現地時間9日、水泳の世界選手権17日目、競泳最終日がロシア・カザンで行われ、男子400メー個人メドレー決勝は前回王者の瀬戸大也(JSS毛呂山)が4分8秒50で制し、金メダル獲得した。瀬戸は日本人初の連覇を達成し、来年のリオデジャネイロ五輪代表に内定。男子400メートメドレーリレー決勝は米国が2大会ぶりに優勝した。入江陵介(イトマン東進)、小関也朱篤(ミキハウス)、藤井拓郎(コナミ)、塩浦慎理(イトマン東進)の日本は6位入賞。上位12カ国までに与えられるリオ五輪出場枠を手にした。女子400メートルメドレーリレー決勝は中国が制し、赤瀬紗也香(日本体育大)、渡部香生子(JSS立石)、星奈津美(ミズノ)、内田美希(東洋大)で臨んだ日本は8位で入線したが、引き継ぎ違反により失格となった。トビウオジャパン(競泳日本代表の愛称)が今大会で獲得したメダルは4(金3、銀1)個。総数は前回のスペイン・バルセロナ大会から2個減ったものの、金メダル数は過去最多となった。
 最終日に魅せた“ダイヤ”の輝き

 派手なガッツポーズはない。王者はコースロープにもたれかかり、優勝を噛みしめているようにも映った。大一番に強い瀬戸が、日本人初の世界選手権連覇を成し遂げた。

 今シーズン世界ランキング2位の瀬戸は予選を全体3位で突破した。予選1位のチェース・カリシュ(米国)は前回大会の銀メダリスト。同2位のダビド・ベルラスト(ハンガリー)は今シーズン世界ランキング3位の強者だ。しかし、そのスタート台に瀬戸の盟友であり、ライバルの姿はいなかった。何度も直接対決をし、凌ぎを削ってきた萩野公介(東洋大)は直前の合宿で右ヒジを骨折し、欠場を余儀なくされた。瀬戸にとって「公介の分まで」という思いは強かったはずだ。

 ロシアに入ってからの道程は決して順風満帆ではなかった。昨シーズンは国内外の主要大会で無敗を誇り、今シーズンも世界ランキング1位で迎えた男子200メートルバタフライでは、メダルを期待される中、6位と振るわなかった。今シーズンベストは出場選手中トップの男子200メートル個人メドレーでは、準決勝敗退。決勝にすら進めず、「本当に苦しくて、あまりいいイメージができなかった」という。それでも「自分を信じることしかない。絶対にできると信じていた」と気持ちを奮い立たせた。そのまま気落ちせず、ポジティブな思考に持って行ける点も瀬戸の強みだろう。

「一発にかけてやろう」。瀬戸はスタートから積極的に仕掛ける。第1泳法、得意のバタフライの50メートルは25秒74。世界記録とほぼ同じペースで泳ぎ、2番手に身体半分の差をつけた。100メートルのターンでは、世界記録ペースからは離されたものの、依然としてトップをキープした。比較的、苦手としている背泳ぎでは、100メートルから150メートルの50メートルは全体2位の31秒95と健闘。残りの50メートルでロンドン五輪男子200メートル背泳ぎ金メダリストのタイラー・クラリー(米国)に差をつめられ、トップの座を奪われた。

 一度は先頭を許したものの、瀬戸は第3泳法の平泳ぎで一気に加速。すぐに先頭を奪い返すと、そのまま逃げ切り体勢に入った。身体ひとつ以上の差、1秒16のアドバンテージを持って、ラストの100メートル自由形をを迎えた。残りの力を振り絞って29秒49、29秒45とラップをまとめ、泳ぎ切った。2位のベルラストに1秒40の差をつける快勝。レース後、しばらくプールから上がれなくなるくらい力を出し切った。タイムは4分8秒50。一昨年、バルセロナで叩き出した自己ベストを、0秒19縮めてみせた。

 瀬戸は2大会連続の金メダル。これでリオ行きの切符を掴み取った。ロンドン五輪は、日本代表選考レースとなる日本選手権で、2種目(200メートル&400メートル個人メドレー)の派遣標準記録を突破しながら、いずれも3位でわずかに届かなかった。念願叶って、大舞台への挑戦権を得た。「公介と一緒に表彰台」。瀬戸は世界大会でのW表彰台の夢を何度も口にする。21歳の王者は、来夏、それを地球の裏側で実現させる。

 トビウオジャパン、過去最多の金3個!

