武智成翔(狭山セコムラガッツ/愛媛県松山市出身)最終回「100%やり切る」

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 2020年冬、全国高校ラグビー大会(通称・花園)で初戦敗退に終わった新田高校の武智成翔(たけち・あきと)は、「来年こそは」と燃えていた。だが彼らの前に何度も立ちはだかったのは、同じ愛媛県松山市にある松山聖稜高校だった。
 
 新チームで臨んだ年明けの愛媛県高校ラグビー新人大会決勝では、5対35で完敗を喫した。21年春の四国高校ラグビー選手権大会愛媛県予選決勝は、前半を7―5とリードしながら7―17で逆転負け。同年夏の愛媛県高校総合体育大会決勝でも14-26で敗れた。
 
 その年の秋、全国高校ラグビー大会愛媛県予選決勝も松山聖稜が相手だった。同予選決勝としては3年連続同一カード。両チームの勝ち上がりは、いずれも2戦連続完封。新田は2試合連続3桁得点と攻撃陣も好調だった。11月23日、愛媛県総合公園球技場で行なわれたゲームは一進一退の攻防となった。
 
 前半、松山聖稜が2トライを先に奪ったが、新田も2トライを返し、追いついた。27分、新田の同点トライは、武智のキックパスに反応したウイング(WTB)小倉亮太が決めた。「練習していたかたちを出せた」とは監督の亀岡政幸。しかし会心のプレーも勝利には結び付かなかった。後半8分に1トライ1ゴールで19-17と一度は逆転に成功したものの、18分に1トライ1ゴールで再逆転を許した。25分にトドメのPGを決められ、19-27でノーサイド。またしても松山聖稜の軍門に下った。結局、武智の在学中、新田は松山聖稜に一度も勝てなかった。
「最後は勝てると思ったんですが……」
 
 22年春、武智は生まれ育った愛媛を離れ、東京に向かう。全国大学ラグビー選手権で9連覇(09年度から17年度)を果たした強豪・帝京大学に進学するためだ。フッカー(HO)堀江翔太をはじめ、センター(CTB)中村亮土、スクラムハーフ(SH)流大ら19年W杯日本大会ベスト8入りの躍進を支えた選手たちの母校である。
 
 だが、実はこの進路選択も武智の“第一志望”ではなかったという。
「最初は明治大学に行きたくて、プレー映像を送ったんです」
 当時はコロナ下にあり、実技でのセレクションは行なわれず、動画審査だった。しかし結果は“不合格”だった。
 
 では、なぜ帝京大だったのか。高校の恩師・亀岡はその理由を説明する。
「明治から断りの連絡が入った後、どうせやるんだったら日本一のチームへ行こうと話しました。レギュラーになる、ならないは関係なく、日本一のチームを経験することが今後に役立つと思ったからです。それに武智は競争相手が多ければ多いほど、燃えて成長できるだろう、と。また私は岩出(雅之)先生を信頼していましたから。武智には4年間、思い切って行ってこい、と言って送り出しました」
 
 亀岡からの推薦で武智を最初に見た時の印象を、岩出(現・帝京大学スポーツ局局長)は「入ってきた時からいい身体をしていましたよ」と語り、こう振り返る。
「いわゆるトレーニングに対して前向きな選手の身体付きをしていました。イコール真面目で一生懸命やるタイプやと。実際に入学してからも、そうでした。コンタクト系のメニューに対しても逃げずに取り組んでいましたね」
 
 地道な努力を厭わない武智だが、頑張れば報われるとも限らない。それだけ帝京大のポジション争いは熾烈だった。帝京大は武智が入学直前の全国大学選手権決勝で明大を破り、通算10度目の優勝を果たしていた。武智と同じSHには、1学年上には李錦寿がレギュラーの座を掴んでいた。その李の学年には上村和樹もいた。ちなみに現在、李はリーグワン埼玉パナソニックワイルドナイツ、上村は同コベルコ神戸スティーラーズでプレーしている。上村は25-26シーズンの新人賞候補である。それだけ厳しい競争下の中にいても、武智は前向きだった。
「レベルはめっちゃ高かったけど、一生懸命練習すれば、大丈夫と思っていました。李さんと上村さんとずっと練習させてもらい、アドバイスをもらっていた。それで今の自分があると思っています」

 

 

「仲間に必要とされる選手に」

 だが李、上村らの壁は高く、出場機会に恵まれかった。それでも武智は腐らなかった。
「自分は絶対、親を喜ばせるぞという気持ちを4年間、ずっと持っていた。そのおかげで、Aチームに上がれなくても、Bチームからさらに降格した時も心が折れずに済んだ」
 
