エチオピアのタケレがV 日本人トップは市山翼 ~東京マラソン~
2日、世界陸上競技選手権東京大会の日本代表選考を兼ねたアボット・ワールドマラソンメジャーズシリーズ(WMM)の東京マラソン2025が都庁前から東京駅前の行幸通りまでの42.195kmで行われた。タデセ・タケレ(エチオピア)が2時間3分23秒で優勝。2位にデレサ・ゲレタ(エチオピア)が28秒差、3位にはヴィンセント・キプケモイ・ゲティッチ(ケニア)が47秒差で入った。日本人トップは全体10位の市山翼(サンベルクス)で、タイムが日本歴代9位の2時間6分0秒。世界陸上の参加標準記録(2時間6分35秒)をクリアし、代表入りをアピールした。

(写真:自己ベストで優勝したタケレ ©東京マラソン財団)
女子はストゥメ・アセファ・ケベデ(エチオピア)が2時間16分31秒で連覇。日本人トップは安藤友香(しまむら)が2時間23分37秒で全体11位。ジャパンマラソンチャンピオンシップシリーズ(JMCシリーズ)ランキング(23年4月~25年3月で3大会以上に出場し、そのうち2大会の記録と順位を基に日本陸上競技連盟が算出したポイント)で暫定トップに立ち、代表入りに近付いた。女子の国内選考会は9日のナゴヤウィメンズマラソンが最終選考となる。
車いすはパリパラリンピック銅メダリストの鈴木朋樹(トヨタ自動車)が1時間19分14秒の大会新で男子の部を2年連続3度目の優勝。パリパラリンピック金メダリストのカテリーヌ・デブルナー(スイス)の1時間35分56秒の大会新で女子の部を制した。
国内屈指の高速レース。今年も男子は実力者がズラリ顔を揃えた。世界6位2時間2分16秒の自己ベストを持つベンソン・キプルト(ケニア)は前回王者、同7位2時間2分38秒のデレサ・ゲレタはパリオリンピック5位、同9位2時間2分48秒のビルハヌ・レゲセ(エチオピア)は東京マラソン2度(19、20年)の優勝である。またジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ)はパリオリンピック1万m金メダリストで、5000m&1万mの世界記録保持者だ。
世界の壁に挑む男子は世界陸上の最終選考となる。現時点でJMCシリーズランキングトップはパリオリンピック日本代表の小山直城(Honda)。選考期間中の最速タイムは2024年福岡国際マラソンを制した吉田祐也の2時間5分16秒(日本歴代3位)だ。今大会の注目選手は日本歴代2位の2時間5分12秒の自己記録を持つ池田耀平(kao)、パリオリンピック6位入賞の赤﨑暁(九電工)らがエントリーした。

(写真:初マラソンの太田は序盤から積極的な走り ©東京マラソン財団)
また今年の箱根駅伝を制した青山学院大学4年の太田蒼生も出場。2月2日の別府大分毎日マラソンで同期の若林宏樹が2時間6分7秒の日本学生記録を更新。24日には、1学年後輩の黒田朝日がその記録を2秒塗り替えただけに太田の走りに一層の注目が集まった。
スタート地点・都庁の気温は13度。レースは早々に3つの集団に分かれた。スタート1kmで先頭集団は海外有力選手と太田。第2集団がチェプテゲイ、赤﨑暁(九電工)、池田耀平(kao)、浦野雄平(富士通)ら、第3集団が23年世界陸上ブダペスト大会代表の山下一貴(三菱重工)と其田健也(ヤクルト)、18年アジア競技大会金メダリストの井上大仁(三菱重工)、東京オリンピック代表の中村匠吾(富士通)で形成された。
初マラソンの太田は序盤から世界レベルを体感。ペースメーカーのすぐ後ろにつき、エントリー選手の中では先頭をキープした。入りの5kmは14分24秒はケルヴィン・キプタム(ケニア)の持つ世界記録(2時間35秒)よりも速いペース。その後も鈴木健吾(富士通)の日本記録(2時間4分56秒)より速く駆け抜けた。通常は第2集団以降に付く選手が多い中、マラソン初挑戦らしく序盤から突っ込んでいく積極的な姿勢が光った。
しかし、世界の、そしてマラソンの壁は厚かった。ハーフ通過で先頭集団の一番後ろに。その後は第2集団、第3集団に吸収され、離された。35km過ぎに低体温と低血糖により途中棄権となった。それでも主催者より発表されたコメントは前向きだった。<前半から自分のやりたいようにレースを運び、世界のレベルを知れて良い経験ができました>と述べ、こう続けた。
<オリンピックで金メダルを獲るために一歩踏み出せたと思います。次はもっと長く世界と戦い、3年後にはオリンピックで勝ちます>
優勝争いは35km地点でタケレ、ゲレタ、ゲティッチの三つ巴に。40km手前でタケレがスパートを仕掛け、引き離しにかかる。タケレの想定では「40km以降が勝負になると考えていた」と言うが、少し早めに勝負した。抜け出したタケレは、そのまま先頭でフィニッシュテープを切った。優勝タイム2時間3分23秒は自己ベストを1秒塗り替えた。レース後、将来の目標を聞かれると、22歳は「今よりいい走りをして、オリンピックで勝ちたい」と答えた。

