リーグ4連覇を目指す鹿島アントラーズが3勝1分の勝ち点10と素晴らしいスタートを切りました。アジアチャンピオンズリーグ(ACL)でもグループリーグで4連勝。いい出足となった要因は代表選手の存在にあるように感じます。

 2月上旬から3月初旬にかけて日本代表は厳しいスケジュールで試合をこなしていました。鹿島からは岩政大樹、内田篤人に小笠原満男、興梠慎三の4名が代表に招集されていた。特に小笠原が代表としてシーズン開幕前からコンディションを上げていたことは大きいでしょう。クラブの主軸となる選手が代表戦を消化した後、しっかりと体が仕上がった状態がでクラブに戻ってくる。その姿を見ると、若手選手たちは「オレたちがやらないわけにはいかない」となりますよね。このようないいサイクルで各選手が刺激を受けてコンディションをしっかりと整えています。

 2010シーズンが開幕して4節が終了したところです。まだ序盤とはいうものの、開幕からの5節はその年のリーグ戦を占う上で非常に重要になります。ここで波に乗れば勢いもつきますし、少しでも貯金を貯められればチームが苦しくなった時に、立て直す余裕ができてくる。鹿島は昨季、夏場に大きく調子を落としましたが、それでも優勝争いに踏みとどまれたのは序盤の貯金がものをいったから。その意味でも鹿島は最高のスタートを切ったと言っていいでしょう。

 鹿島にとって今季の目標は非常に明確です。リーグ戦4連覇とACL制覇。特に後者は、選手をはじめサポーターにとっても悲願といえます。そのための補強もしっかりと行なってきました。代表選手はW杯前後にはクラブを離れます。そこで大きな戦力ダウンにならないよう、フェリペ・ガブリエルやジウトンといった外国人で穴を埋めていくはずです。さらには遠藤康といった若手もしっかりと実力をつけています。今季も鹿島を中心にJリーグの首位争いは展開していきそうです。

<昔の仲間が数多く指揮するJリーグ>

 他のクラブに目を向けると、今季は嬉しいことがあります。清水の長谷川健太に仙台の手倉森誠、そして新潟の黒崎久志。私が現役時代に一緒にプレーしてきた仲間が監督になって国内リーグで戦っているんです。こういう時代が来たんだなと実感しています。以前から監督をやっている柱谷哲二さんや高木琢也ももっと活躍してほしいですし、J1には遠いかもしれないけれど、JFL町田ゼルビアの相馬直樹もがんばっている。彼らがピッチに立っている姿を見ると誇らしいですね。

 今季はJ1全体として若い監督が活躍しているように思います。逆にJ2には経験豊富な指揮官が多い。これまで実績を積み重ねてきた方々がJ2にいるのは、チーム作りに長けているためであって、J1での戦い方は柔軟なアイディアや新しい発想を持った若手指導者が適しているのかもしれません。今日のサッカーはスピーディーですし、新しい技術にもしっかりと対応していかなければ勝てるチームを作ることはできません。また、今年のJリーグでは3トップを採用しているクラブが目立ちますね。各クラブの指揮官は、やはり選手を躍動させたい想いを持っているのでしょう。サッカーというスポーツは攻めなければはじまらない。相手から一つでも多くのゴールを奪ったチームが勝つスポーツです。どれだけうまくボールを回してもしょうがないんです。点を取る姿勢を常に持っていなければ面白さも半減しますし、選手もフラストレーションが溜まってしまう。少々打ち合いになってもいいから「前へ前へ」という意識を持つことは、日本サッカーが長年持っている課題を克服するためにも称えられるべき決断でしょう。攻撃的なクラブが結果を残すことで、代表チームにも好影響を及ぼすことは必至です。

<世界のトップステージでみせた本田の活躍>

 その代表に目を向けると、3月3日のバーレーン戦で結果を出した本田圭佑(CSKAモスクワ)がヨーロッパで大きな成果を残しつつあります。先日行なわれた欧州CLセルビア戦でのゴールには痺れました。あのFKをはじめ、高いレベルで最高のプレーを披露しましたね。彼はFWではありませんが、ゴールに向かう動きが素晴らしい。ミドルシュートも打てるし、左足から繰り出されるシュートは本当に魅力的です。長短のシュートの使い分けは、岡田ジャパンにとっても必要な武器でしょう。いいアクセントになるはずです。

 本田がCLで見せたのはブレ球のFKでしたが、今のサッカーボールはまるで樹脂の塊りのようです。ボールの表面には細かい凹凸があり、シュートのインパクトの瞬間に、ボールが足にフィットしやすい構造になっています。さらにボールを蹴り上げる側のシューズには、ボールをしっかりと捉えるためのパットがあります。そこにも凹凸が施されていて、しっかりとボールに力を伝えることができる。だからこそ、あれだけ強いシュートを放つことができるんです。本田が見せたFKはゴールキーパーにとっては脅威以外の何物でもないでしょう。あれだけ変化するシュートを止めなければいけないのは、少し気の毒な面もあります(笑)。道具の進化がサッカーをよりスリリングなものにしていることは間違いないですね。
 本田にとって欧州ベスト16の舞台はまだ通過点でしょう。さらなる高みで彼がどのようなプレーを見せてくれるのか、楽しみは広がります。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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