マイアミ・ヒートが5年ぶりのファイナル制覇に近づいている。
 ヒートとダラス・マーベリックスの顔合わせとなった2011年のNBAファイナルは、2戦を終えて1勝1敗。第2戦では最終クォーターに15点差を逆転されて、ヒートは初黒星を喫した。それでも大事な6、7戦を地元マイアミでプレーできるだけに、未だにこのシリーズはヒート有利と見る向きが多い。
(写真:今季のNBAファイナルは近年最大の注目を集めている)
 帝王レブロン・ジェームス、現役有数のビッグマンであるクリス・ボッシュ、そしてマイアミの象徴として君臨してきたドウェイン・ウェイドを擁するスター軍団。この“ビッグスリー”は、集結1年目にして頂点に立つのか。
 そしてチームを支える3人はまだすべて20代の若さだけに、未来への見通しも明るい。もしも今季、ファイナル制覇を飾った場合、そのままヒートが“ダイナスティ(王朝)”を築いていく可能性すら囁かれているのである。

「3大スターがケミストリーを養成するにはしばらく時間がかかるはず。ロースター全体を見ても3人以外の層が薄過ぎる。ヒートが優勝するにしても、来季以降になるのではないか」
 今季開幕前、そんな風にヒートの即座の成功を疑う声は実は多かった。しかし筆者は、ビッグスリー結成1年目にしてヒートがファイナルを制する可能性は十分にあると考えていた。
(写真:昨夏、レブロンのヒート移籍は全米的な騒ぎを引き起こした)

 確かにレブロンが故郷のチーム(クリーブランド・キャブス)を栄冠に導くという志を捨てたことには落胆させられた。ビッグスリーが揃っただけで有頂天になり、パレードまで開く姿には呆れ返らされた。だがそんな反感を抑えて冷静に考えれば、ヒートのポテンシャルはやはり魅力的に思えた。

 現代最高のプレーメーカーであるレブロンと、希有なフィニッシャーであるドウェイン・ウェイドは、プレースタイル的には最高のカップリング。彼らが献身的なチームプレーさえ心がければ、太刀打ちできるチームは見当たらない。
 シーズンを重ねるうちに、互いのエゴによる問題も出てくるだろう。それだけに、「時間が必要」という一般的な見方とは逆に、この2人が新鮮なメンタリティで挑んでくる1年目こそがヒートにとって絶好のチャンスだと考えたのだ。
(ドウェイン・ウェイド(写真)とレブロンは印象的なケミストリーを奏で始めている)

 そして今シーズンは、おおよそに於いて、3大スターを集めたヒートのパット・ライリー社長の思惑通りに進んでいると言ってよい。
 開幕直後の17戦では9勝8敗と厳しいスタート。中盤戦くらいまではケミストリーの不在と終盤での弱さが指摘され続けた。しかし時を重ねるに連れて徐々にボール廻りが良くなり、レギュラーシーズン最後の14戦は12勝。そしてプレーオフでもフィラデルフィア・76ers、ボストン・セルティックス、シカゴ・ブルズを立て続けに撃破し、マーベリックスとのNBAファイナルまで駒を進めてきた。
(写真:ヒート社長のパット・ライリー氏こそが”ビッグスリー”を集めた立役者とされる)

 シーズン中に苦しい時期を経験するのも想定内。むしろ早い時期に試練が訪れたことで、プレーオフの戦いぶりがよりスムーズになった感もある(筆者は「シーズン中は快走、プレーオフの早いラウンドで大苦戦」と予想していた)。

 プレーオフに入ってからは、やや幸運に恵まれた部分もあったかもしれない。特にカンファレンス・セミファイナルで宿敵セルティックスと対戦した際、相手の司令塔レイジョン・ロンドが故障で本調子でなかったのは大きかった。
 そして東カンファンレンス・ファイナルでも、ブルズの攻撃の駒不足がゆえに真の意味で追い込まれることはなかった。3連覇を狙った西カンファレンスの雄ロサンゼルス・レイカーズが早期敗退したことまで含め、時代がヒートの戴冠を後押ししているようにすら思えたものである。

 もっとも、今シーズンはもちろんまだ終わったわけではない。
 前述通りファイナル第2戦では屈辱的な大逆転負けを喫し、これからマブスの地元ダラスに向かわなければならない。地元でのまさかの敗北で、ホームコート・アドバンテージとシリーズの流れを奪われた。
 6月5日に行なわれる第3戦までに、ヒートは心身ともに体制を立て直すことができるのかどうか。ここにきてマイアミ・ヒートは今季最大にして最後の試練を迎えたとも言えるのだろう。

 ただ、もしも、このピンチを乗り越えることができたとしたら、多くの人が予期する「ダイナスティ」の幕開けが見えてくる。
 先程も書いた通り、個人的にはヒートの長いスパンでの成功は疑っていた。しかし水を得た魚のようにゲームメーカーを務め、プレッシャーが軽減した中でビッグショットを決め続ける最近のレブロンを見ていたら、少し考えが変わった部分もある。このいわば「QB(クォーターバック)」とでも呼びたくなるポジションこそが、レブロンがもともと望んでいた役割なのかもしれない。
(写真:全米有数のパーティタウンとして有名なマイアミは今後は「ヒートの街」として知られていくことになるのか)

 だとすれば、2011年のファイナルは、NBAの歴史の中でも節目と言えるシリーズとして後に振り返られる可能性がある。
 好き嫌いは別にして、誰もが無視できない現代の風雲児レブロン・ジェームス。そして今後しばらく全米のスポーツファンの注目を集め続けるであろう、マイアミの“ビッグスリー”。彼らはここで早くもファイナルを制し、レイカーズ、スパーズ、セルティックスらが凋落するのを尻目に、NBAを新しい時代へと導くことになるのだろうか。

 2011年シーズンは間もなく終わる――。そしてレブロンとヒートの行く手には、文字通り無人の広野が広がっている。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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