年が明けて2010年になりました。ついにワールドカップイヤーのスタートです。6月には世界中の視線が南アフリカへ向けられることになるでしょう。
 日本代表にとって大切な1年の幕開けは2月2日のベネズエラ戦と6日から始まる東アジア選手権の国内4連戦になります。

 現在、日本代表は鹿児島県で合宿を行い試合に備えていますが、今回はヨーロッパで活躍する海外組の招集はありません。国内組のみで構成されるチームで年明けのスタートを切ります。岡田JAPANはどうしても海外組に注目が集まり、国内組のみの試合ではベストメンバーではないという評価を与えられてしまいますが、人数の比率を見れば圧倒的にJリーグで戦う選手のほうが多いわけです。さらに、国内組には現時点で本大会への切符をつかめるかボーダーライン上にいる選手がたくさんいます。彼らにとって、海外組がいない今回の試合は大きなチャンスです。ふだんはなかなか出場機会を与えられない選手でも先発で起用される可能性があります。ここで日の丸のユニフォームに袖を通し、国際試合という難しい試合で自分を出すことができれば、彼らにとって大きな自信となるでしょう。熾烈な争いを勝ち抜こうとする選手の戦いぶりに注目してほしいですね。

 シーズンオフにあたるこの時期での国際試合になるので、心配なのはコンディションです。オフにも選手は体を動かしていないわけではありませんが、ボールに触れて本格的なトレーニングを始めてからそんなに時間が経っていないと思います。徐々に状態を整えつつ、試合勘なども含め調子を上げていく必要があります。

<満を持しての小笠原復帰>

 今回の招集メンバーで注目したいのは、やはり小笠原満男(鹿島)です。ドイツW杯以来3年半ぶりの復帰になりました。なぜ今まで岡田武史監督が彼を呼ばなかったのかはわかりませんが、中盤で落ち着いてプレーできる彼のような選手が入ったことはチームに大きなプラスをもたらしてくれると思います。一方で、中盤の司令塔争いは激しくなり、緊張感が生まれました。ヨーロッパ組もいますが、小笠原が入ったことで一気に層の厚さが増しました。これまで当確ランプが灯っていた選手もさらに自分のカラーを出さなければいけない状況になってきた。これはチームにとって競争原理が働くためいい傾向と言えるでしょう。

 小笠原の長所は常に得点を意識しているところです。彼の中の優先順位は常にゴールすることが一番にあります。献身的な守備からボールを奪ってからの動き。さらに周囲の意を汲み取る能力は素晴らしいものがあります。前線から守って素早く攻撃を組み立てるというのは、岡田監督が目指すコンセプトとも一致します。監督は小笠原を中盤の高い位置で起用することを考えているようです。彼の動きがこれまでの中盤になかったアクセントとなることは間違いありません。岡田JAPANと小笠原がどのような調和をみせるのか、早くプレーぶりを見たいものです。

 小笠原のプレーと相性がよいと思われる選手をあげるならば、大久保嘉人(神戸)だと思います。今の小笠原に足りないもの、それはスピードです。効果的なプレスをかけることができますが、彼はフィールドを動き回ってチャンスメイクをするタイプではありません。一方の大久保は危険なスペースへ走りこむ高い能力を持つと同時に、がむしゃらに前へ進む力を持っています。さらにゴール前の密集でもうまく体を使ってボールにあわせることができる。パスのターゲットとしてまさに適任でしょう。小笠原のプレースタイルが「静」であるならば、大久保のそれは「動」。この組み合わせがうまく機能すれば、小笠原の存在感はチームにとって不可欠なものになりそうです。

<ボーダーライン上の若き2トップに期待>

 小笠原のほかにも、興梠慎三(鹿島)や平山相太(F東京)といった選手がラストチャンスに懸けています。平山については合宿でもいい動きをしているというニュースが連日届いています。とはいえ、すでに監督からの信頼を得ている選手たちはまだ体を慣らすために全力でプレーしている状態ではありません。平山のプレーが目立つのもここに理由があります。しかしながら、4連戦が始まっても彼のプレーが輝きつづけるのであれば、それは本物と言っていいでしょう。個人的にはベネズエラ戦は興梠と平山というツートップで臨むべきだと考えます。先発起用ならば、もしこのツートップがうまく機能しなくても、実績のある玉田圭司(名古屋)を途中投入することで試合を整えればいいですからね。スピードの興梠、高さの平山という若いFWで新たな攻めの一面を創造してほしいものです。

 2日のベネズエラ戦に始まり、6日に中国、11日に香港、14日に韓国との試合が組まれています。これらのチームのタイプを考えると、ワールドカップのグループリーグで対戦する3カ国とは全く異なるチームだけに、残念ながら本番のシミュレーションの場にはなりえません。しかし、東アジア選手権は日本にとってまだ手にしたことのないタイトルです。ここでは結果にこだわってもらいたい。ワールドカップでも必ず結果を残さなければいけない場面が巡ってきます。その時に勝負強さを発揮できるよう、東アジア選手権は必勝態勢で臨むべきです。特に最終戦は韓国との対戦です。アジアのライバルから白星を勝ち取り、ワールドカップイヤーの幕開けを飾ってほしいと思います。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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