現地時間21日(日本時間22日)、第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)決勝がアメリカ・フロリダ州マイアミで行われ、侍ジャパン(野球日本代表)がアメリカを3対2で下した。侍ジャパンは3大会ぶり3度目の優勝。アメリカは連覇を逃した。先制を許した侍ジャパンは2回裏、村上宗隆(東京ヤクルト)の同点弾、ラーズ・ヌートバー(セントルイス・カージナルス)の内野ゴロの間に勝ち越した。4回裏には岡本和真(巨人)の一発で1点を追加すると、アメリカの反撃を1点に凌ぎ、1点差で逃げ切った。MVPには投打の“二刀流”でチームを牽引した大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)が輝いた。

 

◇決勝

 最後は大谷vs.トラウトで幕(ローンデポ・パーク)

アメリカ(プールC2位)

2=010|000|010

3=020|100|00X
日本(プールB1位)

勝利投手 今永昇太(1勝0敗)

敗戦投手 メリル・ケリー(0勝1敗)

セーブ  大谷翔平(2勝0敗1S)

本塁打 (ア)トレイ・ターナー5号ソロ、カイル・シュワーバー2号ソロ

    (日)村上宗隆1号ソロ、岡本和真2号ソロ

 

 3大会ぶりの世界一は日本が誇る堅い守りでもたらした。連覇を果たした2009年第2回大会以来の優勝。栗山英樹監督の継投策も光った。栗山監督、ダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)、大谷、ヌートバーの順でマイアミの宙を舞った。

 

 エンゼルスの同僚である日米のスーパースターがチームメイト&スタッフを連れて入場する粋な演出で、5回目のWBCファイナルは幕を開けた。それぞれ先頭に立つのはマイク・トラウト、大谷。トラウトがアメリカ、大谷が日本の国旗を持ち、ゆっくりと歩みを進めた。

 

 侍ジャパンの先発は今永昇太(横浜DeNA)。今大会は2試合リリーフ登板し、韓国戦は3回1失点、イタリア戦は1回無失点と好投しているサウスポーだ。立ち上がりは2番トラウトにツーベースを打たれたものの、アメリカのオールスター級打線をゼロで抑え、まずまずの立ち上がりを見せた。

 

 ところが2回に先制点を奪われた。1死後、打席に迎えたのはトレイ・ターナーだ。“恐怖の9番打者”として準々決勝は満塁弾、準決勝は2ホーマーと今大会絶好調のターナーは、この日打順が6番に上がっていた。今永の4球目、ストレートをレフトスタンドに運ばれた。今永は2死一、二塁のピンチを招いたが、1番ムーキー・ベッツをレフトフライに打ち取り、最小失点で抑えた。

 

 するとその裏、今永を打線が援護した。先頭バッターは5番の村上だ。1次ラウンドは不振に喘いでいたが、前日の準決勝で逆転サヨナラ打を放っている。スタジアムが歓声に包まれたのは初球だった。村上はメリル・ケリーの甘く入ったボールをフルスイングした。打った瞬間、それと分かる当たりで、確信歩き。ライトスタンド上段に飛び込む同点だ。

 

 侍ジャパンはその後もケリーを攻め立て、岡本と源田壮亮(埼玉西武)のヒット、中村悠平(ヤクルト)が四球を選んで1死満塁のチャンスをつくった。ここで打順は1番に戻り、ヌートバーが打席に。アメリカベンチはケリーに代え、変則サウスポーのアーロン・ループをマウンドに送ってきた。インコースの球に詰まらせられながらもファーストゴロの間に岡本がホームインし、侍ジャパンが1点を勝ち越した。

 

 準決勝までの6試合は先発投手を3イニング以上投げさせていた栗山監督は、早めの継投策を講じる。3回表から22歳の戸郷翔征(巨人)を起用した。戸郷は先頭のトラウトを空振り三振に切って取った後、2死一、二塁のピンチとなったがターナーを得意のフォークで空振り三振に仕留めた。4回は三者凡退に抑え、チームにリズムをつくった。

 