(写真:日本人トップの市山。「こういった場で話をするのは得意じゃない」と笑顔 ©東京マラソン財団)
日本人トップ争いは太田が脱落した後、赤﨑も第2集団から離され、出場選手最速タイムを持つの池田が繰り上がった。だが、その池田も40km手前で第3集団にいた市山、浦野雄平(富士通)、井上に吸収された。粘りの走りで日本人トップを奪った市山は「抜きにいくというより走りのリズムを崩さないようにした」とマイペースを貫いた。苦しい表情を浮かべながらも井上、浦野の追い上げを許さず、全体10位でフィニッシュ。レース後、「日本人トップというのはレース後に知った。前を追いかけるつもりでいた」と無欲の走りだったことを明かした。
これで世界陸上の代表選考の俎上に乗ったが、タイムは吉田、今年2月の大阪マラソンで日本人トップ(2位)の近藤亮太(三菱重工)、同2位(3位)の細谷恭平(黒崎播磨)に次ぐ4番目。JMCシリーズポイントのトップは小山となった。選考基準の優先度で言えば、小山が代表最有力。次いで吉田で、最後の3枠目を近藤と市山が争うかたちとなりそうだ。
女子は昨年大会新で優勝したケベデが女子初の大会連覇を成し遂げた。そのケベデから7分6秒遅れたものの、安藤が日本人トップ(11位)でフィニッシュ。「30kmまではペースメーカーの方たちにいいリズムで引っ張っていただいた。ただ単独走となった時にペースを
落としてしまった。自分の目標としていた記録(2時間20分切り)に届かず悔しい気持ちです」とレースを振り返った。

(写真:「新しい環境で陸上をやれることに本当に感謝している」。昨年8月からしまむらに移籍した安藤 ©東京マラソン財団)
とはいえこの日の結果で、JMCシリーズ暫定1位だった鈴木優花(第一生命グループ)を抜き、トップに躍り出た。ナゴヤウィメンズマラソンの結果待ちとなるだろうが、世界陸上代表の最有力候補に。
「もし代表に選ばれるチャンスが巡ってきたら、2017年の世界陸上のリベンジ。今日出た反省や課題をしっかり克服し、成長してまたスタートラインに立てるように準備したいと思います」
8年前の世界陸上ロンドン大会は18位に終わった。以降、マラソン日本代表入りから遠のいている。「ロスオリンピックのステップとして、世界陸上の代表は必ず取りたい」と想いを口にした。
18回目の東京マラソン。昨年、男子の日本人最高位は9位だったが、今年は10位となった。入賞圏内はおろか1ケタ順位からも外れた。参加標準記録突破者はこの日の3人を含め13人目となった。だが、世界との距離が縮まったとは言い難い。日本陸連の高岡寿成シニアディレクター(中長距離・マラソン担当)は「日本記録更新の期待もあったが、なかなか厳しい結果となった」と語った。一方で「世界との差を各選手が実感。果敢に挑戦する姿が日本の可能性を感じさせる」とポジティブな面も言及した。男子はこれで選考レースを終え、ナゴヤウィメンズマラソン後、女子と共に選考に入るという。
(文/杉浦泰介、写真/©東京マラソン財団)