JTサンダーズの前身である専売広島のセッター猫田勝敏(故人)といえば、日本バレーボール界の歴史にその名を刻んだ名セッターだ。全日本男子の正セッターとして3大会連続オリンピックに出場。東京大会(1964年)銅メダル、メキシコ大会(68年)銀メダル、そしてミュンヘン大会(72年)で金メダルに輝いた。その大先輩でさえもが成し遂げられなかったのがリーグ優勝である。今シーズンは悲願の初優勝を十分狙える位置にいるJTサンダーズ。そのカギを握るのが3人の若き司令塔、井上俊輔、菅直哉、深津旭弘だ。プレースタイルも性格も三者三様の彼らが理想とするセッター像とは。そして優勝に必要な戦略とは。二宮清純が独占インタビューを敢行した。

  セッターの醍醐味と難しさ

二宮: セッターというのは野球で言えばキャッチャー。つまり司令塔としてゲームをコントロールするポジションです。非常に面白い役どころだと思いますが、その反面、敗戦の責任を負わされやすい立場でもあります。そんなセッターというポジションについて、どう考えていますか?
井上: おっしゃられたように、難しいポジションだからこそやりがいもありますね。失敗しても「自分でこだわった中で上げたトスなのに、何で失敗したんだろう」って考えること自体、僕は面白い。とはいえ正直、どこがゴールなのかわからないくらい深みのあるポジションですから、まだまだ勉強しなければいけないことはたくさんあります。反省をたくさんしながら、その中でも自分なりにこだわって楽しみながらやっています。

二宮: 井上さんは身長191センチと日本人のセッターとしては大型ですが、もともとはアタッカー出身ですか?
井上: いえ、小学生の時にバレーボールを始めたときからずっとセッターです。実は子どもの頃は背が高いほうではなかったんです。だからセッターをやっていたのですが、途中で急に伸びてしまって……。

二宮: しかし、それだけ高さがあればアドバンテージになりますよね。
井上: そうですね。自分としてもこの身長を武器にして勝負していきたいと思っています。

二宮: 同期の菅さんはいかがですか?
:  僕は正直言うと、セッターはしんどいポジションだと感じています。でも、全日本のキャプテンでもある宇佐美大輔さん(パナソニックパンサーズ)が「セッターが面白くなるのは30歳からだ」と言っていたんです。これはJTサンダーズの先輩で、ロサンゼルスオリンピックにも出場した下村英士さんがおっしゃっていたことなんだそうです。だから僕がセッターの面白さを感じるにはまだまだかなと。もがきながらやっていく中で、殻を破っていって光が見えてきたら、セッターの面白味がわかってくるのかもしれません。

二宮: 深津さんは大学時代、インカレで3度の優勝経験がありますが、セッターとしての醍醐味はどのように感じていますか?
深津: 実は僕は井上さんや菅さんとは違って、もともとはアタッカーなんです。きちんとセッターとしてやり始めたのは大学時代から。高校時代もツーセッターとして半分はトスを上げていたのですが、メインはアタッカーでした。相手との駆け引きや試合をコントロールすることができるという点には面白さを感じていますが、まだまだ反省することの方が多い。やりたいことの半分もやれていない状態なので、もっと技術を上げていかなければいけないと思っています。

 名セッター猫田の存在

二宮: ところで皆さんの大先輩である猫田勝敏さんは、今でも語り継がれる名セッターです。皆さんは猫田さんが亡くなられた後に生まれていますから、プレー自体は見たことがないと思いますが、JTサンダーズが拠点とする「猫田記念体育館」には猫田さんの功績を称える写真や記念品の数々が展示されています。時にはオールドファンから猫田さんの名前が挙がることもあるでしょう。同じセッターとして猫田さんはどんな存在ですか?
井上: 残念ながらプレーはビデオでしか観たことないのですが、バレーボールを始めた頃にはもう猫田さんの名前は知っていました。JTサンダーズに入団する時も比べられることはわかっていましたし、自分でもやはり意識する部分はありますね。

二宮: 菅さんは全日本メンバーにも入っていますが、いかがですか?
: 本当に偉大な人だなと思いますね。でも、自分は猫田さんと同じことはできません。僕は僕。逆に意識しすぎないように、自分のできることをやろうと心がけています。

二宮: 深津さんはまだ入団して1年目ですが、猫田さんの存在の大きさを感じることはありますか?
深津: 体育館の1階の記念ギャラリーに猫田さんが現役時代に書かれていたノートも展示されているので、それを読んで勉強になることもありますね。大学時代にはゼミの先生が広島県出身だったので、テレビ番組「ミュンヘンへの道」も観ていました。今でもこれだけ語り継がれている方ですから、いろいろと見習いたい部分はたくさんあります。

