(写真:Shugo Takemi)

 緊急事態宣言が解除になり、世の中は「ウィズコロナ」に向け動き始めています。そんな中、テレビで「元に戻る日を楽しみにしています」「そろそろ元に戻りそうですね」という言葉をよく耳にしますが、これに違和感を覚えています。「元に戻る」という言葉を聞いたり、SNSで「元通りに早くならないかなー」なんて書き込みを見るたびに、心の中で「だから戻りませんよ!」といちいちツッコミを入れています。


 私は「元に戻る」ことから一旦離れた方が良いと考えています。コロナ前は果たしてベストだったのか? 戻ることが最善なのか。「戻るのではなく違うところに行くのだ」と考えた方が、「この方がいいんじゃないか」「これもいいんじゃないか」と新しい道が拓けるのではないのか。戻るのではなく、向きを変えて次に進む気持ちを持ちたい。そう考えています。

 

 プロスポーツの世界では、6月19日に約3カ月遅れでプロ野球が開幕しました。無観客試合をテレビで観戦すると、客席に原寸大の人型パネルが座り、ファンの顔写真や応援動画がビジョンに流れていました。得点が入りそうなチャンスの場面では、昨年の録音というスタジアムの応援音声が流れました。

 

 最初は「無観客」はどんなものなんだろうと構えて見ていましたが、テレビで観戦している限り、だんだんと違和感がなくなってきました。一方、サッカーやラグビーなどのリーグで構成する日本トップリーグ連携機構は無観客試合をリモートゲームと呼び、応援するサポーターはリモーターとなりました。「リモーター」への違和感がなくなる日も近いでしょう。

 

 見るスポーツだけでなく、する方のスポーツにも変化が起きています。ある企業がテレワークの在宅社員向けのヨガ教室を企画したところ、定員150人の枠がすぐに予約でいっぱいになったと聞きました。このヨガ教室は先生から一方通行で動画が送られてきて、それを見ながら自宅でワークアウトするというものです。双方向ではないのに大人気です。「見てヨガをするだけならDVDや動画サイトと同じなのでは?」と思ってしまいますが、参加した人によればDVDなどとは何かが違うといいます。在宅中、少しでも仲間とつながっていることで楽しみや安心感を得ているのかもしれません。

 

(写真:Shugo Takemi)

 選手同士の接触の少ない野球が開幕したことで、コートが分かれているスポーツ、たとえばテニス、バレーボールやゴールボール、他にはボッチャ、馬術競技などは少しずつ始められそうです。その中からいろいろな新しい開催方式が生まれてきて、やがて柔道やラグビーといったコンタクトスポーツの開催に役立つアイディアも出てくるはずです。

 

 STANDが主催するパラスポーツ体験会やボランティアアカデミーも、元通りではなくリモートなどを活用した新しいかたちでの開催を考えています。「椅子ひとつあれば画面越しでも車いすの実技ができるんじゃないかな」「密を避けながら2人1組で参加してもらえれば、あれもできる」と、新しい開催方法を模索している最中です。「元に戻る」のではなく「新しい場所へ進む」と考え、ウィズコロナの世の中でどんなことができるのか?私自身も楽しみでなりません!

 

 

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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