第109回 体験会を「もったいない」にしないために
STAND主催のパラスポーツ体験イベント「みんなのスポーツinこまつ」(於:イオンモール新小松)を10月12日に開催しました。「スポーツで地域を笑顔に」を掲げ、車いすハンドボールとボッチャの体験などを実施。約1300人の方に来場いただきました。
体験会の目的は「スポーツを通して笑顔あふれる"みんなの"共生社会をつくろう」というものです。今回はこうした体験会開催にあたって私が心がけていることについて書きます。
たとえばボッチャ体験会は各地で行われています。それはなぜかというと、ボッチャは道具も安く、プレーする場所を選びませんし、準備や設営が簡単です。練習なしでも誰もがすぐプレーでき、初心者でも勝敗が成立する。しかも面白くて盛り上がるからです。ですから体験競技として多く選ばれています。ボッチャが他の競技より、共生社会への意識を高めるのに有効だから、が理由ではありません。
もっと掘り下げて言えば、競技の体験をするだけでは、現実には参加した人たちは「ボッチャが面白かった」「興奮した」「すごく戦略的だ」などの感想を持つことで満足してしまいます。パラスポーツなんだということに少し触れたとしても、「体験したことがある=共生社会への第一歩」のモデルに疑問を抱かずに、なんとなく前進した感じを持ったり、あるいはやったことがあるから自分は理解が進んでいると感じてしまいます。これは、実にもったいないことです。
先日、ある高校でボッチャの体験会を実施しました。体験の前に、ボッチャの選手についてこんな話を披露しました。普段は24時間介助が必要なその選手のプロフィールには、「僕はこの競技をやっている時だけが人と対等でいられる」と書かれてありました。普段、他人の介助なしでは生活することができない彼が、ボッチャをやっている時だけは自分の判断、指示でやれる。それがこのボッチャの魅力である、と。さらに他の選手の話も紹介しました。彼はやはり重度の障害があり、「中学までスポーツは見るというカテゴリーになってするものだとは思ったことがなかった。それが高校に入ってボッチャを知ったら、"する"のカテゴリーに入ってきた。ボッチャに出合うまでは、自分はスポーツとは縁がないと思っていました。スポーツはただ見るだけのもの、と。でもボッチャと出合って変わりました。僕はスポーツをやっているんです。そしてその楽しさが分かりました。喜びを感じています」と。こうした話をしたあとにボッチャを体験すると、「面白かった」だけではない感想を持ってくれます。
同様に体験会で、障害のある人と一緒に遊び、スポーツを楽しみ、パラスポーツや障害を身近に感じたら、次の段階として以下のような説明も盛り込んでいます。
・できることやできないこと。これまで気がつかなかったことに想像力を働かせてもらう。
・障害のある人を見かけたらひと言声をかけてみる。
・医学モデルから社会モデルへを理解し、頭を切り替えて、その目でものを見ることを始める。
さらに、体験会の準備の段階でも「共生社会」のための気付きは山ほどあります。地元の方と一緒に準備を進めていると、「あら、こんなところに段差があったわ」、「駐車場からどうやってここまで来たらいいのだろう」、「じゃあ駅からは?」など、これまで気付かなかったことがたくさん現れます。車いす利用者のために事前に他のルートを案内するだけで解決することや、一枚の板を買ってくるだけで解決できること、事前に会場の人にお願いしておくだけで済むことも実に多くあります。パラスポーツの体験会はこのように実社会を変えるためにも実施しているのです。
「2020年はゴールではない。今やっていることはその先の社会を変えるためのきっかけなのだ」と、たくさんの人が体験会などを行います。それが楽しかったで終わってはもったいないと思うのです。
今月も来年も体験会を企画しています。多くの人々が関心を寄せてくださる間も、そして誰も振り向かなくなっても、共生社会実現のための活動は続くのです。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>