7月24日に東京オリンピック開幕1年前、8月25日には東京パラリンピック開幕1年前を迎えました。それぞれの1年前セレモニーに参加し、ふと2013年9月の東京オリンピック・パラリンピック招致決定の日のことを思い出しました。直後に公開された当時のコラムを見直してみると、なんと図々しくも、「オリンピック・パラリンピックのキーワードは共生社会の実現であると考えています。では、そのためにはどうすればいいのでしょうか。今、考えられることを3つ挙げます」と書いてありました。さらに調子に乗って次のようにも。「共生社会の実現のために必要と考えていたのは以下の3つです」。

 

1. 超高齢社会への仕組みづくり。国内外から観戦に訪れた障害のある人が長期間快適に過ごすことができるまちづくりは、ひいては私たちが直面している超高齢社会のまちづくりに直接つながるということです。
2. 会場を観客で満員にすること。
3. 地域のスポーツコミュニティの実現。

 

 1と2についてはこの6年間で社会全体が変化していると実感しています。3の「地域のスポーツコミュニティの実現」はどうでしょうか。「地域のスポーツコミュニケーションの実現」とは何か? 6年前のコラムで私はこう書いています。

 

<今回の招致に貢献された元文部科学副大臣の鈴木寛氏はこうおっしゃっています。
「東京開催で何を残すのか。障害のある人ない人、子ども、高齢者というすべての人がスポーツで一つになるコミュニティを各地につくり、そのネットワークができること。50年経ったとき、すべての人がスポーツコミュニティに入っているのが当たり前になっていて、『このコミュニティはいつからできていたんだろう、と調べてみたら、なぜか2013年から2020年の間に出来上がっていた』というムーブメントを起こしたい」
 現在、全国に総合型地域スポーツクラブは3000余りあります。そのうち、障害のある人が1回以上参加したことがあるクラブは40%です。そのうちの70%は、一般のプログラムに障害者が参加したことがある、としています。例えば、このクラブを活用して、広げていくことも可能です。一般のプログラムに障害者も参加する、のではなく、もともと障害の有無に関わらず参加するプログラムを用意していくのです。そうしていくうちに、すべての人が好きなスポーツをする社会が実現します。>(当コラム第36回「パラリンピック開催は日本社会を大きく変える!」より。文中データ出典:笹川スポーツ財団)

 

 これについては進んでいるとは言えないと実感しています。これまで全国でいろいろなタイプや規模のスポーツ体験会を総合型クラブと連携して行ってきました。「体験会をやりませんか?」と持ちかけると、「ぜひ!」とおっしゃるクラブさんはたくさんあります。障害の有無に関わらずスポーツの輪を広げたいと考えているクラブは多いのです。しかし、なかなかクラブだけでは障害のある人たちや子供たちに参加の機会を作るのが難しいのが現状のようです。障害のある人のクラブへの参加状況は引用したコラムの2013年とあまり変わっていないのではないでしょうか。現場の方からは次のようなお話を聞きます。

 

「障がいのある子をクラブの教室や行事に参加させたいが、プログラムがない」「障がいのある人にもお声がけするが、なかなか参加してもらえない」「障がいのある人を迎えるときに何を用意して、何に気をつければいいかわからない」「パラスポーツの競技は知っているが、(体験会などのイベントでも)指導できる者が少ない」「普段使用している体育館では車いすは使用禁止である」

 

「13年から20年の間に起きてほしかったムーブメント」が、実際には起こっていない状況です。でも、まだ1年あります!

 

 全国のクラブで、行事や教室に障害のある人や様々な人に参加してもらいたい。STANDでは、一緒にイベントを開催したクラブさんへスポーツ体験会の開催のための準備、運営、当日進行の台本などの運営マニュアルを含む資料をお渡ししています。そして、できるだけ準備からご一緒しています。私たちとのイベントのあとも、クラブが主催でプログラムを開催する際に使っていただいています。スポーツがイベントではなく、日常になるために。

 

「障害のある人ない人、希望するすべての人がスポーツコミュニティに入っているのが当たり前の社会」を想像しながら……。

 

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

◎バックナンバーはこちらから