前回、ぷよぷよで確かに1勝しましたが、その後、勝てません。上手になりません。攻略本をお薦めくださる方もいらっしゃるのですが、どうも攻略本というのは取扱説明書、ガイド本の類に思えるのです。これらが苦手で、そんな思い込みもあって攻略本を手にすることもありません。


 そんな年末のある日のこと、知人Kさんから連絡がありました。

 

「伊藤さん、あつ森って知ってる?」「あつもり? なんだろう。夜のスポーツニュースで叫んでいるあれかな?」「いえいえ、違いますよ。今流行っているゲームですよ」「え、ゲーム。ただでさえぷよぷよで苦労しているのに。で、どんなゲームですか」「無人島に行って暮らすゲームです。借金をして家を建てたりするから伊藤さんに合っているかも」「借金? 放っておいてください。で、それって私の持っているPS4でできますか?」「あ~、残念ながらそれはできないんですよ。ニンテンドースイッチというゲーム機が必要です」「そうですか。この正月は帰省なし、初詣なしで時間はたっぷりありますから……」「じゃあ、これとこれを購入してください」

 

 と、気がつけば「あれとこれを」と言われるがまま、ニンテンドースイッチとソフトを購入。なんと、「ぷよぷよ」から一転、「あつ森」生活が始まりました!

 

 あつ森は「あつまれどうぶつの森」というゲームです。無人島に連れて行ってもらって、数名の仲間と自由に暮らすという内容です。私の名前は「えちごや」、キュートなキャラクターも作りました。そう、この年末年始は森に集まってばかりの日々でした。

 

 年が明けて仕事始めとなりました。すぐに前回、お世話になったIOデータ機器の乙村さんから連絡が入りました。前回に続けて情報通信系の企業で構成される団体・テレコムサービス協会北陸支部が地元のNPO団体と共催している「Newビジネス研究会」に参加しませんかというものでした。以下、乙村さんとのやりとりです。

 

乙村:1月のNewビジネス研究会は16日開催です。ぜひzoomでぷよぷよ実況中継をやってみていただければ、と思うのですが。もちろん、事前に実況リハーサルをやっておく必要があろうかと思いますので、伊藤さんの都合に合わせて私の方で準備しますよ。
伊藤:16日ですか、参加します。で、中継ですか。えーーーッ! という感じですが、それについてはまた改めて相談させてください。

 

 実況のためのリハーサルの提案など、いつもながら乙村さんの優しさに感動してしまい、あつ森を始めたことをついつい言いそびれてしまった。さらに追い打ちのように乙村さんから連絡が!

 

乙村:おはようございます。Newビジネス研究会は今週末ですが、実況中継の事前テスト、いつやりましょうか?
伊藤:テストの件、少し待ってください。

 

 言えない。なぜか、言えない。ぷよぷよの生中継を楽しみにしてくださっている乙村さんに、あつ森に乗り換えたことをどうやって話せばいいのか? 「がっかりしちゃうかな」なんて考えると、とても言いにくいもので、丸1日が過ぎてしまいました。しかし、引き伸ばすのも申し訳ないし、何より今の私はぷよぷよの生中継にはどうしても挑戦する気が起きません。意を決してメールを入れました。

 

伊藤:おはようございます。実は大事なご報告があります! ぷよぷよからあつ森に乗り換えました。果たしてあつ森はeスポーツなのか、など疑問を抱えながらやっています。でも、あつ森は生中継に適していませんよね。すみません。
乙村:へー、そうなんですか。別に大丈夫ですよ。

 

 えっ! やっとの思いで告白したのに、たったそれだけの反応なんですか? それに何が大丈夫なんでしょう。乙村さんとのやり取りは続きます。

 

伊藤:でも、あつ森の実況は観てもおもしろくないのでは?
乙村:それはどっちでもいいんですよ。伊藤さんのビデオキャプチャー使いこなしの成長を見るのが目的ですから(笑)。

 

 この乙村さんの返事で合点がいきました。なるほど、プレーしているゲームには関係なく、私がIOデータ機器さんから提供されたビデオキャプチャーをどれくらい使えているのか、それが主目的ということなんですね。となれば、堂々とあつ森実況をやってやろうじゃないか、と俄然、前向きになりました。乙村さんはNewビジネス研究会での実況イメージをこう説明してくださいました。

 

乙村:zoom中にビデオキャプチャーをつなぐと、こちらでは伊藤さんの顔ではなくゲーム画面が見られます。ヘッドセットをつないでおくともちろん会話もできるわけです。ビデオキャプチャーとPCとをUSBで接続して、USBモードに切り替えればOKのはずです。
伊藤:やってみます。ニンテンドースイッチ=ビデオキャプチャー=PCとつなぐわけですね?
乙村:出先なので夕方会社に戻ったら接続図を連絡します。

 

 さて、前回、ビデオキャプチャー接続で奮闘したおかげでこうしたことのスキルの上がっていた私は、乙村さんからの接続図送付を待ちきれずに、無謀にも自力で接続に挑戦しました。ビデオキャプチャーを操作してUSBモードに切換え、スイッチとビデオキャプチャーをHDMIで接続。さらにビデオキャプチャーとPCをUSBでつなぎ、マイクを接続。1時間後、作業が完了し、意気揚々と乙村さんに「接続完了。えちごや登場です!」と報告しました。

 

 さて、これを見た乙村さんは早速、電話をくれました。私の進歩に感動して思わず、なのでしょう。これは褒められるぞ。「もしもし、伊藤です」「あ、乙村です。明日にでもリハーサルしましょう」と。少しあっさりしていました。

 

 生中継前日、乙村さんとのリハーサルも無事に終了。コントローラーを触らずにいると数分後にスリープしてしまうという問題がありましたが、これについてはプレゼンの順番次第。プレゼンの順番は研究会の会長・金平さん次第。流れに身を任せるしかありません。

 

 そして迎えた当日です。早起きして接続も完了し、9時30分から会議が始まりました。IOデータ機器の細野会長の挨拶のあと、金平さんが「では新年第1弾、伊藤さんのぷよぷよいってみよう」と。

 

 ええええ、私ですか! そういえばぷよぷよでなくあつ森に乗り換えたこともお話しなくては、などと焦っていたところ、さらに追い打ちが。なんとリハーサルと同じようにつないだはずなのに、映像が映りません。「申し訳ない」と言いながら、一旦、zoomを抜け、やり直し。確認すると昨日のリハとは違っているところに気がつき、やり直し。無事にリモートミーティングに復活しました。

 

 気を取り直して、「皆さん、こんにちは。すたんど島のえちごやと申します。実はぷよぷよから、あつ森に引っ越しました」と。想像ではここで「ワー!」というリアクションを想定していたのですが、「へー」くらいの反応でした。

 

 参加者の皆さんは乙村さんと同じく、ぷよぷよだろうとあつ森だろうとどちらでもいいみたい。関心は「伊藤がビデオキャプチャーの接続や切換えができるか」にあるわけで、やっているゲームは二の次でした。

 

 さて、予定では島の様子や仲間たち、釣りの腕前を披露しようと思っていましたが、反応が期待できないので止めました。そして、皆さんに質問してみました。

 

「スポーツって何ですか? あつ森はeスポーツでしょうか?」

 

 果たして皆の反応は? 次回に続きます。

 

(つづく)

 

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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