(写真:出場者全員が出揃い、15日の決戦に向けた想いを口にした)

 13日、日本陸上競技連盟は東京オリンピックマラソン日本代表選考会となるマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)を2日後に控え、都内ホテルで記者会見を開いた。会見にはMGCに出場する男子30人、女子10人全員が出席。優勝候補の大迫傑(Nike)、設楽悠太(Honda)、井上大仁(MHPS)、服部勇馬(トヨタ自動車)、鈴木亜由子(日本郵政グループ)、松田瑞生(ダイハツ)らが大会に向けた意気込みなどを語った。

 

 男子34人、女子14人が出場権を獲得したMGC。辞退者と欠場者を除く40人が、自国開催のオリンピック出場へのサバイバルレースに臨む。男女上位2人ずつが代表権を手にすることができる。今までにない選考方法に注目度は高く、この日の会見にも多くのメディアが詰めかけた。

 

 MGC出場権獲得条件はMGCシリーズ(男子は福岡国際マラソン、東京マラソン、びわ湖毎日マラソン、別府大分毎地にマラソン、北海道マラソン。女子はさいたま国際マラソン、大阪国際女子マラソン、名古屋ウィメンズマラソン、北海道マラソン)で指定された日本人順位及びタイムをクリアするか、ワイルドカード(17年8月1日~19年4月30日までの「国際陸上競技連盟が世界記録を公認する競技会」でタイムなどの条件を満たした競技者)に入る必要があった。

 

 瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーが「オリンピック選考だけの選考会ではいけない。過程があって2年をかけて本当に実力がある人が選ばれる」と意気込んでスタートしたMGC。1レースのみの結果だけではなく段階を踏んで代表を決めるやり方だ。そのおかげもあってか男子は日本記録を塗り替え、女子は初マラソンに挑み好記録をマークする選手が続いた。

 

 4強が中心 ~男子~

 

(写真:勝負どころを「ラスト5km」と予想した大迫)

 今大会、男子は現日本記録保持者の大迫、前日本記録保持者の設楽ら日本歴代10傑のうち5人が顔を揃え、ハイレベルな争いとなりそうだ。前評判では大迫、設楽、井上、服部が4強に挙げられている。日本陸連の坂口泰男子マラソン強化コーチは「タイムは正直なので、4強が中心になると思います。でも本音を言えば、誰が来るかわからない」と苦笑しながら予想した。「出だしのスピードと、最後の坂。特に37㎞過ぎたところで“しめた!”と思える選手が前にいける」とレースのポイントを明かした。

 

 4強は以下のようなコメントを残した。

「最後勝てばいい」(大迫)

「記録も順位もこだわっている」(設楽)

「勝ちに来ました」(井上)

「どんな展開になっても冷静に対応したい」(服部)

 

 この4人の中で最速のタイムを誇る大迫だが、不安要素を挙げるとすれば他の3人と違いマラソンでの優勝経験がないことか。設楽は7月のゴールドコースト、井上は昨年8月のアジア競技大会、服部は福岡国際を制している。中でも井上は蒸し暑いインドネシア・ジャカルタで優勝。アジア大会を含め今回と同じペースメーカー不在のレース経験もある。「強さ」にこだわる男が直接対決で頂点を狙う。

 

 その他、4強の牙城を崩しそうなトラック種目で日本トップランナーだった佐藤悠岐(日清食品グループ)にも注目が集まる。さらには今井正人(トヨタ自動車九州)、中本健太郎(安川電機)らマラソン経験豊富なベテランもいる。一発勝負に懸ける若手もいる。「一矢報いたい。“やってやりたい”という気持ちはあります」と意気込むのは鈴木健吾(富士通)だ。3度目のマラソンに挑む24歳。「走ることが大好き」という鈴木をダークホースに挙げたい。

 

(写真:少ない人数で争う女子は集団となってのレース展開が予想される)

 混戦必至 ~女子~

 

 女子は男子以上に混戦必至だ。男子の3分の1となる10人で争われる。日本歴代10傑に名を連ねるのは安藤友香(ワコール)、福士加代子(ワコール)、松田の3人。トラックを含めたオリンピック経験者も鈴木、福士、上原美幸(第一生命グループ)と3人いる。日本陸連の山下佐知子女子マラソン強化コーチは「顔ぶれ的には誰が代表になってもおかしくない」と見ている。

 

 混戦の中から抜け出しそうなのが、リオデジャネイロオリンピックでトラック種目で代表となった鈴木だ。山下コーチも注目ランナーに挙げる。
「鈴木亜由子さんあたりが軸になると予想しています。彼女はトラック時代の力があり、今いる選手の中ではスピードが抜けています。そこにスタミナが加われば強い。順調にきているとも聞いていますので、彼女が中心になるのかなと」

 

 鈴木本人は「ここまで淡々と練習をしてきました。レースも淡々と進めて、しっかりと勝負どころを抑えられたらと思います」と会見で述べた。身長は出場選手最小タイの154cmだが、その存在感は際立つ。昨年の北海道マラソン以来、2度目の42.195㎞をどのように駆け抜けるのか。

 

(写真:会場には多くのメディアが集まり、注目度の高さを窺わせた)

 対抗馬に挙げられるのがMGC出場決定第1号の前田穂南(天満屋)、大阪国際を制した松田である。松田はスピードもあり、2度のマラソンでいずれも2時間22分台をマークしている。5大会連続のオリンピック出場を目指す福士、プロランナーの岩出玲亜(アンダーアーマー)、18年アジア大会銀メダリストの野上恵子(十八銀行)はマラソン経験豊富な選手たちも虎視眈々と上位を狙っているはずだ。

 

 レースの模様はNHK総合とTBS系列で生中継される。多くの耳目を集めるMGC。9月15日、男子は8時50分、女子は9時10分に号砲が鳴らされる。

 

(文・写真/杉浦泰介)