(写真:閑散としていた数年前のパラ陸上の会場)

 今から数年前、パラ陸上競技大会の会場はガランとしていました。観客席でひそひそ話をしていても周りに響くくらい、シーンとしていました。会場にいるのは関係者がほとんどでした。7月20日、岐阜メモリアルセンター長良川競技場で開催されたWorld Para Athletics公認 天皇陛下御即位記念2019ジャパンパラ陸上競技大会へ行ってきました。


 岐阜駅から、今日の驚きの始まりです。会場までのシャトルバス乗り場付近に、若いご夫婦とお子さん連れが数組、まるでディズニーランドなどのテーマパークに行くような雰囲気でにぎやかにしていました。どこか近くに遊園地のようなものがあってそこに行くんだろうな、と思っていました。すると、陸上競技場行きのバスに乗るではありませんか。「このバスは違いますよ」と声をかけようと思ったくらいの違和感です。本当にびっくりしました。変化が起きている。私はどきどきしながら会場に向かったのです。

 

 会場に到着すると、主催者である日本障がい者スポーツ協会(JPSA)のオフィシャルパートナーのバナー(現在33社)がズラッと並んでいます。少ないときは2~3社だったこともあり、壮観です。観客席には企業名が記載された張り紙がされており、それぞれ応援団は指定のブロックに陣取るかたちになっていました。企業の方々はそれぞれお揃いのユニホーム、所属選手の横断幕、応援グッズを手にして、所属の選手名のアナウンスがあると、「ワーッ」と大歓声と拍手を送っていました。レーススタート時には「スタートします。お静かに願います」のプラカードを持った係員も登場しました。合わせて会場のスピーカーからは、レースのスタート時に「静かにしてください」を意味する「しーーーっ」というアナウンスが! このアナウンスは世界陸上では聞いたことがありましたが、パラ陸上の会場にこれが必要となったとは!(もちろん、演出の意味もあるのでしょうけれど)。

 

(写真:雰囲気は世界陸上のイメージに近づいてきた。写真は11年大邱の世界陸上)

 スタジアムの外周(敷地内)に足を運ぶと、そこにはテントがズラリ。車いすバスケットボール、ボッチャの体験コーナーがあり、キッチンカーや飲食の出店もたくさん。周りのベンチは焼きそば、コロッケ、アイスクリームなど思い思いのものを頬張る人で満席でした。

 

 さて、ディズニーランド風の親子以外は、想定の範囲と言えば範囲です。驚きの2つ目はスタンドの企業応援団以外の人の多さです。なんと、ご近所の方が家族連れで観戦する姿もありました。話を聞いてみると「パラリンピックが来るから、一度見てみたいと思って」と。やはり、変化が起きている。もしかして、……。本当は競技を見に来たにもかかわらず、どうしても確かめたいことができて、早々に会場を出ました。行き先は歩いて15分くらいの「長良川うかいミュージアム」です。ここは岐阜市を代表する伝統文化"長良川の鵜飼"の魅力を紹介する施設です。そこにも、いました! 陸上競技場から来たと分かる人が10名近く。感動しました。冒頭に触れた数年前の状況と比べたら、まさに隔世の感あり、です。

 

 1年後の本番も、それ以降も、期待できるのでは! と肌で感じた今年のジャパンパラ陸上競技大会でした。

 

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。
 

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