“ミスター赤ヘル”こと山本浩二は広島黄金期の主砲として、5度のリーグ優勝と3度の日本一の原動力となった。監督に就任後も、1991年に広島をリーグ優勝に導いている。今季、広島は黒田博樹の復帰で戦力が充実し、91年以来となるリーグ制覇に向けてファンの期待度は高い。24年ぶりの歓喜を現実のものとするには何が必要なのか。広島ですべての優勝を知る男に、二宮清純がインタビューした。
(写真:「緒方(新監督)は、いい厳しさを持っている」と語る)
二宮: カープ黄金時代の幕開けとなったのが、75年の初優勝です。「今年は行けそうだ」という手応えはあったんですか。
山本: ない。だって、優勝経験がないんだもの。優勝の「ゆ」の字もわからん。あの年も「カープはこいのぼりの季節まで」と言われとったのが、6月になっても首位争いをしていた。7月、8月とガムシャラにやって、8月の終わりにひょっとしたら優勝できるかも、とチーム全員が思い始めた。そうするとプレッシャーがかかってくる。「誰か、何とか打ってくれ」と思い始めるわけや。オレが打てなかったら、キヌの打席で「何とかしてくれ」と願う。そういう皆の気持ちが重なってくると、余計にプレッシャーがのしかかってくるんよ。だからこそ、優勝した時の喜びは半端じゃなかった。最後の最後で勝ちとった感激は、その後の優勝の何倍もあったね。

二宮: この年のカープは、宮本幸信さんや渡邊弘基さん、大下剛史さんらを補強し、新しい血を入れました。これがチームを活性化させたのでは?
山本: それはあるな。あと、チームがひとつにまとまる出来事もあった。当時、先発は外木場(義郎)さん、池谷(公二郎)、佐伯和司とか4人くらいやった。それで負けが込んでピッチャーもいない時に、帰りのバスの中で古葉(竹識)監督が、「明日は永本(裕章)を投げさす」と言ったんよ。永本はほとんど実績のないピッチャー。名前が出た瞬間、全員が「ワー!」となった。「よし、明日は絶対打って勝ってやろうじゃないか」と気持ちがひとつの方向に向いた。それで実際に勝ったのがひとつの転機になった気がするな。

二宮: その後、浩二さんは79年、80年、84年の日本一を経験。現役最終年の86年にもリーグ優勝しています。現時点で広島最後の優勝となっている91年も浩二さんが監督でした。この年は4番バッターがいなくて苦労していましたよね。
山本: そうよ。ゲーム前、相手のピッチャーが右か左かで4番が変わるんやから、そんな状態で優勝したチームはないやろ。西田(真二)、外国人の(ロッド・)アレン……。4番というより、4番目のバッターやったな(苦笑)。

二宮: それでも優勝できた要因は何だと思いますか。
山本: あの年は津田(恒実)のために、皆が頑張った。4月の巨人戦で打たれて、「ちょっとしんどいから、2軍に落としてくれ」と言ってきた。「何を言うとるんだ」と話をしたんだけど、トレーナーが心配して病院で診てもらったら脳腫瘍やった……。津田は皆から愛されている選手やったから、「ツネのために優勝しよう」というのが全員の思いやったんよ。

二宮: 当初は津田さんとダブルクローザーの構想だった大野豊さんも大車輪の働きをみせました。
山本: 大野を抑えにしたのはは津田の調子が悪くなる前。先発で結果が出なかったんで話をして後ろにしようと決めていた。もうひとり最後を任せられるヤツがおったのが結果的には良かったね。。

二宮: 浩二さんは北京五輪で日本代表のコーチ、WBCでは代表監督も務めました。ただ、残念ながら、金メダルや優勝にたどりつくことはできませんでした。
山本: 北京は悔しかったね。あの時はセン(星野仙一)とブチ(田淵幸一)で同じユニホームを着られたらいいなという夢が実現した。でも、センもブチも親友であり、ライバル。たとえ監督とコーチの関係であっても、ライバルには負けたくないんよ。ブチはバッティングしかできんから、守備走塁をやるしかない。だから、自分のテリトリーである守備と走塁で、いいチームをつくってセンに渡したかった。五輪予選前には守備の練習法などをカープのコーチに聞いたり、ノックを打てるようにジムに通って体力つけたりしてな。練習メニューは全部、自分で決めとったんやから。

二宮: 星野さんや田淵さんからから「さすが浩二」と思われたかったと?
山本: そうそう。で、予選の勝ち方はものすごく盛り上がった。台湾戦ではノーアウト満塁からのスクイズが決まって、サインのやりとりも阿吽の呼吸でできて良かった。ところが五輪本番はシーズン中の夏場。前半戦を戦って故障者も出とったし、調子の悪い者もおった。しかも、調整期間は短い。センとも「ちょっとヤバイな」と言いながら北京に行ったんよ。これは言い訳になるけど、もうちょっと早く選手を集めて時間を設けてくれたら、また違う答えが出たかもしれん。

二宮: WBCも2次ラウンドの台湾戦では起死回生の同点打から逆転したり、劇的な勝利もありましたが……。
山本: メジャーリーガーが出られんから、大会前はベスト4でアメリカに行くことを目標にしとったんよ。皆で戦おうとコミュニケーションをとりながら、あの台湾戦で本当にひとつのチームになれた。あの時は、ひょっとしたら、このチームなら優勝できるかもわからんと感じたよ。まぁ、最後は残念やったけど、いいチームができたんやないかな。充実した短期間を過ごせたと思うとる。

二宮: さて、今季はカープが久々に優勝するかもしれないと広島の街は開幕前から熱気を帯びています。
山本: 確かに戦力はボトムアップしてきとるから楽しみよ。ただ、いくらいい選手がおっても、最終的に大事になるのは個の力やない。繰り返しになるけど、皆がひとつになることが優勝の第一条件。全員のまとまる出来事や試合を、どこでつくれるか。必ずポイントとなるタイミングがあるはずやから、その時に自然とチーム一丸となれるかどうか。選手もファンも、ボールひとつに集中して追っかけるような雰囲気になることが大切やろうな。

<現在発売中の『FLASH』(光文社)3月31日号ではさらに詳しい山本浩二さんのインタビュー記事が掲載されています。こちらも併せてご覧ください>