(写真:セットプレー、フィジカル勝負で優位に立った南アフリカに軍配が上がった Photo by Richard Heathcote-World Rugby via Getty Images)

 ラグビーW杯日本大会準々決勝が20日、東京・味の素スタジアムで行われ、プールA1位の日本代表(ジャパン)がプールB2位の南アフリカ代表(スプリングボクス)に3-26で敗れた。昭和電工ドーム大分ではプールD1位のウェールズ代表がプールC2位のフランス代表を20-19で逆転勝ちを収めた。

 

 初の決勝トーナメント進出、1大会最多の4勝、過去最高の世界ランキング6位に浮上と快進撃を続けてきたジャパンだったが、ついに「ヴィクトリーロード」は途切れることとなった。優勝候補スプリングボクスの圧倒的なパワーに屈した。

 

「何をしてくるかはセレクションを見ればわかる。フィジカルでダイレクトなアプローチをしてくる」

 リザーブにFW6人を入れたスプリングボクスに対し、試合前の記者会見でジェイミー・ジョセフHCが予想していたように仕掛けてきたのはフィジカルバトルだ。

 

 スプリングボクスのラッシー・エラスマスHCはこう説明した。

「フィジカル、スクラムに力を入れ、ブレイクダウン(球際の争奪戦)で勝つことを重視した。スピードでも対抗できるプレーヤーもいる。スピードのないプレーヤーはフレッシュな状態で起用する。スピードとパワーで勝負した」

 

 スプリングボクスの司令塔コンビがジャパン対策を口にした。SHファフ・デクラークが「なるべく日本にボールを持たせないことを意識した」と話し、SOハンドレ・ポラードは「日本の勢いを止めること考えた。できるだけフェーズを切る」と語った。

 

 9月のテストマッチではパントキックを駆使し、両WTBにプレッシャーをかけてきたスプリングボクス。この日はアタックの起点となるSH流大、SO田村優に対し、かなり厳しくプレッシャーを与えてきた。野獣のように襲い掛かるタックルがジャパンを苦しめた。

 

 前半3分、先制したのはスプリングボクスだ。得意とするセットプレーで圧力をかけてきた。スクラムで押し込み、最後はWTBマカゾレ・マピンピがトライ。マピンピは田村のタックルをかわし、FB山中亮平のプレッシャーを受けながらもインゴール左隅に叩き込んだ。

 

 5点を追いかけるジャパン。ボールを保持するものの、自陣でプレーする時間が長かった。10分に相手がPR稲垣啓太に対する危険なプレーでシンビン(10分間の一時退場)を科されると、形勢はジャパンに傾き始めた。

 

 19分、敵陣でのスクラムはジャパンが押し勝った。相手のペナルティーを誘った。長谷川慎コーチの下、鍛え上げられたスクラム。アイルランド、スコットンランドといったティア1相手にも押し負けなかった武器である。ここで得たPGのチャンスを田村が確実に決めた。

 

 シンビンが解け、15対15となるとスプリングボクスに攻め込まれる場面が目立った。しかしスプリングボクスはハンドリングエラーやペナルティーなどを犯し、スコアは動かなかった。前半は3-5と射程圏内で終了。7割近くボールを支配しつつも、敵陣でプレーする時間は多くなかった。

 

(写真:強烈なタックルを見舞った南アフリカ。日本の1.5倍のタックル数を記録した Photo by Richard Heathcote-World Rugby via Getty Images)

 後半はスプリングボクスが堅実な戦いぶりを見せた。4分にポラードがPGで加点。9分にはスクラムでペナルティーを獲得すると、再びポラードがPGを決めた。正確無比のプレースキッカーを擁するスプリングボクスに1トライ1ゴールでは追いつけない点差をつけられた。

 

 24分にもPGで得点を加えたスプリングボクスは得意とするセットプレーで圧力をかけてきた。身長2m超えが3人もいるFW陣は空中戦で威力を発揮。26分、ラインアウトからのモールで距離を稼がれた。最後は途中出場のHOマルコム・マークスが突破。フォローしたデクラークにトライを奪われた。

 

 29分に敵陣でジャパンボールのラインアウトを獲得するが、HO堀江翔太のスローインは相手に奪われた。その後はカウンターからマピンピに左サイドを破られ、ダメ押しのトライ。残り10分で3-26と厳しい現実を突き付けられた。

 

 4万8331人が詰め掛けたスタジアムからジャパンコールが響き渡る。ジャパンの反撃を待ったが、このままノートライでノーサイド。スプリングボクスが準決勝へと駒を進め、ジャパンの挑戦はベスト8で終わった。

 

 凱歌を上げることはできなかったが、この敗戦がジャパンの功績を消し去るものではない。アイルランド、スコットランドというティア1を撃破し、初の決勝トーナメント進出を果たした。歴史を塗り替えたチームをジョセフHCは「日本チームを誇りに思っている。出ていない選手も含め皆が協力してくれた」と称えた。

 

 その想いはキャプテンのFLリーチ・マイケルも同じだ。

「キャプテンとして誇りに思っている。3年前からONE TEAMで勝つためにすべてをやってきた。ただ南アフリカが素晴らしかった」

 

 ジャパンを賞賛する声は外からも聞こえてきた。敵将のエラスマスHCは試合後の記者会見終了直前に自ら切り出した。

「日本のパフォーマンスを誇りに思ってください。ティア1のスコットランド、アイルランドがいるのにトップで通過した。日本のラグビーはいい状態にある」

 

 試合後の円陣でキャプテンはチームメイトたちにこう語りかけたという。

「下を向く必要はない。胸を張っていい」

 勇敢な桜の戦士たちはここで大会を去ることとなった。リーダーの言葉通り、下を向く必要はない。新たな歴史をつくったジャパン。胸を張り、次への一歩を進めてほしい。

 

(文/杉浦泰介)