 男女の400メートルメドレーリレーの決勝を終え、8日間行われた世界選手権の競泳競技が幕を閉じた。最終種目の結果は男子が6位入賞でリオ五輪の出場枠を確保。女子はゴールしたタイムは8位だったが、第2泳者の渡部香生子(JSS立石)の飛び出しが早く、引き継ぎ違反となり失格。今大会での五輪切符は獲得できなかった。

 今大会、トビウオジャパンのメダル獲得数は計4個。目標としていた計10個には届かず、前回大会からは2個減少した。決勝進出者は個人種目で延べ12人、入賞はリレーと合わせて15個。こちらも前回のバルセロナ大会からは9個も減った。前回7種目の入賞に貢献した萩野が欠場が大きかった。加えて、平井拍昌監督が大会前に語っていた「オリンピック前年と翌年の緊張感は天と地ほどの差がある」という点も考慮する必要があるだろう。

 それを踏まえれば、2年前との単純比較はできないが、ロンドン五輪の前年に行われた中国・上海大会はメダル計6(銀4、銅2)個の入賞23個だった。少し物足りないと見る向きもあるが、星(女子200メートルバタフライ)、渡部(女子200メートル平泳ぎ)、瀬戸(男子400メートル個人メドレー)の3人が金メダルを獲得。これは過去最高の数字である。中でも渡部は200メートル個人メドレーで銀、100メートル平泳ぎで4位と個人3種目で結果を出した。女子のエース格に成長したと言っていいだろう。

 会心の泳ぎを見せた選手の一方で、金メダル獲得を期待されたキャプテンの入江、世界記録を狙いにいった小関は表彰台に上がれなかった。いずれも100と200で入賞は果たしたが、得意の200メートルでメダルすら獲れなかったダメージは大きい。2人とも序盤から積極的に飛ばし、勝負を仕掛けたが、後半にかわされると最後は粘ることができなかった。入江は「悔しさしかない」と表情を強張らせれば、小関は「力不足。決勝でタイムを落とすようでは戦えない」と唇を噛んだ。

 大会全体を振り返ってみると、競泳大国の米国の強さが際立っていた。メダル獲得総数はオープンウォータースイミングを除いても計30(金11、銀13、銅6)個と他を圧倒した。18歳のケイティ・レデッキーは史上初の個人自由形4冠(女子200メートル、400メートル、800メートル、1500メートル)を達成。うち3種目で世界新記録を更新する異次元の存在だった。男子200メートル個人メドレーでは、ライアン・ロクテ(米国)が4連覇を成し遂げるなど、“ゴールドコレクター”の健在ぶりを発揮した。

 そのほか前回の個人メドレー2冠女王のカティンカ・ホッスー(ハンガリー)は今年も2冠を達成。ホッスーは200メートル背泳ぎでも銅メダルを獲得するなど、3個のメダルを首に掛けた。男子自由形の孫陽(中国)も800メートルで3連覇。400メートルも制し、自由形2冠を手にした。男子50メートル&100メートル平泳ぎ世界記録保持者のアダム・ピーティ(イギリス)も平泳ぎ2冠、女子バタフライのサラ・シューストロム(スウェーデン)、背泳ぎのエミリー・シーボーム(オーストラリア)ら実力者がタイトルを複数獲得し、力を見せつけた。

 リオ五輪までは、あと1年――。ロシアで見せつけられた世界との力の差をどこまで縮められるか。この大会ではやや低空飛行気味だったトビウオジャパンが、高く舞うための時間は決して多くない。

 主な決勝結果は次の通り。

<男子400メートル個人メドレー・決勝>
1位 瀬戸大也(JSS毛呂山) 4分8秒50
2位 ダビド・ベルラスト(ハンガリー) 4分9秒90
3位 チェース・カリシュ(米国) 4分10秒05

(文/杉浦泰介)