発を得られる。でもすごく強くて使いこなすのは難しい」と、体験してみないとわからないことを実感したようです。しかも多くの参加者が体験の後は講師の二人と話し込んでいたのが印象的でした。

 

 片足義足の春田選手には義足と義足じゃない足のバランスについて聞いている学生がいました。実際に春田選手に走ってみてもらうと両方の足の歩幅が同じです。学生の質問は「義足じゃない足の強さも大事なのでは?」と続きました。春田選手は「義足で走るには、板バネの反発力を受け止めるだけの体全体の筋力ともう一方の足でバランスをとる必要があります」と説明。質問者は「なるほど」といった感じで何度も頷いていました。

 

 その他、「義足を固定する筒のようなソケットは腿にフィットしているので、筋肉がついたり落ちたりすると作り変える必要がある」「身体のメンテナンス同様に道具にもそうする必要がある」「板バネも経年劣化するから永遠ではない」など、講師二人の話は、聞けば聞くほど奥深く、興味が湧いてくるものでした。

 

 実際の義足に対して「すごい!」という簡単な感想だけでなく、素材や機能への興味、反発係数などの理系の視点、遊びの道具としての使いみち、義足をマシン、システムといった工学的な言葉で表現する、など、着眼点やアプローチが実にバラエティに富んでいました。こういう瑞々しい感性の人たちと話すことで、私の視野も広がった気がします。

 

 イベントのあとで「パラリンピックをもっともっとPRしてください」と注文する学生もいて、たくさんの元気をいただいた1日となりました。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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