羽生結弦、「憎悪を喜びや楽しさで押し潰す」 “Novaのマスディス” ~ “Echoes of Life” TOUR~

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 プロフィギュアスケーター・羽生結弦が出演・総指揮する「Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd “Echoes of Life” TOUR」の千葉公演(千秋楽)が9日、船橋市内のLaLa arena TOKYO-BAYで行なわれた。羽生は会場に詰め掛けた8300人(チケット完売)、ライブビューイング、CSテレビ朝日の視聴者を独自の哲学で魅了した。

 

 このアイスストーリーは、羽生演じるNovaが「命とは?」「わたしとは?」という問いの答えを見つける旅である。Novaは、言葉や文字、起きた現象を「音」として認識できるキャラクターである。また、遺伝子を操作され、恐ろしいチカラを有しているキャラクターでもある。

 

 プログラムは、「First Pulse」はじまりの鼓動、「産声」、そして「Utai IV~Reawakening」の再覚醒――と進んでいく。

 

 戦争の果て、世界中でひとりぼっちになったNovaは公園に足を踏み入れる。過去にそこにいた人々の声や日記に触れる。その中には、楽しそうな声とともに、“憎悪”の声も存在していた。数々の言葉の音から、自分に正義がないと戦えないんだ、と彼は悟った。

 

「わたしの正義の音を、よく聴くといい」と、強めの口調の語りが入る。

 

 そして「Mass Destruction-Reload-」を迎える。昨年12月7日にこのプログラムを埼玉公演で観た時、筆者は恐怖を感じた。千葉公演千秋楽は埼玉初日よりも、狂気な様子がより鋭利に筆者を襲った。恐ろしさに磨きがかかっていたように映った。

 

 もちろん、羽生のスケーティング技術は感動するほどレベルが高かった。物語の前後関係を無視して、プログラムの1つとして観れば、ヒップホップで言うパドブレを氷上で綺麗に披露するのはさすがだった。細かなステップ、ターン、それを支えるスタミナは見事である。「ダンスの基礎から学んだ」努力とトレーニングの賜物だろう。羽生は技で観客を魅了した。

 

 話を物語中心の視点に戻そう。Novaが魅せたあの自信たっぷりな姿。それは過信にも近かったかもしれない。良くも悪くも勢い付き、危うい存在になりそうだった。右手でピストルの形をつくり打ち抜く振付、イーグルで会場全体を見まわし、不敵に笑う。肩で風を切って去っていく。筆者はこの姿に毎回、言葉を飲み込み、息を殺してしまう。

 

 羽生は、千秋楽後に「Mass Destruction-Reload-」についてこう語った。

「音をまといながら音を武器として、戦っています。“憎悪の負の感情”に対して、“喜びの感情とか楽しいといった感情”で押しつぶすみたいな感覚」

 

 これが畏怖の念を抱いた正体だった。“ハイな状態”で他者を挑発し続ける背景には、憎悪を喜びや楽しみで凌駕しようとしていたのだ。そこに、狂気じみたNovaを覚えた。

 

 その後、戦いに勝利し、憎悪の声を消し去ったことに成功したNova。「よかった」と思った次の瞬間に、「よかった?……のだろうか」と疑問を持つ。ここから、さらに「命とは」「わたしとは」と言った問いの深みにはまり、その答えを探す旅に出るのだ。

 

 曲のつながりを意識してEchoes of Lifeを観覧すると、羽生、MIKIKO、大勢のスタッフたちが試行錯誤し、このアイスストーリーを創り上げた様子が想像できる。「貴方はこの物語から、何を感じた?」。羽生を含めた、全制作陣からの問いが、一人ひとりの手元に届けられた。

 

((((文/大木雄貴))))

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