名古屋グランパスが3試合を残してクラブ史上初のリーグ優勝を果たしました。ドラガン・ストイコビッチ監督がクラブを率いて3年目。今シーズンは積極的な補強を行い、自分たちのサッカーを1年通して続けられたように感じました。

 夏ごろから独走状態に入った名古屋ですが、サッカーの内容に昨年からとり立てて大きな変化があったわけではありません。誰かが爆発的にゴールを量産したわけでもありません。これまで自分たちが築き上げてきた土台に、着実にチーム力を底上げした印象です。下位との取りこぼしも少なく、総合力で優勝を勝ち取りましたね。

 今季の名古屋は負ける時にはトコトンやられています。第12節鹿島アントラーズ戦、第19節川崎フロンターレ戦、第26節アルビレックス新潟戦と3試合でそれぞれ4失点を喫しています。大敗することで大概の選手は弱気になるものですが、今年の名古屋は幾度となく犯した失敗を後にひきずりませんでした。リーグ戦での連敗はなし、それどころか負けた直後の試合では必ず勝っているのです。すぐにクラブが立ち直ることで「オレたちのサッカーは間違っていない」という自信をつけていきました。今季から加入した田中マルクス闘莉王、金崎夢生、ダニウソンもうまく機能し、クラブの軸となりました。これまで33節戦って22勝をあげています。僅差の試合をモノにする場面が目立ち、主軸になるべき選手がしっかりと働いたシーズンだったと思います。

 一方で、リーグ中盤から名古屋の独走を許した他クラブは、取りこぼしが多く見受けられました。特に4連覇を狙っていた鹿島はセレッソ大阪に2連敗、清水エスパルスと1分け1敗と苦手意識を持ってしまいましたね。ガンバ大阪も重要な試合で勝ち点を取り損ねることが多かった。2位から5位にいるクラブが思ったように勝ち点を伸ばせなかったことが名古屋独走の大きな理由のひとつでしょう。最終節ではACL出場権をかけた3位争いが熾烈を極めることになりそうです。鹿島、ガンバ大阪、セレッソ大阪に可能性が残されていますが、本来ならばこのうちの1つは最終節まで優勝を争っていてほしかったというのが本音です。

最終節は何が起こるかわからない……

 優勝争いは決着していますが、J2降格をめぐる争いは激しいものになっています。特に昨年はナビスコカップを制したFC東京がここまで苦しむとは誰が予想できたでしょうか。サッカーはチームプレーが求められる競技ですが、クラブを率いる監督の考え方や起用法が試合の内容を大きく左右することは言うまでもありません。FC東京はシーズン途中での監督交代劇などもあり、選手とベンチの信頼関係が崩れているように見えます。負の連鎖が止まらないとでもいいましょうか、流れは悪いほうへと傾いてしまっていますね。
 
 ここまで苦しんでいるのは引き分けの多さでしょう。最後まで試合をコントロールするためのクラブの意思統一ができていない結果、引き分けが12を数えています。リードしている場面でも終了間際に追いつかれてしまえば、勝ち点を2つ落とすことになります。勝てば残留を決めることができた先週の第33節モンテディオ山形戦でも土壇場で追いつかれドローで試合を終えました。まさに今季の戦いぶりを象徴しているようなゲームでしたね。最終節は京都サンガとの一戦です。相手はすでにJ2降格を決めてしまいましたが、今季最終戦をホームで迎えるだけにサポーターの前で惨めな戦いはできません。さらに柳沢敦が戦力外となり、京都のユニフォームを着る最後の試合にもなります。彼の技術はまだまだ衰えてはいません。手強いFWがいるだけに、FC東京にとって非常に難しい試合になるのではないでしょうか。

 一方、必勝態勢で最終節に臨む神戸はアウェーで浦和との対戦です。まずは目の前の敵に勝つことだけですから、神戸に迷いはないでしょう。モチベーションの高くない浦和相手ならば、何が起こるか全くわかりません。第17節では浦和にホームで勝っていますから、精神的余裕もあるはずです。いずれにせよ、2クラブの最終節の戦いからは目が離せなくなりそうです。

選手を成長される関塚監督の経験

 アジア大会ではU−21代表となでしこジャパンが見事にアベック優勝を飾りました。男女ともにアジア大会での優勝は初めてです。女子については、もともと優勝候補の一角にあげられていました。私も鹿島ハイツで高校生などのトレーニング風景を見る機会が多いのですが、女子サッカーの技術は近年、非常に上がっています。特に個人技は素晴らしいものがある。スペースを使う技術やドリブルで短い距離を突破するスピードは世界でも屈指といえるでしょう。これは若い世代から育成に力を入れてきた努力の賜物です。彼女たちには今後も世界へ向けて日本の強さをアピールしてほしいものです。

 一方の男子は大会前には苦戦が予想されていました。それでも無敗でグループリーグを勝ち上がり、ブーイングが鳴り止まないスタジアムで最後まで自分たちのサッカーを貫くことができたと思います。今回のU−21代表はロンドン五輪を見据えたチーム。その中には香川真司(ドルトムント)や金崎など国内外ですでに結果を出している選手も含まれます。そうした主力級の選手を除いたチームで結果を出したのは本当に素晴らしいこと。彼らの経験は今後の日本サッカーにとって有意義なものになることでしょう。

 このチームを率いるのは前川崎監督の関塚隆さん。関塚さんと私は年齢が5つ離れていますが、実は中学校の先輩、後輩にあたります。私の2つ下に関塚さんの弟がいた関係で、その頃から知っている方です。Jリーグが開幕した93年にも関塚さんはコーチとして鹿島にいましたから、本当に長いお付き合いになりますね。関塚さんは川崎で中村憲剛や鄭大世など、それまで無名だった選手を代表クラスへと成長させた人でもあります。1浪して早稲田大学サッカー部に入部したという異色の経歴の持ち主。U−21といえば、ちょうど大学生の年齢にあたります。今回のアジア大会でも永井謙佑(福岡大)や山村和也(流経大)など多くの大学生が活躍しました。その頃に非常に苦労している関塚さんの経験は、若いチームに大きな説得力を持っているはずです。この世代を指導するのに関塚さんほど適任の人物もいません。本番のロンドン五輪まであと2年。アジアを制した関塚ジャパンがどのような成長を遂げるのか、今から2012年がとても楽しみですね。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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