北京で五輪サッカーを取材している記者から報告を受けた某スポーツ新聞社の重鎮記者から、最近になってこんな話を聞いた。「アメリカは思ったよりも強くないみたい。日本有利とまでは言えないけど、勝負は分からないとの声が高まっているようだよ」と。
 初戦の相手アメリカは、グループBの中ではオランダ、ナイジェリアに比べればレベルはそんなに高くない。とはいっても下馬評では日本よりも上だった。現地では2チームの距離が急速に縮まっているという印象のようだ。

 日本はグループリーグの相手には恵まれなかったとはいえ、日程的にはベスト。アメリカさえ叩いておけば、奇跡を起こす可能性も出てくる。蒸し暑さに慣れていないオランダが日本と戦う3戦目には疲弊しているかもしれない。つまりは初戦で勝ち点3を得ることが、反町康治監督が目標に掲げた1次リーグ突破に向けた突破口になる。

 アメリカは何故「思ったよりも強くない」のか。現地情報をもっと集めてみると、FWの能力が活かされていないとの声が多い。チームとしての完成度が低いと指摘する人もいる。

 アメリカのFWはとても魅力的だ。成長著しいジョジー・アルティドール(今季からビジャレアルに移籍)と、世界的に注目を集めるフレディ・アドゥ(ベンフィカ)がいる。この2人は個人技でゴールというミッションを成し遂げることのできる脅威の存在であるのは言うまでもない。2人の能力を引き出すために、ボールを引き出す動きなどチームの攻撃にアクセントをつけられるタイプのブライアン・マクブライドを、OA枠で呼び入れた。アルティドールとマクブライドを2トップ、アドゥを中盤に配備する攻撃重視のシステムである。

 しかし、肝心のこの3人のタレントに、いい形でボールがなかなか入ってこないという。かみ合っていないのだ。パスの配給役がゲームメーカーのマイケル・ブラッドリー(ヘーレンフェーン)に絞られるだけでなく、連動性も低いとのこと。課題を多く残しつつ、日本戦を迎えるのは事実のようだ。アドゥとアルティドールの個人能力に頼るスタイルは、ディフェンスにおいては守りやすい。加えてマクブライドは36歳というベテランだけに、スタミナ面は大いに課題が残る。日本の組織的かつ、しつこい守備で前線のタレントに前を向かせないような展開で後半途中まで無失点でしのげばチャンスはおのずと出てくるだろう

 日本はボランチに?攻撃型?の梶山陽平(F東京)ではなく、守備に比重を置く細貝萌(浦和)を置くとの情報が報道された。前回のコラムでも書いたように、守備的にいくのはいいとしても、「守備のための守備」にならないように心がけてもらいたい。

 あとは、立ち上がりの守備。早い段階で1点を奪われるとプランがいきなり崩れてしまう。この点は指揮官が口を酸っぱくして「注意しろ!」と言っているようなので心配はしていない。

 個人的には後半20分すぎからが、勝負だと思っている。勝負どころで誰をジョーカーとして使うかが、試合のカギを握るのではないだろうか。ペナルティーエリアに入ったときの勝負強さと、シュートテクニックのうまさでいえば、森本貴幸(カターニャ)こそがふさわしいと思う。先発に豊田陽平(山形)を起用して、前線から守備でプレッシャーをかけたい。守備のうまくない森本については、相手の運動量が落ちた場面で使う方がいい。勝負どころでの怖さは、豊田よりも森本である。「スーパーサブ森本」こそが、勝利への近道だと思うのだが……。
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