新型コロナウイルスの感染拡大により私たちの生活様式は変わります。インターネットを使ったウェブ会議などもその例ですが、障害のある人には新たなハードルになることもあります。

 

 先日、視覚障害のある人とウェブ会議をした際にこんな話を聞きました。「ウェブ会議はどちらの方向からの発言がわからないからなかなか馴染めない」。リアルな会議の場合、「あっちに座っているのが誰、こっちに座っているのが誰」と空間認識をして臨むため、こうしたことは起こりません。ウェブ会議のパソコンのスピーカーから聞こえる音声だけでは方向性がとれず、とっさに誰の発言なのかがわからないことがあるそうです。

 

 ウェブ会議以外でもいろいろあるのではと聞いてみたところ、レジに並ぶ際の安全な距離、いわゆる「フィジカルディスタンス」がわからないと言います。間隔を示すテープが床に貼られていてもそれは見えにくいし、2メートル離れているかどうか、その距離がわからない。また困ったときにヒジや肩を貸してくださいというのも、「密」を避ける中では言いにくいそうです。総じて外出のハードルが上がってしまったとのこと。他にも体調が悪くなったときに病院など、どうしたらいいのか。また給付金などの各種申請書は紙の書類なので、うまく書けないことも悩みだとおっしゃっていました。

 

 また聴覚に障害のある人は、新型コロナウイルスに関する緊急の問い合わせはほとんどが電話なのが困った、と。最近はFAX対応も増えてきたようですが、最初のうちは電話のみの対応が多かったそうです。

 

 こうした声を聞いていて「同じだ」と感じました。何が「同じ」なのか。これまでの社会では何か新しいことを始めるとき、まず障害のない人向けに制度や仕組みがつくられます。そして一段落してから障害のある人"にも"適用するように、いわゆるバリアフリー化が行われてきました。最初は階段だけ造って後からスロープを設置するなどがその例です。緊急時の仕組みの作り方はこれと「同じ」になっているようです。近年は、最初から障害のある人のことも考えたユニバーサルデザインが大きく意識されてきました。しかし、こうした緊急事態では難しいことなんだと実感させられたのです。

 

 さて、これからの新しい生活様式では、ボランティアのあり方も変わってくると考えています。

 

 STANDで実施するボランティアアカデミーの人気講座は「コミュニケーションとおもてなし」です。車椅子編、視覚障害編があって、障害のある人に声をかけ、サポートする実習が好評です。当コラムでも以前紹介したように(第64回 ボランティアアカデミーの本当のねらい)、受講後は「障害のある人の気持ちが少しわかった」「講座の後、生まれて初めて街なかで障害のある人にお声がけして、駅まで案内した」との声を多数いただきます。共生社会へのきっかけとなる講座なのです。


 ボランティアには、様々な分野があります。災害ボランティア、福祉ボランティア、スポーツボランティアなど。このうちスポーツボランティアは参加する際のハードルが低いと言われています。ボランティアに興味があってもより知識や技術、経験が求められる他のボランティアと異なり、自信がない人でも一歩を踏み出しやすいカテゴリーです。スポーツボランティアに参加して何らかのやりがいや意義を感じて、他の分野のボランティアに参加することもあるでしょう。ボランティアアカデミーは、まずはスポーツボランティアをやってみたいと考えている人に参加してもらい、様々なボランティア活動へのきっかけになってもらいたいという側面もあります。

 

 緊急事態宣言が解除され、新しい生活様式が始まりました。これからフィジカルディスタンスの見直し、「密」を防ぐための接触回避などが当たり前になっていきます。そんな中、障害のある人へのサポートなども会話や接触に気を配りながら行っていくことになります。では一体その方法は? どうしたらいいのだろう? ボランティアのための接触方法や会話の仕方、新しい生活様式における新しいボランティアのあり方は? 新しい日常に向けてすぐに取り組むべき大きな課題です。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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