ウェザーニュースのHPを開くと、日本列島の中心部にあたる関東から北信越、東海、近畿にかけての地域が真っ赤に染まっている。同ニュースの「2021年猛暑見解」によると<暑さのピークは7月下旬と8月下旬の2回あり、猛暑日が続くおそれがあります>とのこと。<こまめな水分補給や適切なマスクの付け外し、充分な休憩やエアコンなどの空調を適切に使用して、体調管理に十分注意してください>と注意を促している。

 

 7月下旬と8月下旬、すなわち<暑さのピーク>は五輪とパラリンピックの開幕を直撃する。必然的に大会組織委員会は新型コロナウイルス対策と猛暑対策の二正面作戦を迫られることになる。

 

 熱中症による死亡者数は近年、高止まりの傾向が続いている。最多は2010年の1731人。18年の1581人、19年の1224人と続く。最も多いのは東京で、19年だけで204人が亡くなった。

 

 東京はこの100年で3度前後、平均気温が上昇した。とりわけ近年、東京湾岸に高層ビルやタワーマンションが次々と建設されたことが原因で海からの風を遮断し、ヒートアイランド現象を加速させたと言われている。

 

 猛暑にはワクチンも通用しない。組織委は<待機行列や日除けテントでの適切な誘導を行い、フィジカル・ディスタンスの確保、マスク着用等感染予防策を注意喚起する>としているが、日除けテントが逆に3密の巣になることはないのか。テント内の換気は大丈夫か。課題山積である。

 

 過日、テレビを観ていて驚いた。組織委幹部が、過去の五輪における感動的な記憶として、1984年ロス五輪の女子マラソンで、スウェーデンのガブリエラ・アンデルセンがフラフラになりながらゴールした有名なシーンをあげたのだ。彼女が熱中症にかかっているのは誰の目にも明らかであり、後に本人は「人生最悪のレース」と述べている。警備の最高責任者とされる人物が、これを美談にする、そのセンスに軽い目眩を覚えた。

 

 それでも彼女の奮闘を称えるところまでは、自然な感情なのだからまだいい。でも、それなら、こう締めくくらなくてはなるまい。「第二のアンデルセンを生まないためにも、猛暑対策には万全を期す」。私見を述べれば基本的にゼロリスクは世に存在しない。だが、そこを目指すことは重要だ。本日、事務所を置く新宿区内の最高気温は31度。まだ6月上旬である。

 

<この原稿は21年6月2日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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