 4回裏、侍ジャパンに待望の追加点が入った。先頭の6番・岡本がインハイの変化球を左中間に弾き返した。打球はグングン伸びてフェンスを越えた。今大会2本目、右のスラッガーが貴重な1点をもたらした。

 

 5回表はチーム最年少20歳の髙橋宏斗(中日)、6回表は東京オリンピックを経験した25歳の伊藤大海(北海道日本ハム)、7回表は巨人のクローザー23歳の大勢とつぎ込み、スコアボードにゼロを並べた。伊藤は3者凡退の好救援。髙橋と大勢はランナーを出しながらも力強いピッチングで得点を許さなかった。

 

 侍ジャパンは5、6、7回とランナーを出しながら追加点が奪えなかった。すると8回表に登板したダルビッシュが、カイル・シュワーバーにライトスタンド上段に運ばれてしまう。昨季フィラデルフィア・フィリーズでナ・リーグの本塁打王を獲得し、ダルビッシュのシカコ・カブス時代のチームメイトに手痛い一発を浴びた。

 

 9回表、締めくくりはこの男に託された。侍ジャパンの背番号16はレフトフェンス側に設置されたホーム側のブルペンから颯爽とマウンドに向かう。1人目はジェフ・マクニール。昨季ニューヨーク・メッツでナ・リーグ首位打者に輝いた左バッターだ。大谷は100マイル(約160Km)を超えるストレートを中村のミット目がけて投げ込んだ。

 

 気合い十分の大谷だが、フルカウントからの7球目、低めに投じた99マイル(約158.4km)のストレートはボールと判定され、フォアボールで先頭打者に出塁を許した。続く1番ベッツはボストン・レッドソックス時代の18年ア・リーグMVP。大谷は昨季ロサンゼルス・ドジャースで35本塁打、82打点を記録した強打者を大谷は98マイル(約156.8km)のストレートでセカンドゴロゲッツーに打ち取った。

 

 悲願の世界一まで、あと1人。マウンドからホームベースまでの18.44mの距離で対峙するのはアメリカのキャプテン・トラウトだ。ア・リーグMVP3度受賞の正真正銘のスーパースター。昨季もケガに見舞われながら40本塁打をマークしている。チームメイトのため2人は当然、公式戦初対決となる。

 

 1球目、変化球を見送りボール。2球目、ストレートを空振り。3球目はストレートを見送りボール。4球目はストレートを空振り。5球目はストレートを見送りボール。斬るか斬られるかの真剣勝負は、フルカウントの6球目に決着がついた。大谷が投じた、この日15球目は外へ逃げるスライダー。トラウトのバットは空を斬った。この瞬間、侍ジャパンの3大会ぶりの優勝が決まった。

 

 雄叫びを上げて歓喜の感情を爆発させる大谷を中心に歓喜の輪ができ上がる。大谷の二刀流で幕を開けた侍ジャパンのWBCストーリーは、DHからのクローザー大谷で幕を閉じた。投手として3試合に登板し、2勝1セーブ、防御率1.86。打者としては全7試合で3番を打ち、打率4割3分5厘、1本塁打、8打点。文句なしのMVP受賞だろう。

 

 かといって侍ジャパンは大谷の独壇場だったわけではない。1番ヌートバーは闘志あふれるプレーでリードオフマン、2番・近藤健介(福岡ソフトバンク)はチャンスメイクの役割を果たした。吉田正尚は不調の村上に代わって途中から4番を務め、WBC新となる計13打点を挙げた。6番の岡本は2本塁打、7打点で後ろを支え、村上も準決勝でサヨナラ打、決勝では同点弾とここぞで打った。

 

 チームの堅守も光った。ショート源田、センターのヌートバーを中心に7試合でエラーは、わずか2つだった。チーム防御率は出場国・地域で最も少ない2.29である。球数制限などもあるため、いわゆる“勝利の方程式”は確立しなかったが、どのピッチャーが投げても大崩れしなかった。次回大会は2026年3月開催が予定されている。3年後は2度目の連覇への挑戦となる。

 

(文/杉浦泰介)

 

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