またひとり、楽しみな選手に出会えた。愛媛県西予市出身、法政大学体育会陸上競技部に所属する清家陸と話した時に抱いた印象である。落ち着いていて、将来のこともきちんと考えている。淡々と受け答える中にも、負けず嫌い一面が垣間見える。柔らかな笑顔の裏には、絶対に目標・目的を達成するという強烈な意志を隠し持っている。先日のインタビューを通じて感じた。

 

 

<2020年3月の原稿を再掲載しています>

 

 4月で大学3年生になる清家は驚くほど自分を客観視し、自己分析をする。彼にランナーとしての長所を聞くと、こう答えた。

「距離が長ければ長いほど、得意なタイプです。ハーフマラソンや10000mが得意ですね。自分でリズムをつくって走れるので集団でなくても、単独で走るのも苦手ではないですよ」

 

 法政大学陸上部・坪田智夫監督に清家の長所を訊いた。

「目的や目標を自分で作って練習に取り組めるのが彼の長所。今年の2月、青梅で行われたマラソンでも実業団の選手と互角以上に戦えました。そして、頭を使った陸上ができるのが彼の一番の魅力じゃないかなと思うんです」

 

 清家はこの2月、青梅マラソン(30㎞)に招待選手として出場した。結果はプロランナー川内優輝を上回る6位、1時間32分52秒と好タイムでフィニッシュした。

 

 清家の特長について、坪田駅伝監督は続けた。

「彼はスピードがあるタイプではないが本当に賢く、頭がいい。頭がいいというのは、自分の強みと弱みをしっかり把握していることが第一条件。そして、スピードがないから勝てないと諦めるのではなく、弱みを消しながら勝つにはどこで勝負を仕掛ければいいのかをきちんと判断できる。トラックを走るより駅伝やロードレースの方が強みを発揮しやすいんじゃないでしょうか。自分の力、レース展開、残りの体力……そういった様々なことを考えながら走れるのが清家なんです」

 

 緩急を操るピッチャーのよう

 

 清家自身もレース中の駆け引きは「楽しい」という。彼は身体的な能力にそれほど恵まれているタイプではない。単純なスピード勝負になると分が悪いのは事実だろう。しかし、レーステクニックで勝算をあげていく。

 

 野球にも似た例がある。ストレートの最速が速ければそれに越したことはない。だが、スピードガンに表示される数字だけが全てではない。ならば、どうするか。今、自分が出せるマックスの速度を“速く見せる”にはどうするかを考えるようになる。さほど球速が速くないのにもかかわらず、熟練の技を駆使し、打者を打ち取る姿は妙にひきつけられる。技で魅せる投手が好みのファンも多いことだろう。

 

 清家の走りは緩急を巧みに操る野球の投手に見える。展開により、このままのペースを維持し、相手を振り切るためにここぞとばかりにペースをあげる。それが彼のペースなのだ。

 

 彼に興味が湧いたのは誰を取材対象者にしようかと、大学陸上の自己ベスト記録が記載された本を見ていた時だった。彼の5000mの記録は14分38秒21。法政大学には清家より速い記録の持ち主はたくさんいる。ところが、である。10000mになると、上位にくいこむのだ(29分34秒09)。

 

「5000mくらいだとちょっと、清家の良さを出すには短いのかもしれません(笑)」と坪田駅伝監督。玄人好みの走りを見せる大学生はいかにして、陸上の世界に引き込まれていったのだろうか。

 

(第2回につづく)

 

<清家陸(せいけ・りく)プロフィール>

2000年3月15日、愛媛県西予市生まれ。小学6年時、自身で早朝にマラソンの練習をしたことがきっかけで長距離に興味を持つ。中学から陸上部に所属する。2015年、愛媛県立八幡浜高校に入学。徐々に頭角を現し、中心選手となる。2018年、法政大学陸上部に入学。2019年度の3大駅伝(全日本、出雲、箱根)を走った。身長163センチ、体重49キロ。

 

(文・写真/大木雄貴)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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