16日、IBSAブラインドサッカー世界選手権が東京・国立代々木競技場で開幕し、グループリーグA組の2試合が行われた。開催国の日本代表はパラグアイ代表を1−0で下して白星スタートを切った。日本は体格で勝るパラグアイの力強い攻撃に押し込まれる時間が続いたものの、落ち着いた守りでゴールを許さない。すると前半20分、カウンターからMF黒田智成がゴールを決め、1点リードして試合を折り返した。後半もパラグアイにボールを支配されたが、的確な指示を出すGK佐藤大介を中心に固い守りを継続。一方で、カウンターからシュートチャンスを迎えるなど、主導権を渡すことはなかった。日本は3回目の世界選手権出場で初の勝ち点3。次は18日にモロッコ代表とグループリーグ第2戦を戦う。

 黒田、値千金の決勝弾(代々木)
日本代表 1−0 パラグアイ代表
【得点】
[日本] 黒田智成(20分)
「8年前は初の世界選手権で、右も左もわからないまま、ほとんど試合の内容も覚えてないくらい、一杯一杯で試合をしていた」
 黒田は初出場した06年世界選手権をこう振り返った。世界での戦い方が右も左もわからなかった男は8年後、06年世界選手権3位の強豪・パラグアイから試合を決めるゴールを奪った。

 日本は前半5分、パラグアイのリカルド・ルイス・ビジャマジョル・ペラルタに左サイドを突破され、ゴール左45度の位置からシュートを打たれた。しかし、これはGKの正面をついて事なきを得た。

 リカルドを中心に攻め込んでくるパラグアイに対し、日本はカウンターからチャンスをつくりだした。6分、黒田が右サイドでボールを奪うと、そこから中央にカットインして左足でシュート。これはゴール右に外れたが、黒田は8分にもドリブルからGKの正面をつくシュートを放つなど、調子の良さをうかがわせた。

 すると20分だった。自陣右サイドでボールを奪った黒田が、スピードに乗ったドリブルで攻め上がる。黒田は中央に切れ込み、ゴール正面から左足を一閃。シュートは横っ飛びしたGKの手をかすめてゴール右下へと決まった。黒田の見事な個人技に観客席から大きな歓声が上がった。
「こぼれ球を拾って、速いドリブルからのシュートというのは自分の得意な攻撃。(ゴールは)ドリブルから左にかわして左足でのシュートで、イメージしたとおりだった。ちょっと遠目からのシュートだったので、蹴った瞬間は入ったかどうかはわからなかったが、会場の大声援が聞こえてきて、入ったと確信した」
(写真:ゴール後、左胸を叩いて喜ぶ黒田)
 
 黒田はこう得点シーンを振り返った。日本は先制後の24分、FW落合啓士が敵陣でのボールカットからシュートを放った。これはGKに弾き出されて追加点とはいかなかったが、リードして試合を折り返すことに成功した。

 後半の立ち上がり、日本は攻勢を強めたパラグアイに立て続けにシュートを打たれた。この状況を受けて魚住稿監督は後半6分に落合を下げてDF佐々木ロベルト泉を投入。また、直後にタイムアウトを要求した。
「後半の立ち上がりが不安定になってしまってバランスが崩れたシーンがあったので、早めにタイムアウトをとった。そこでロベルトを入れて、1回中盤を落ち着かせようとした」
 指揮官は交代と早い段階でのタイムアウトの意図をこう明かした。この後、日本はGK佐藤の指示で連動して守備組織を保ち、パラグアイにボールを支配されるもシュートは打たせない。

 逆に前がかりになったパラグアイのスキをついて、黒田やMF川村怜がドリブルで攻め上がってチャンスをつくった。20分、黒田が左サイドから中に持ち込んで打った右足のシュートがクロスバーを直撃。惜しくもゴールにはならなかったものの、豪快なプレーにスタンドから歓声が起こった。
(写真:黒田<左>は後半も積極的にドリブルを仕掛けた)

 その後、日本は前線でボールをキープするなどしてうまく時間を使うと、ついに試合終了のブザーが鳴り響いた。黒田は両手を突き上げ、日本初の世界選手権での勝ち点3を喜んだ。
「自分は13年、ブラインドサッカーをやってきて、今まで公式戦でアジア以外のチームに勝ったことは1回しかなかった。今回、パラグアイという南米のチームに勝ったことで、世界としっかり戦える自信を持てた」
 黒田はかみしめるようにしてこう述べた。疲れがたまった後半は、パラグアイに攻勢を強められる展開となった。しかし、黒田が「(相手に)攻めさせている、余裕をもってディフェンスしているという気持ちでプレーできた」と語るように、日本が焦ることはなかった。8位に終わった06年大会は勝ち点1、7位だった10年大会は勝ち点2を得るにとどまった。その意味で、初戦で得た勝ち点3は日本の成長の証だろう。

 次戦は世界選手権初出場のモロッコと対戦する。黒田は「しっかりしたディフェンスから攻撃をかたちづくっていく日本のスタイルを確実に積み重ねていって、世界のトップと肩を並べられるようにもっとレベルアップしていきたい」と意気込んだ。日本は連勝すれば決勝トーナメント進出に大きく前進する。

(文・写真/鈴木友多)