東京オリンピックを目指す水上のスプリンターがいる。愛媛県競技力向上対策本部に所属するカヌースプリント日本代表の多田羅英花だ。香川県出身の彼女は、県勢初のカヌーでオリンピック出場を目指し、冬に入った今もトレーニングの日々だ。

 

 多田羅自身、「私は毎日乗っていないと感覚が鈍ってしまうタイプです」と口にする。

「今取り組んでいるテクニックを無意識レベルで出せるようにしたい。極めたかたちでレースを迎えたいと思っています」

 元々、コツコツ積み上げていくタイプだ。多田羅は「努力することは苦じゃないです」と自己分析する。

 

 カヌー競技は激流を下りながらゲートを通過するスラロームと、湖などの静水面に設けられた直線コースのタイムを争うスプリントの2つに分けられる。カヌーの形状によってカヤック、カナディアンと種目が分かれ、1人乗り(シングル)、2人乗り(ペア)、4人乗り(フォア)がある。多田羅の乗るカヤックはデッキ部分が閉じられている艇に乗り、左右両方にブレードのついたパドルを回転させて水をかき、前へ進む。

 

 万能型スプリンター

 

 多田羅が東京オリンピックで出場を目指すのはカヤックシングル500m。 3月に香川県府中湖で行われた代表選考会で同種目の1位となり、アジア予選への出場権を獲得した。当初の予定では今年4月にタイで開催されるはずだったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、予選は中止。東京オリンピックが1年の延期となったことを受け、アジア予選は来年3月開催となった。このアジア予選で優勝すれば、文句なしで東京オリンピック代表に内定する。

 

 女子カヤックシングルのトップ選手は2分たらずで500mを漕ぎ切る。約2分間の航路を多田羅は「ライバル選手との駆け引き、風の状況を見て、仕掛けるタイミングをいろいろ考えながらレースをしています」と語る。3月の代表選考会では後半追い込み型、9月の日本選手権では先行逃げ切り型のレース展開を見せた。「特別パワーがある方ではありませんが、“できないな”と苦手とすることもありません」。その意味では万能型と言えるかもしれない。

 

 中学から競技を始め、3年時に全国制覇(フォア)、高校3年時の国民体育大会(フォア)でも優勝した。大学時代は数々のタイトルを手にしてきた。国際大会でメダルを獲得したこともある。だが順風満帆な競技人生を送ってきたわけではない。ここまでの航路は、彼女にとって波あり、逆風ありだった――。

 

(第2回につづく)

 

多田羅英花(たたら・ひでか)プロフィール>

1992年9月2日、香川県坂出市生まれ。中学からカヌーを始める。白峰中3年時に全国優勝。高瀬高3年時でジュニアの日本代表、武庫川女子大学2年からはシニアの日本代表に選ばれている。大学3、4年時には全日本大学選手権で複数種目を制し、2年連続MVPを獲得した。18年にインドネシア・ジャカルタでのアジア競技大会カヤックペアで銅メダルに輝いた。今年3月の国内代表選考でカヤックシングルで1位に入り、東京オリンピックの出場権をかけたアジア予選の代表入りを果たした。9月の日本選手権では同種目で初優勝。身長158cm。

 

(文/杉浦泰介、写真/本人提供)

 

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