9月に入りラグビーワールドカップ日本大会が開幕しました。日本代表の選手たちにはぜひ、頑張っていただきたいです。日本中の話題がラグビー一色になりそうですが(笑)、サッカーもいくつかトピックスがありました。ひとつずつ振り返りましょう。

 

 W杯アジア二次予選スタート

 

 まず、2022年にカタールで開催予定のサッカーW杯アジア二次予選がスタートしました。日本代表は二次予選前にカシマスタジアムでパラグアイ代表と親善試合を行いました。海外組は移籍したばかりの選手も多かったのですが、ベストメンバーを招集できましたね。森保一監督としてもW杯に向けての戦いにがっちりとメンバーを組みたかったのでしょう。パラグアイには2対0で勝利。相手のコンディション不良もありましたが、MF中島翔哉(ポルト)を中心にサイドからスピーディーな攻撃ができていたと思います。

 

 そして、アウェーで迎えたアジア二次予選。初戦の相手はミャンマー代表でした。結果は前半16分に中島が、26分にはMF南野拓実(ザルツブルク)のゴールで2対0の勝利。キックオフ前から大雨が降り、ピッチコンディションは悪かったようですが、勝ち点3を手に入れました。

 

 内容に言及すると……正直もっと点が取れたのではないかと感じます。せっかく前半のうちにポンポンとリズムよく得点を重ねることができたので、後半に3点目を奪って欲しかったです。MF柴崎岳(デポルティーボ)のシュートがバーに嫌われるなど好機は作ったので、あとは決め切るべきだった。途中からピッチに立った選手たちは“自分がピッチに入ったらこういうプレーを前面に出すんだ”と周りのメンバーに浸透させる必要がまだまだある気がしました。

 

 クラブチームでの練習中に太ももを負傷したFW大迫勇也(ブレーメン)は10月の2戦(10日のアウェー・モンゴル代表戦、15日のホーム・タジキスタン代表戦)に合流が難しいと報道されています。大黒柱不在のダメージは確かに痛手です。しかし僕は、代わりにセンターフォワードに入る選手に期待したいです。先日、招集された選手で言えばFW鈴木武蔵(北海道コンサドーレ札幌)、FW永井謙佑(FC東京)にとっては大きなチャンス。今は大迫が絶対的な存在ですが、競争が激しくなることで選手の、ひいては代表のレベルは間違いなく上がります。

 

 白熱の優勝争い

 

 国内リーグに目を向けると、J1の優勝争いが白熱してきました。第26節、2位・鹿島アントラーズ対首位・FC東京の直接対決がありました。結果は鹿島が2対0で勝利。これで鹿島は勝ち点51とし、同52のFC東京に1差と迫りました。追われるFC東京と追う鹿島。メンタル的には鹿島優位かなと思います。勝ち方を知っていて、タイトルを20も獲ってきた経験がありますからね。9月も終わりに近づき、クラブによっては契約更新の時期です。鹿島の歴代ブラジル人たちはこの時期になるとより発奮する傾向がある(笑)。彼らの活躍に期待したいものです。

 

 一方、FC東京は苦しいですね。鹿島に詰め寄られ、余裕がない上にラグビーW杯の影響で11月23日、第32節までホーム・味の素スタジアムが使用できない。多くのサポーターの声援を受けにくくなってしまうのは大きなビハインドです。それくらいホームでの声援は選手を鼓舞し、アドレナリンも出るものです。もちろん、過密日程の鹿島もこのまま順調にいくとは限らない。J1の優勝争いから目が離せないですね。

 

 Jリーグには人事異動もありました。名古屋グランパスは17年から指揮を執っていた風間八宏氏を解任し、過去にFC東京やサガン鳥栖を率いたマッシモ・フィッカデンティ氏を後任に据えました。フィッカデンティ監督はJリーグ初のイタリア監督としても有名ですね。名古屋はリーグ序盤こそ上位にいたものの12節から10戦勝ち星なし、22節で勝利しましたが、そこから1分け3敗と不振にあえいでいました。

 

 独自のサッカー哲学をもとに超攻撃的サッカーを植え付ける風間氏。かつてカウンター主体の川崎フロンターレを率い、パスサッカーで魅了するスタイルにシフトチェンジさせました。成績不振でシーズン中に監督を交代させるのは選手に対する“カンフル剤”ですが、後任はスタイルが180度違うフィッカデンティ監督です。これまで出番の少なかった選手にとってはチャンスかもしれませんが、客観的に見ると大博打な感がありますね。

 

 “ジーコイズム”の理解者

 

 これはクラブのフロント、強化部の体質だと思います。鹿島は監督が代わってもクラブ哲学や戦い方が変わらないのは、現場にもフロントにも“ジーコイズム”が浸透しているからです。これには理由があります。ジーコが加入した91年、住友金属蹴球団(鹿島の前身)の監督は鈴木満(現鹿島常務取締役強化部長)さんでした。鈴木さんはジーコに「プロクラブとしてこうじゃないといけない!」「こういうメンバーを集めないといけない!」と相当言われていましたよ。

 

 そして鹿島がプロ化した92年に鈴木さんはヘッドコーチに就任。のちに鹿島の強化部に入り、強化部長に就任し、現在に至ります。鹿島の根幹をなす“ジーコイズム”が何たるかをよく理解している人物がフロントで睨みをきかせていることで鹿島はブレない。だから補強ポイントは的確で、監督探しでもブレないのです。鹿島の補強選手を見て「強かだなぁ」と思うこと……ありませんか(笑)?

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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