日本では代表人気の低下を嘆く声が聞こえるが、レアル・マドリードのペレス会長からすればかわいい悩みかもしれない。彼が頭を悩ませているのは、サッカー人気そのものの低下、若者のサッカー離れだからである。

 

 確かに、試合開始から終了まで2時間近くかかるサッカーは、早送りで映画を鑑賞する世代からすれば、冗長なのかもしれない。一つの区切りに45分を要するというのも、数多あるスポーツの中では最長である。娯楽がサッカーしかないに等しかった昔と違い、いまはスペインの若者にも多くの選択肢が用意されている。

 

 世界中から袋叩きにあった欧州スーパーリーグの構想も、前例踏襲だけでは危うい、という危機感から出たアイデアだと聞けば納得もいく。新しいことをやらなければ、との思いは、世界のサッカー・エリートたちに間違いなく芽生えつつある。

 

 W杯の本大会が次回から48カ国で争われる、というのも、根幹にある発想は同じなのかもしれない。一時的に大会のレベルは下がるかもしれないが、その分、愛好者は増える。本大会出場を現実的な目標ととらえる国も増える。出場国が32カ国に拡大されたことで初の切符を掴み、そこから飛躍していった日本はその最たる例とも言える。

 

「48カ国になったらレベルが下がる。W杯の価値も落ちる」という意見に、だから、わたしは、与しない。

 

 ただ、FIFAの狙いが新規顧客、市場の開拓にあるというのであれば、プラスアルファで非常に面白いアイデアがある。

 

 32カ国で争われる現行のやり方であっても、実力的に32番目のチームに注目するのは当事者ぐらいのものだろう。これが48番目ともなれば、関心はさらに減る。だが、もし48番目のチームが全世界的な注目を集めるようなことがあったらどうだろう。長年の赤字部門が突如として大幅な黒字を叩き出すようなもので、早い話が望外の大儲けである。

 

 では、そんな旨い話があるものなのか。ある。わたしが考えたことではないし、だから「非常に面白いアイデア」と書くのだが、とにかく、ある。

 

「箱根駅伝に関東学連選抜って出るだろう。あれをW杯に適用できないかな」

 

 アイデアの主は、先日ニッポン放送の番組で対談させていただいた水沼貴史さん。聞いた瞬間、ビビビッと来た。

 

 マン・Uの伝説、ジョージ・ベストはついにW杯に届かなかった。わたしが世界で一番好きなGKだったネヴィル・サウスウォールもそうだった。類まれなる才能を持ちながら、W杯に出場できなかった選手は数えきれないほどいたし、おそらくはいまもいる。

 

 もしFIFAが本大会出場を逃した国の選手による混成チームを作ったら。

 

 ドンナルンマがゴールを守り、サラーとハーランドがタッグを組む。アラバがいて、マフレズがいて、オバメヤンがいて……見たくないわけがない。

 

 さらに、ここに中国やインドといった国から一人でも選手が入るようなことがあれば、W杯に注がれる熱と資金は一気に跳ね上がることも予想される。

 

 この発想、たぶん箱根駅伝のない国からは出てこない。日本発の提案として、FIFAに投げかけてみるのはいかがでしょうか、田嶋会長?

 

<この原稿は22年10月21日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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