悲願の初優勝が見えてきたFC東京だが、前途を楽観しているファンは少数派だろう。味の素スタジアムを本拠地とする彼らは、11月23日までホームゲームが組まれていない。優勝経験の豊富なチームにとっても過酷な終盤のつば競り合いを、彼らは連続するアウェーゲームで戦っていかなければならないのである。

 

 理由はもちろん、ラグビーのW杯にある。

 

 FC東京ほどではないものの、今回のW杯で何らかの影響を受けるチームはいくつかある。大分は戦いなれた昭和電工ドームを離れて市営競技場での戦いを余儀なくされ、J3で2位につけ、J2復帰に向けて好位置につける熊本も、アウェー4連戦を強いられている。同じくJ3の岩手は、ナミビア代表の練習場として、いわぎんスタジアムを明け渡すという。

 

 これらのニュース、J1の優勝争いをしているFC東京以外はサッカー側からもラグビー側からもあまり報じられることがないが、考えてみればちょっとした“事件”である。

 

 ラグビーのためにサッカーが手をさしのべた、と見ることもできるからだ。

 

 同じ国で生まれ、同じスポーツをルーツにしながら、発祥の地でもここ日本でも、サッカーとラグビーはどうにも折り合いが悪いことで知られている。英国では階級社会が密接に関係していると言われているし、わたし自身、若いころはサッカーを人気ではるかに上回るラグビーがどうしても好きになれなかった。Jリーグの誕生で立場が逆転してからは、サッカーに対して眉をひそめるラガーマンが増えた気もしている。

 

 だが、今回のラグビーW杯に関しては、まずJリーグ側から各チームに「大会のためにできる限りの協力をするように」との方針が出されたのだという。長く競技ごとの縦割りの弊害が言われ、かつ過去にはスタジアムを貸す、貸さないで因縁もあった関係を考えれば、大英断だと言っていい。

 

 47都道府県すべてに専用競技場がある野球と違い、日本のフットボーラーたちがプレーする環境は、およそGDP3位の国とは思えないほど貧しい。今回のラグビーW杯でも会場の半数近くが陸上トラック付き、という体たらくである。

 

 もちろん、専用競技場の建設はサッカー界の悲願であり、吹田スタジアムの誕生を機に、新たな流れも生れつつあるのだが、しかし、サッカー界だけでは声の大きさが足りなかったのも事実である。一度は大会終了後に専用競技場になることが決まった新国立競技場が、突然陸上トラックの保存という方向に舵を切ったのも、「1競技のわがまま」で片づけられてしまったからではないか。

 

 だが、今回のW杯でラグビー人気が一気に高まれば状況は変わる可能性がある。陸上トラックに興を削がれる度合いでいうと、ラグビーはサッカーのさらに上を行く。専用競技場の必要性は、言うまでもなく高い。

 

 サッカーだけでは届かなかった声が、ラグビーと手を組むことで届くようになるかもしれない。というか、それ以外に現状を打破する道はないのではないか。そう考えると、改めて評価したい今回のリレーションシップである。

 

<この原稿は19年9月26日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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