  優勝へのカギはエース頼りからの脱皮

二宮: さて、現在(18日)チームは4位でファイナルラウンド進出へのラインを何とかクリアしている状態です。残り10試合、いよいよここからが勝負だと思いますが、これまでの戦いを振り返ってみていかがですか?
井上: 第1レグはずっとスターティングメンバーで出させてもらっていたのですが、なかなか連勝することができませんでした。1勝1敗と、ずっと五分の状態が続いていたので、個人的には常に安定したプレーができるようにならなければいけないなと反省してい ます。ただ、昨シーズンと比べればいいプレーも出てきたかなという思いもあります。

二宮: 第2レグからは菅さんがスタートで出場していますね。
: 開幕直後はベンチにも入れないという悔しい状況だったのですが、「必ずチャンスは来る」と信じてやっていました。ですから今は、出場できる幸せを感じながらプレーしています。チームとしては前半を8勝6敗と勝ち越しで折り返すことができたことで、もちろん余裕はありませんが、後半も普段通りの精神状態でできている。これは非常に大きいですね。ただ、エースのエルナルド・ゴメスにトスが集まりすぎるなど、課題はまだたくさんあります。

二宮: とはいえ、困ったときにはやはりエースに頼らざるを得なくなるのでは?
: 確かにそうなのですが、ゴメスが調子を落とせば、チームが崩れる状態では優勝は見えてこない。他のアタッカーにも振れるような状態に改善していかなければいけません。

二宮: 途中出場が多い深津さんは、現在のチームをどんなふうに感じていますか?
深津: ゴメスはアタック決定率が高く、安定した選手なので、そこでのポイントはある程度、計算することができます。やはり後はゴメス以外の攻撃のバリエーションを増やしていかないといけないなと。レギュラーラウンドは長丁場ですから疲労もたまります。これから終盤になるにつれて、ゴメスが調子を落とすこともあると思うんです。今のままではそういう時に何もできずに終わってしまいます。アタッカー全員がある程度、高い決定率を残していくことが重要ですし、そのためには僕たちセッターがもっと相手との駆け引きをしていかなければいけないと思っています。

二宮: 深津さんは、第2レグ途中から内定選手として出場している八子大輔選手とは大学の先輩、後輩の関係ですね。そういう意味では彼の使い方もよくわかっていると思いますし、彼がもっと伸びてくるとゴメスへの一極集中も解消されるのでは?
深津: 八子とは選抜チームで中学時代から知っている仲ですし、それこそ大学3年間は同じ釜の飯を食べて、一緒に汗を流してきましたから、彼のポテンシャルもわかっているつもりです。八子が中心選手として活躍するようになれば、チームにもさらにいい流れが出てくるのは間違いありません。

(後編につづく)

井上俊輔(いのうえ・しゅんすけ)プロフィール>
1985年6月4日、長崎県生まれ。小学4年からバレーボールを始める。長崎商業高校出身。福岡大学時代には国民体育大会に1度、全日本インカレに2度出場した。2008年、JTサンダーズに入団。同年のV・サマーリーグでは最優秀選手に輝いた。191センチの長身をいかしたトスワークを武器としている。

菅直哉(すが・なおや)プロフィール>
1985年5月17日、長崎県生まれ。中学1年からバレーボールを始め、全日本ジュニア代表にも選出された。大村工業高校3年時にはインターハイで優勝。筑波大学では1年時、全日本インカレで優勝し、セッター賞に輝いた。4年時にはキャプテンを務める。2008年にNECブルーロケッツに入団し、翌年には夏季ユニバーシアードに出場。全日本代表登録メンバーにも選出されたが、同年7月にチームが廃部。8月、JTサンダーズに入団した。昨年は全日本メンバーとしてアジア大会に出場し、金メダル獲得に貢献した。

深津旭弘(ふかつ・あきひろ)プロフィール>
1987年7月23日、愛知県生まれ。星城高校1年の春高バレーで3位、2年の国体でも3位入賞を果たした。東海大学4年時にはキャプテンを務め、創部初のシーズン5冠(春・秋リーグ戦、東日本インカレ、東西インカレ、全日本インカレ)を達成。全日本インカレでは最優秀選手賞とセッター賞に輝いた。昨年、JTサンダーズに入団。全日本代表登録メンバーにも選出され、アジア太平洋カップでは優勝に貢献した。


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(構成・斎藤寿子)
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