 1学年先輩で、現在は狭山セコムラガッツでチームメイトのフランカー(FL)森元一気(もりもと・いっき)は、当時の武智について、こう証言する。
「ラグビーに取り組む姿勢が真面目で手を抜かない努力家だということは、自分が卒業する時までずっと感じていました。少なくとも自分は武智が手を抜いている姿を見たことがない。それが顕著に現れるのはフィットネス練習です。普通、しんどかったり、つらかったりすると、下を向いてしまったり、手を抜いてましまうようなことがある。だけど武智のそういう姿を見たことがないですし、むしろ決められたタイムよりもどれだけ速く入ることを自分に課しているようでした。誰かに影響を受けるわけでもなく、自分を持ち、取り組めるプレーヤーです。試合に出る、出ないは関係なく、今自分にできることを100%やり切るタイプ」
 
 初めてAチームに入ったのは4年生になった春のことだった。新チームで臨む春季大会初戦、深紅のジャージーの「9」を背負うことを許された。
「うれしかったですね。とりあえず親に報告したいと思いました。電話越しにめちゃくちゃ泣いて喜んでくれたのを、今でも覚えています」
 
 相馬朋和監督は、教え子のことをこう振り返る。
「帝京の学生らしく、背番号が何番だろうが、ジャージーの色が何色(カテゴリーによってジャージーの色を分けているため)だろうが、関係なく自分のやるべきことをやり抜いた3年間が、彼の4年目の活躍を生んだんだと思います。自分で努力をできる子なので、私から彼に何か言うことは特になかった。彼は努力の末、あのジャージーを勝ち取った。本当に素晴らしい子だと思います。その掴んだチャンスを逃さない、という気概は彼のタックル一つひとつから感じ取れました」
 
 ようやく掴んだレギュラーの座。振り落とされないよう必死に食らい付いた。春季大会は5試合でスタメン起用され、夏の菅平合宿でもアピールを続けた。秋の関東対抗戦Aグループでも6試合で「9」を背負った。
 
 SHはスタンドオフ(SO)と並んで司令塔と呼ばれるポジション。常勝チームの攻撃を司る重圧は並大抵なものではない。「最初はうれしかったですが、ずっと選ばれていく中でプレッシャーはすごくありました。“ミスったらアカン”という気持ちになっていた」と武智。このシーズン、帝京大は対抗戦で4位、大学選手権はベスト4だったが、既にリーグワンのラガッツから内定を得ていた武智の評価が揺らぐことはなかった。
 
 26年春、武智は大学卒業を待たずしてリーグワンでプレーできるアーリーエントリー選手としてディビジョン3のラガッツに加わった。レギュラーシーズン6試合に出場し、2トライをマークした。リーグワン初トライは第13節の中国電力レッドグリオンズ戦。35-15の後半13分、敵陣深くで相手のロングキックを身体いっぱい投げ出してチャージダウン。前方に跳ね返ったボールをグラウンディングした。彼の諦めないひた向きさ、全力プレーが生んだトライだった。
 
 5月22日に行なわれたディビジョン2・7位の新日鉄釜石シーウェーブとの入れ替え戦でも前半32分からピッチに入り、後半の追い上げに貢献した。試合は17-19で敗れたが、第2戦に向け、7点差以内の負けによるボーナスポイントで勝ち点1を獲得したのは大きい。次戦は31日、3点差以上の勝利でディビジョン2昇格が決まる。
 
 入れ替え戦を含めた出場7試合全てが途中出場だ。武智はラガッツでは、まだ「9」を背負えていない。SHとしてのこだわりを聞くと「自分に求められていることを100%やり切ることです」と、彼らしい答えが返ってきた。
「仲間に必要とされ、“コイツがいないといけない”と思われるような選手になりたいです」
 
 絶対的な信頼を勝ち取るため、日々努力を続ける。諦めず、最後までやり抜くスタンスは、愛媛、東京、埼玉と場所が変わっても、不変である。
 
(おわり)

>>第3回はこちら

 

武智成翔(たけち・あきと)プロフィール>

2003年10月26日、愛媛県松山市出身。小学4年時からタグラグビーに触れ、6年時には全国大会にも出場した。中学でラグビー部に入り、本格的に競技生活をスター。高校は新田高校に進学し、2年時には主将として全国高校ラグビー大会(花園)に出場した。22年、帝京大学に進学。4年時にレギュラーの座を掴み、全国大学選手権ベスト4に貢献した。今年2月からアーリーエントリーで狭山セコムラガッツに加わり、第8節のヤクルトレビンズ戸田戦でデビュー。第13節の中国電力レッドグリオンズ戦で初トライを記録した。身長163cm、体重70kg。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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