8月24日、東京2020パラリンピック競技大会が開幕しました。開会式の入場行進には各国・地域の選手団の旗手、選手はもちろん、プラカードベアラー、行進誘導のアシスタントキャストなどのボランティアの皆さんなど様々な人が参加していました。プラカードベアラーのユニフォームは、男性はパンツ、女性はスカートと決められているのではなく、ハーフパンツも用意されていて、個人の意思で選んで着用したそうです。


 選手の出で立ちも様々でした。歩く人もいれば、車いすの人もいました。行進の仕方、旗やプラカードの持ち方、手を振る人、そして足を振る人。実にそれぞれのスタイルで国立競技場のフィールドに登場しました。開会式で目にしたその光景は、あらゆるアプローチで共生社会が語られていたと感じました。

 

 以前、「見慣れることが大事」(第111回 「慣れる」と共生社会はつながっていた!)と書きました。自分と違う人に慣れることは、違う部分だけに意識が集中することをやめさせてくれます。例えば車いすの人と接するときに「車いす」にばかり意識が行ってしまうことがなくなります。そのことが共生社会を進める原動力のひとつになります。


 とは言うものの、日常生活で「じーっと」見るのはやはり抵抗があります。しかし、パラリンピックはじろじろと見るチャンスです。テレビで選手のパフォーマンスを見るときに、身体のかたち、動き、佇まいをじっくり観察することができます。競技をじっくりと見るほど、意識的に見るようになる、いえ、あるいは意識しなくても自然と見えてくるかもしれません。

 

「このかたち、動きだからこそ、こうして走るのか」と陸上競技では感じ、競泳では「こうやって泳ぐのか」と、テニスやバスケットボールなどの球技では「こうやって投げるのか」「こうやって打つのか」と、「ほ~、こうするとこうできるのか」と、見て取ることでしょう。

 

 パラリンピックを筆頭にパラスポーツの世界では、いろいろな人が様々ないろんな方法でなんでもやっています。やりたいことを止めない、諦めないのがすごいと思っていました。ところがあるパラアスリートはこう言いました。

 

「諦めないところがすごいと言っていただけるのですが、私は好きなことを続けているだけなんです。みんなそれぞれだと思います」

 

 彼にとってはただ好きなことを続けているだけ。パラリンピックは、こうした多様なメッセージも伝えてくれるはずです。

 

 パラリンピックを見て「かっこいい」「すごい」だけでなく、せっかくの機会です。パラアスリートをじーっと見て、見慣れてみてください。後に自分と違う(と思う)人と出会ったとき、見慣れていることがきっと役に立つはずです。

 

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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