東京オリンピック・パラリンピックの開催決定や19年のラグビーワールドカップ開催などが契機となって、スポーツボランティアの機会が増加しました。STANDでも様々なイベントでボランティアの皆さんとご一緒しています。彼、彼女たちはイベントにとって、かけがえのない大切な存在です。


 ボランティアに参加したきっかけについて、いろいろな人たちに聞いてみました。
「社会貢献したい」「何かの役に立ちたい」「自己探求したい」「自分を見つめたい」「未知の分野に触れたい」「ネットワークを広げたい」「今後のキャリアパスとして」
「世話好き」「誘われたから」「頼まれたから」「断れないタイプ」「ヒマだから」

 

 人それぞれ、きっかけは実に広範に渡ります。

 

 そんなボランティアの人たちは、目的も違えば、それぞれ所属する組織が違うから流儀が異なる、そういう集まりだと言えます。しかもそのイベントで初対面であり、担当する任務も初めてのこととなると、現場でこんなことが起きます。

 

◎ついつい遠慮してしまう
◎言われたことだけをやる。またやった方がいいと考える
◎担当任務だけを全うする

 

 ボランティアの人たちもイベントについて「こうしたらもっといいのに」「これはこちらに配置したら便利なのに」と思うことがたくさんあるはずです。でも「余計なことかもしれない」と思い、提案しないことの方が多いのです。

 

 それはそれは、実にもったいないことだと私は考えるのです。

 

 あるイベントでこんな出来事がありました。子どもたちの車いすバスケの体験会で、ボランティアスタッフのミッションは「コートの外に立ち、転がってきたボールを拾って近くの子どもに渡す」というものでした。

 

 イベントが進み、あるスタッフがボールを拾いました。すると、その人は突然、両手でボールを高く掲げて、コートの中の子どもたちに向かって叫びました。「ボール、欲しい人--ッ!」と。

 

 当然、子どもたちは大きな声で「欲しい!」「欲しい!」「ちょうだい!」とアピール。この瞬間、体験会は大いに盛り上がり、会場は元気な声でいっぱいになりました。

 

 ボランティアスタッフの皆さんのおかげで、どれほど現場の成果が上がっているかは今更言うまでもありません。ボランティアスタッフは現場の最前線にいます。だからこそ、担当任務だけではない自由な発想で、大いに活躍していただきたい。ボランティアの皆さんとご一緒するとき、私はいつもそう考えているのです。

 

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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