(写真:ラインアウトを含め激しいボールの争奪戦を展開 Photo by Richard Heathcote-World Rugby via Getty Images)

 19日、ラグビーW杯日本大会準々決勝が行われた。東京・味の素スタジアムで行われた試合はプールB1位のニュージーランド代表(オールブラックス)がプールA2位のアイルランド代表を46―14で破った。昭和電工ドーム大分ではプールC1位のイングランド代表とプールD2位のオーストラリア代表が対戦。イングランドがオーストラリアを40―16で下した。オールブラックスとイングランドは26日、神奈川・日産スタジアムで準決勝を戦う。

 

 世界ランキング1位、2連覇中のオールブラックスが、その強さをまざまざと見せつけた。

 

“打倒オールブラックス”を果たすべく多くのアイルランドのファンがスタジアムに詰め掛けた。試合前から歌声を響かせ、選手たちを鼓舞する。オールブラックスのスティーブ・ハンセンHCは「いい試合運びをすれば観客をコントロールできる」と動じなかった。

 

「前半で流れが決まった」とキャプテンでNo.8のキーラン・リードが試合後に振り返ったように、序盤からの猛攻でオールブラックスが圧力をかけた。前半6分、SOリッチー・モウンガのPGで先制すると、敵陣でプレーを続ける。アイルランドの強力なFW陣に立ち向かい、じわりじわりとインゴールへと迫る。

 

 そして14分、こじ開けたのが身長171cmと小柄な背番号9だ。「本来は他のプレーヤーにチャンスをつくってパスをしたい」と口にするSHアーロン・スミスだが、ラックからのボールを拾うと、相手の隙を突いた。ゴールポスト右に飛び込むトライ。モウンガがコンバージョンキックを成功し、10点差をつけた。

 

 A・スミスは20分にもトライを奪う。華麗なパスワークからWTBセブ・リースが左サイドに飛ばしパスを送る。WTBジョージ・ブリッジが縦へ大きくゲイン。インゴール目前へと迫った。そこでボールを拾ったA・スミスがインゴール左隅にねじ込んだ。モウンガは再びコンバージョンキックを成功。17-0と大きくリードを広げる。

 

 オールブラックスは攻め手を緩めない。リースが強烈なタックルを浴びせ、ボールがこぼれる。モウンガが蹴り出すと、彼を追い抜いたFBボーデン・バレットがさらに蹴り出す。そのボールを自ら拾い、インゴール右隅に飛び込んだ。

 

(写真:ハカは初戦と同じ『カパオパンゴ』。アイルランドファンは大きな歌声で応じた Photo by World Rugby-World Rugby via Getty Images)

 反撃を仕掛けるアイルランドに得点を許さず、前半終了の笛を聞いた。攻守に隙のない戦いぶり。「良いスタートを切らないとダメだと分かっていた」とB・バレットが言うように試合の焦点は前半にあった。アイルランドのジョー・シュミットHCも「このようなかたちで得点を許したら追いつくことは難しい」と肩を落とした。

 

 後半9分にHOコディー・テーラーがトライ。FLアーディー・サベアの突破でチャンスとつくると、A・スミス、リードと繋ぎ、テーラーが仕留めた。21分、左サイドでモールを組み、敵陣に迫る。モウンガのキックパスで逆サイドに振ると、ブリッジが縦へ突破。最後は途中出場のLOマット・トッドがトライを挙げた。

 

 オールブラックスはアイルランドに2トライを返されたものの、終了間際にはB・バレットのパスから途中出場のCTBジョーディー・バレットがトライを挙げた。世界ランキング4位の強豪相手に7トライを奪い圧倒。その強さばかりが目立つ試合だった。

 

 シュミットHCは「オールブラックスはこちらがいいプレーをしていても強い。息が詰まるようだった。スーパーなチーム。ボールを持っていようがいまいがプレッシャーを与えてくる」と語った。タックル成功率はオールブラックスの93%に対し、アイルランドは83%。指揮官は「どこに走ってくるか分からないのでタックルが決まらない」と嘆いた。

 

 オールブラックスの流れるようなパスワーク、スピードとパワーを兼ね備えた突破力など魅惑のアタックに目を奪われがちだが、それもいい守備があってこそである。LOサム・ホワイトロックは「オールブラックスはディフェンスに誇りを持っている」と胸を張る。ハンセンHCもその点を認める。

「我々にとってディフェンスは50%を占めている。精神的にはそれ以上。規律を保ち、自分たちのタックルをすることが大事だ。相手のエラーを誘う必要がある」

 

 そして指揮官は攻守に貢献したFW陣を称えた。

「FWがあってこそだ。1番から5番(PR、HO、LO)が土台になる。6、7、8番(FL、No.8)が機動力に変える。前にボールを運ぶことでコントロールするチャンスが生まれる。小さい番号(FW)の選手たちがいい仕事をしてくれた」

 

 優勝候補の大本命。前回の優勝メンバーは多数おり、経験豊富な選手も多い。“勝者のメンタリティー”が備わっている。「我々は勝つ経験を積んできた。勝たなければ学べない。どれだけ学べるか経験をしているかが大事」とハンセンHC。準決勝はエディー・ジョーンズHC率いるイングランドと対戦する。3連覇に死角は見当たらない。

 

(文/杉浦泰介)