両チームのサポーターは、すでに気もそぞろの状態かもしれない。負けていい試合、カップ戦などあるはずもないが、今回のナビスコ杯は、今季初のタイトルである。世紀を超えて語り継がれることになるあの大災害の年のタイトルである。サッカー界という枠を超えて、多くの人に記憶されるであろうタイトルである。アントラーズとレッズ、両チームにとっては、絶対に負けられない、クラブ史に残る決戦となる。
 しかも、双方のチームがこんなにも「負けられない」理由を持った決勝もない。アントラーズはスタジアムが震災の傷を負った。チームの大黒柱として君臨してきた小笠原は岩手県の出身である。リーグでは早々に優勝争いから脱落し、長くほしいままにしてきた“常勝”の称号に陰りもでてきている。今後も相手が怯えてくれる立場であり続けられるかどうか――。今回の決勝はその分水嶺になるかもしれない。

 一方のレッズも崖っ縁である。一時は一気に日本を象徴するクラブの地位を確立するかに思われたが、今季はついに降格争いを演じるまでになってしまった。満員御礼が当たり前だったホームゲームでは、明らかな空席が目立つようにもなった。かつてチームが大きく飛躍するきっかけともなったナビスコ杯のタイトルは、是が非とも欲しいところだろう。

 人気チーム同士の決勝ということもあり、前売りチケットはわずか1時間ほどで完売したという。注目度は例年の大会にもまして高い。しかも、会場には震災で被災した方々も招待される予定になっている。カップ戦の決勝はいつも特別なものだが、今回の決勝はなおさらに特別である。選手たちには、そのことを肝に銘じて戦ってくれることを望みたい。

 自分たちのチームのファンのみならず、サッカーファン、さらにはサッカーに普段は関心のない人たちの胸をも打つような、歴史的なファイナルを演じてもらいたい。できることならば、勝ちたいという欲求が攻撃的な姿勢となって表れることを期待したい。

 そしてもう一つ。
 3月11日の直後、欧州の多くのクラブが、ファンが日本のために祈りを捧げてくれた。祈りというものが、金銭的、物質的な援助にも負けないぐらい強い支えになることを、勇気を与えてくれることを、多くの日本人は知ったはずである。

 いまは、トルコが世界の祈りを必要としている。
 今年、世界で最も多くの祈りを捧げてもらった国として、世界で最も強く祈りの力を知った国として、キックオフ前にはトルコのために黙祷を捧げてほしい、と思う。

<この原稿は11年10月27日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから