日本シリーズは1勝1敗のタイで第3戦に突入する。3年ぶりの日本一を目指す福岡ソフトバンクにおいて、攻守に欠かせない存在のひとりが、ショートの今宮健太だ。広い守備範囲と強肩でシーズン中からスーパープレーを連発。攻撃でも第2戦で先制点につながる送りバントを初球で決めたように、打線のつなぎ役を務める。地元・九州の星としてドラフト1位で入団して、今季が5年目。名実ともに日本一のショートを目指す若鷹に二宮清純が話を訊いた。
(写真:「ショートがチームを牽引するような選手でないと、チームは強くならない」と言い切る)
二宮: 入団当時、ショートのレギュラーは川崎宗則選手でした。日本代表にも選ばれた選手のプレーを見て、学んだ点は?
今宮: 守備がうまいのはもちろん、チームをまとめたり、雰囲気を盛り上げるところがすごいと感じました。1年目に1軍の空気を味わう意味で、何日かベンチに入らせてもらったんです。川崎さんが声を出して、沈みがちだったベンチの雰囲気が明るくなる。試合中、ピッチャーが苦しい時も、川崎さんがマウンドに行って声をかけることで楽になる部分も多いんじゃないかなと思いましたね。

二宮: 同じショートとして、具体的に「守備がうまい」と感じたところは?
今宮: 川崎さんの守備は堅実なんです。簡単な打球ではエラーをしない。基本にも忠実で、そこが僕に今、足りないところだと自覚しています。

二宮: 現在は主に2番バッター。高校時代は経験したことがなかった打順のはずです。つなぎ役としてさまざまなことが求められるだけに、本多雄一選手ら先輩から話を聞くことも多かったのでは?
今宮: アドバイスをもらうことはあまりないのですが、本多さんのような2番は理想ですね。もし1番バッターがアウトになっても、自分で塁に出て走って二塁まで進む。やはり得点圏で3番の内川(聖一)さんに回せるかどうかで、相手ピッチャーのプレッシャーが違ってきます。1アウト二塁のかたちがつくれる2番打者を目指したいといつも考えていますね。

二宮: ただ、今宮さんも犠打数は2年連続でリーグ記録(62個)です。その分、得点圏に走者を進めている証でもあります。バントのコツはどうやってつかんだのでしょう?
今宮: 最初はYoutubeで川相(昌弘)さんの映像を見て、研究しました。それから、2012年にプロで初めて送りバントをした時に、一発で完璧に決まったんです(4月29日、千葉ロッテ戦)。一、二塁で二塁走者が小久保(裕紀)さんと難しい場面で、ものすごく緊張したのですが、うまく決めることができた。ゲームで実際に成功すると「あ、これだ」というものがつかめる。その感覚を忘れないように練習しています。
(写真:バントは「ヘッドが最初から落ちないよう、立てることを意識する」という)

二宮: 後ろを打つ3番・内川選手のバッティングは天才型と言えるでしょうね。少々ボール球でも、ストライクゾーンだと思ったコースはヒットにしてしまう。
今宮: 内川さんはヒットの打ち方を知っていますよね。「ここはこういうかたちで打てば、あそこへ飛ぶだろう」と分かっている。(埼玉西武の)牧田(和久)さんがタイミングを外そうとして投げた緩い変化球を左手一本で三遊間に運んだバッティング(8月18日)なんかは改めてすごいと思いました。内川さんには、よく食事にも連れて行ってもらいますが、わざと詰まらせてライト前に落とす感覚とか、話を聞いていて不思議です。

二宮: 4番の李大浩選手に松田宣浩選手、長谷川勇也選手とソフトバンクの打線は好打者が続きますね。
今宮: しかも、どの選手もタイプが違うので、僕たちはものすごく得をしているなと感じます。1軍にいると先輩たちの姿を間近で見られて、聞けば、いろんなことをしゃべってくれる。長谷川さんは「ザ・日本人」という感じで、夜遅くまで欠かさず練習をしています。松田さんはバッティングに関してはマネできない(笑)。あれだけポイントが前でも、両手でウワーッと最後までバットを持っていて打球を飛ばす。普通は、あれだと手が離れて泳がされてしまいますよ。

二宮: とはいえ、今宮さんも高校時代は通算62本塁打を放ったスラッガーでした。一発長打を放って試合を決めたいという欲求が湧いてくることはありませんか。
今宮: もう去年くらいから、そういう気持ちは全くなくなってきましたね。僕は、まず守備で勝負する人間です。打席では内川さんの前に塁に出る、そして、なるべくいいかたちで回すことだけを考えています。

二宮: 目標は「日本一のショート」と聞いています。理想のショートとして、憧れの選手はいますか。
今宮: 僕は小坂(誠)さんですね。Youtubeで映像を見ても、打球が飛ぶところへ小坂さんがいる。「こんな打球、捕れるの?」と思うような当たりでも正面で簡単にさばいちゃう。能力だけなく、日頃からバッターの打球方向とかデータを研究している成果でしょうね。やはり、打球が飛ぶところの近くにいれば、アウトにできる確率は高くなる。そういう部分は見習っていきたいですね。

二宮: これから「日本一のショート」を目指すには、それが課題だと?
今宮: はい。課題がある時点で、まだまだということですからね。日本一のショートと呼ばれるには、誰もが認める存在にならなくてはいけない。その意味では僕の守備は不安定なところがたくさんあります。基本の基本をもっと徹底して、堅実さを高めていかなくてはいけないと思っています。

※過日、『週刊現代』で掲載された今宮選手のインタビュー記事が「Sportsプレミア」にも転載されています。
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