東日本大震災から約3カ月、何か復興に向けてアクションを起こせないかと思っていたところ、ふさわしいイベントのお誘いを受けました。6月4日にカシマサッカースタジアムで開催される震災復興チャリティーイベント「SMILE AGAIN 〜YELL FROM KASHIMA〜」に出場することになったのです。

 イベントではアントラーズOBチーム「ANTLERS LEGENDS」の位置として30分ハーフの試合に出場します。「ANTLERS LEGENDS」では93年のJリーグ創設当初に最終ラインを組んだ秋田豊、奥野僚右、賀谷英司はもちろん、ジーコにアルシンドといった、まさに伝説級の選手も参加します。鹿島でも指揮を執ったトニーニョ・セレーゾの参加も決まり、当日が本当に楽しみです。

 対する元Jリーガー選抜には「WITH HOPE UNITED」ではラモス瑠偉、福田正博、北澤豪、長谷川健太ら“ドーハ組”に、小島伸幸、山口素弘、名波浩、城彰二といったフランスW杯の代表メンバーも加わりました。しかし、メンバーを見ると、全員が僕より年下。福西崇史やエムボマはまだまだ現役でやっていてもおかしくないでしょう。エムボマには「今日はチャリティーマッチだよ」と事前に伝えておく必要があると考えています(笑)。

 こちらはジーコにオリベイラ、セレーゾと50歳を超えている選手もおり、僕も含めてどこまで体が動くか不安です(苦笑)。しかし、年齢でもプレーでも負けないよう、一生懸命頑張りたいと思っています。今回のイベントを企画してくれたクラブとスポンサーの皆さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。自分がやってきたサッカーというスポーツで、少しでも復興の力になれることをとてもうれしく感じています。何より、あの頃のメンバーとまた一緒にボールを追いかけることができるのは素晴らしいの一言です。僕自身も原点に立ち返って、今後の活動へのエネルギーを得られると確信しています。

 当日のチケットの売れ行きも好調だと聞きました。これも本当にうれしい話です。皆さんが貴重なお金を払って、このイベントを盛り上げようとしていただいていることに深く感謝します。それだけサッカーが、そして鹿島アントラーズが、この街に根付いていることを改めて実感しました。イベントの模様はスカパー!でも中継されるそうです。スタジアムやテレビを通じて、試合を観た方が少しの時間でも笑顔でいられるよう、今できる最高のプレーをお見せします。

 SMILE AGAIN!

 急激な世代交代は逆効果

「ANTLERS LEGENDS」に触れれば、今の鹿島についても話をせざるを得ないでしょう。先のACLでは、またも決勝トーナメント初戦で敗退。FCソウルに0−3の完敗でした。リーグ戦でも成績は振るわず、失点はリーグワースト2位の14。前回も指摘したように、持ち前の堅守が崩壊してしまっています。

 このところの試合を見ていると、守備のズレが非常に目立ちます。どうしても点を獲ろうと前がかりになるあまり、スペースができ、そこを埋めようと他の選手がフォローすると、その裏を突かれる……。マルキーニョスの退団で、昨年と比べると攻撃も機能していないこともあり、守りから攻めへ、攻めから守りへといった連動が感じられません。しかし、マルキーニョスがいないことは今年に入った時点で分かっていました。それを踏まえた上でのどんなチームづくりをしてきたのか。キャンプや開幕前の過ごし方に問題があったと言わざるをえません。

 とはいえ、シーズンはこれからも続きます。立て直しに向けては、小笠原満男、新井場徹といった30代の選手から若手に切り替えるべきとの意見も出てきました。確かにリーグ3連覇に貢献した彼らも、これまでのようなプレーができなくなっているのも事実です。問題点が分かっているのに、それを修正できない。内心は、忸怩たるものがあるはずです。だからといって、一気に選手を入れ替えれば、これまでクラブで積み上げたものが一気に崩れ去ってしまう危険性があります。
 
 幸い鹿島には、若手で楽しみな人材が少なくありません。今回、日本代表に初招集された西大伍は非常に能力の高いDFです。また高卒ルーキーの柴崎岳も、まだ目立った活躍は見せていませんが、しっかりした技術があり、司令塔として判断力にも長けています。若い選手は時として試合で予想以上の働きをする点が大きな魅力です。その反面、空回りして機能しなくなるリスクもゼロではありません。こういったメンバーを一気に入れると、調子が悪い時に周りの選手がフォローせざるを得なくなり、ますます悪循環に陥ります。

 ですから、今季に関して言えば、若手を入れるのはアクセント程度にとどめ、その選手にチームとしての戦い方を徹底的に叩きこむシーズンにすべきでしょう。長年に渡って培われた鹿島のスタイルを伝えるのは時間がかかります。自然と体現できるレベルに達するまでには、失敗もあるでしょう。それでも我慢して、繰り返し経験を積ませることが大切です。

 若手の中でひとり鹿島イズムを継承する選手が出てくれば、同年代の人間もそれをマネするようになります。紅白戦やサテライトの試合でも自ずとチームで求めている戦い方ができるようになるはずです。プロである以上、勝利を追求するのは当然のこと。それに加えて、今の鹿島は世代交代というテーマも目指さなくてはなりません。フロントやオリベイラ監督が、これからどんな手を打つのか、注目して見守りたいと思っています。


●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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