3日、第97回東京箱根間往復大学駅伝競走は、神奈川・芦ノ湖から東京・大手町までの復路5区間(109.6km)で行われ、往路3位の駒澤大学が10時間56分4秒で13年ぶり7度目の総合優勝を達成した。往路優勝の創価大学は52秒差で2位。9区までトップを守ったが、土壇場で逆転を許した。3位は4分52秒差で東洋大学が入った。往路12位と大きく出遅れた前回王者の青山学院大学は復路を制し、4位に浮上した。最優秀選手賞にあたる金栗四三杯は、2区で区間新記録を樹立したイェゴン・ヴィンセント(2年)が受賞した。

 

 上位10校までに与えられるシード権は東海大学、早稲田大学、順天堂大学、帝京大学、國學院大学、東京国際大学までが手にした。帝京大は4年連続、國學院大は3年連続、東京国際大は2年連続のシード権獲得。11位の明治大学は2年連続のシード権獲得はならなかった。

 

 総合順位は以下の通り。

 

(1)駒澤大(2)創価大(3)東洋大(4)青山学院大(5)東海大(6)早稲田大(7)順天堂大(8)帝京大(9)國學院大(10)東京国際大(11)明治大(12)中央大(13)神奈川大(14)日本体育大(15)拓殖大(16)城西大(17)法政大(18)山梨学院大(19)国士舘大(※)関東学生連合(20)専修大

※OP参加のため順位なし

 

 今年の箱根は、昨年8位の駒大と同9位の創価大が、白熱の優勝争いを展開した。アンカー10区での大逆転劇。軍配は名門・駒大に上がった。一時はトップ創価大との差から「“ちょっと無理かな”という思いもありました」と駒大の大八木弘明監督も白旗を上げかけたが見事にひっくり返した。

 

 往路は創価大がまさかの優勝。榎木和貴監督も「予想していなかった」と驚く番狂わせが起こった。波乱の前半戦から一夜明け、早朝の箱根の山を下る6区がスタートした。逃げ切りを図る創価大は濱野将基(2年)、追いかける東洋大は九嶋恵舜(1年)、駒大は花崎悠紀(3年)を起用した。

 

 濱野、九嶋、花崎はいずれも初の箱根駅伝となったが、明暗分かれた。濱野は58秒49で区間7位と粘りの走りでトップをキープ。花崎は57分36秒と6区歴代3位の力走で2位に浮上し、創価大との差を1分以上縮めた。九嶋は区間14位の1時間0分5秒と苦しみ、2位から4位に落ちた。

 

 ここから優勝争いは逃げる創価大、追う駒大というかたちにほぼ絞られた。トップの創価大は小田原中継所で1分以上の貯金を吐き出したかたちとなったが、平塚中継所ではその差を広げた。4年生の原富慶李は序盤、駒大1年の花尾恭輔に差を詰められたものの、安定したピッチで走り続けた。終わってみれば原富は区間2位、1時間3分12秒の好走で、2位・駒大との差を43秒広げた。1分51秒差で8区の永井大育(3年)に襷を繋いだ。

 

 2分近いアドバンテージをもらった8区の永井は区間8位の1時間5分10秒でまとめた。5人が区間6位以内で走った往路ほど際立っていないが、復路も大崩れしない安定感を見せた。区間4位の1時間4分48秒をマークした駒大の佃康平(3年)に差を詰められたものの、22秒にとどめた。

 

 1分29秒差で迎えた復路の最長区間23.1kmを走る9区は創価大の石津佳晃(4年)と駒大の山野力(2年)。1万mとハーフマラソンのベストタイムはいずれも山野が約1分速い。追う駒大にとってはアンカー勝負に持ち込むため、ここでどれだけ差を詰められるかがカギだった。

 

 駒大にとって見えそうで見えない創価大の背中。7.8km地点の権太坂通過の時点では2分以上の差が開いた。区間6位の1時間10分4秒で駆けた山野に対し、上級生の石津がそれを上回る走りを見せたのだ。

 

 2年連続で9区を任された石津は、権太坂、横浜駅を区間新ペースで駆け抜けた。ラストランに位置付けた箱根で「楽しんで走ることができた」と、トップに立つプレッシャーも感じさせぬパフォーマンスを見せた。惜しくも13年ぶりの区間記録更新とはならなかったものの、歴代3位の1時間8分14秒をマークし、初の区間賞を獲得した。

 

 駒大との差を3分以上に広げ、総合優勝をほぼ決定付けたかに思われた。しかし“勝負は下駄を履くまでわからない”とばかりに劇的なドラマが待っていた。アンカーの10区は、鶴見中継所からゴールの大手町までの23.0km。陽の光を浴びながら小野寺勇樹(3年)は1km3分を超えるペースで走った。徐々に表情も険しくなる小野寺。ペースは一向に上がらない。

 

 その間、駒大・石川拓慎(3年)が涼しい顔で小野寺を猛追。5.9km地点の蒲田で2分45秒差、13.3km地点の新八ツ山橋で1分57秒差と詰めていく。18.1km地点の御成門でその差は1分を切り、20km手前で小野寺の背中を視界に捉えた。

 

 ペースの衰えない石川が小野寺に追いついた。21km手前でついに首位交代。そこから一気に突き放した。監督車から「やったよ! オマエは男だ!」と称えた大八木監督の声に右手で応えた石川。藤色の襷を誰よりも速くフィニッシュテープに届けた。駒大は2008年の84回大会以来、7度目の優勝を果たした。今シーズンは全日本大学駅伝対校選手権大会に続く2冠を達成した。

 

「去年は悔しい思いをした。同じ区間で“やってやろう”と思い、ゴールテープに向かって走りました」と石川。昨年は10区7位の男が、3分19秒もあった差をひっくり返す見事な逆転劇を演じた。駒大は石川を含む復路に起用した3人の3年生が大活躍。大八木監督も「3年生に救われた」と振り返った。殊勲の石川は「3年生が“谷間の世代”と言われてきた中で奮起してくれた。自分も“やってやろう”というふうに思えた」と語った。

 

 今回の箱根を走った4年生は1人。そのほかの9人は来年度も残る。2区を走ったエースの田澤廉(2年)、5区を走った鈴木芽吹(1年)など下級生に実力のある選手を揃えるだけに、箱根制覇に貢献した3年生たちと令和の黄金時代を築けるか。4月から最上級生となる石川は「箱根駅伝だけではなく他の駅伝もすべて優勝を狙っていく」と意気込んだ。

 

 2位の創価大は惜しくも総合優勝には届かなかったが、4度目の出場で初の往路優勝、過去最高の総合2位と大躍進を遂げた。今シーズンまでの“無印”から他校にマークされる存在へ。2年連続で箱根を好走した嶋津雄大(3年)を中心に上位定着を狙っていく。

 

 優勝候補に挙げられていた青山学院大は復路優勝で意地を見せた。シード圏外の12位からスタートして4位まで巻き返した。昨年9区、全日本7区で区間賞を獲得した主将の神林勇太(4年)をケガで欠いたものの、層の厚さをアピールした。昨年はシード圏ギリギリの10位に終わった東洋大も3位に入った。

 

 昨年の箱根から新興校の躍進が目立つ大学駅伝界。そこに駒大をはじめとした名門が復活してきた。来シーズンも“まさか”の展開が待っているかもしれない。混戦必至の覇権争いに注目したい。

 

(文/杉浦泰介)