ボクシングのダブル世界タイトルマッチが22日、大阪府立体育会館で行われ、WBA世界フライ級では同級3位の井岡一翔(井岡)が王者のフアン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)に2−0の判定で勝利し、日本人2人目の3階級制覇を達成した。日本ボクシングコミッションによると、プロ18戦での3階級制覇は、ジェフ・フェネクの20戦を抜き、世界最速となる。またIBF世界ミニマム級タイトルマッチで、日本人では初めて主要4団体制覇を果たした王者の高山勝成(仲里)が同級9位のファーラン・サックリン・ジュニア(タイ)を3−0の判定で下し、初防衛に成功した。高山は試合途中、偶然のバッティングによって出血がひどくなり、9R2分19秒でドクターストップ。この時点までの判定でベルトを守った。
<井岡、「過去を変えた」悲願達成>

 勝利の瞬間、歓喜の涙を流した。3階級制覇に4度挑戦しながら果たせなかった叔父・弘樹氏も泣いていた。
「3階級、獲ったぞ」
 ベルトを手にし、リング上で叫んだ。

 昨年5月、3階級制覇を狙ったIBF世界フライ級王者アムナット・ルエンロン(タイ)戦では、老獪な相手を攻めきれず、プロ初黒星を喫した。
「サラブレッドと言われてきたけど、負けてから積み重ねてきたものが音を立てるように崩れていった」

 2階級制覇王者の甥としてデビュー。プロ7戦目で当時の日本人最速となる世界王座(WBC世界ミニマム級)を獲った。12年にはWBA世界ライトフライ級のベルトを手にした。順風満帆だったプロ人生で初めて味わった挫折だった。

 再チャレンジの相手となった王者のレベコは8度防衛中。小柄ながらパンチ力があり、戦績は35勝(19KO)1敗を誇る。だが、強敵に対し、井岡曰く「地方馬となって」、やり直した1年の成果を出し切った。立ち上がりからジャブ、ボディと多彩な攻めで機先を制す。2Rにはカウンターの左フックを当て、王者をぐらつかせた。

 劣勢を感じたレベコが前に出て反撃を試みるも、うまくかわしながら、しっかりパンチを返す。ボディを交え、相手の体力を徐々に削った。終盤を迎えても表情に余裕のあった井岡に対し、王者の顔には焦りの色が見えていた。パンチが大振りになったところにカウンターでストレートをヒットさせ、アルゼンチン人に主導権を渡さなかった。

 互いに決定打は出せないまま試合を終え、ジャッジの判定は1者がドロー。ただ、2者が2〜3ポイント差で井岡を支持した。

 かつて井岡は「勝つことによって自分の過去を変えなきゃいけない」と語っていたことがある。
「周りの人たちが“あの時の負けがあるからこそ、今の井岡がある”と言ってくれるのであれば、それは過去が変わったことになるのではないでしょうか。負けたつらい過去が輝く大切な過去になる」

 試合後、カムバックした新王者は「どの試合よりもプレッシャーがあった」と明かした。同じ失敗は絶対に繰り返さない。強い決意で12Rを戦い抜いた26歳は、まさしく自らの拳で、つらい過去も輝きに変えた。

<高山、終始攻めて初防衛>

 プレッシャーをかけ、相手を追い詰めた王者だが、仕留める前に試合を止められた。
「これからだったんですけど残念です」
 両目上を赤く腫らし、高山にベルトを守った喜びも半減といった表情だった。

 偶然のバッティングで7Rに左目上、8Rに右目上を切った。出血は徐々にひどくなり、9R中に2度のドクターチェック。続行不可能とみなされた。

 ジャッジは3−0。ただ、その内訳は1者が王者にフルマークをつけた一方、1者は1点差と接戦だった。立ち上がりから手数で上回った高山と、カウンターでパンチを当てたサックリンのどちらを支持するかで見方の分かれる内容だった。

 とはいえ、終始攻めていた高山の勝利は妥当な結果だ。試合開始のゴングが鳴るや、右フックで相手に殴りかかる。左ジャブで先手をとり、ヒット&アウェイでリズムをつかんだ。身長、リーチで上回る挑戦者は懐に入ってきたところに拳を合わせようとするも、王者の圧力にロープを背負うシーンが増えてくる。

 高山はロープ際に相手を詰めると連打で相手を消耗させる。サックリンがウィービングをみせながら右アッパー、左フックで応戦しても、どんどん前に出て、上下にパンチを散らした。バッティングによる流血の事態もお構いなしに、ラッシュを仕掛けた。

 前回の試合で獲得し、返上したWBOの王座には来月、井上尚弥(大橋)を上回るプロ5戦目での戴冠を目指し、19歳の田中恒成(畑中)が挑む。田中がベルトを獲れば、王座統一戦の話題も出てきそうだ。本人には暫定王者止まりだったWBAの正規ベルト獲得や、階級を上げての複数階級制覇という目標もある。ボクシングの傍ら、高校にも通う31歳は夢を追い続ける。