レンジャーズ対カージナルスの対戦となった今季のワールドシリーズは、素晴らしい内容で全米を湧かせる激闘となった。
 実力伯仲の2チームが連日のように接戦を展開し、決着は9年ぶりに最終第7戦に持ち越し。第6戦で2度も「あと1死で敗退」の瀬戸際から這い上がったカージナルスが、最後は球史に残る大逆転劇を完遂させて頂点に立った。
 追い詰められれば追い詰められるほど、逆に研ぎすまされたカージナルスの選手たちのスピリットは見事としか言いようがない。その“ミラクル・ラン”は歴史に刻まれ、永遠に語り継がれていくことだろう。
(写真:第3戦で3本塁打を放ったプーホルスのパフォーマンスも歴史に刻まれるはずだ)
 ただ……そんな快進撃に興奮を覚えながらも、ひとつだけ後味の悪さを感じた部分がある。勝負を決する第7戦が、より適切と思えるテキサスではなく、セントルイスで行なわれたことだ。ア・リーグ西地区を制し、シーズン中の勝率でも上回るレンジャーズではなく、ワイルドカードでプレーオフに滑り込んだカージナルスの方に今シリーズのホームフィールド・アドバンテージが与えられてしまったのである。

 2003年以降、MLBは「オールスターゲームに勝ったリーグがワールドシリーズのホームフィールド・アドバンテージを得る」という制度を導入。今季は7月に行なわれたオールスターでナ・リーグが勝利を収めたため、カージナルスが地元セントルイスで7戦中4戦を開催できることになった。
 保守的なMLBにしては思い切ったルールを取り入れたもので、この制度はこれまでも盛んに議論の対象になってきた。そして今季の場合、そのシステムがワールドシリーズの勝敗に大きな影響を及ぼしてしまった気がしてならなかった。

 もともとシリーズが始まる前から、筆者は「タレント数で上回るレンジャーズが優勢」という大方の予想に反し、カージナルスが有利だろうと考えた。
 レンジャーズは今季ホームでは52勝29敗とメジャー2位の勝率だが、アウェーでは44勝37敗に過ぎない。しかもシリーズ中はDH制のないナ・リーグのルールで4試合、特に重要な最後の2戦を戦わねばならない。

 DHの有無でベースボールは変わるもの。レンジャーズのロン・ワシントン監督は選手を快適にプレーさせるのが得意な監督だが、ナ・リーグのルール下ではメンテナンスの上手さだけでなく、効果的にボタンを押す的確な采配がどうしても求められる。特にカージナルスの知将トニー・ラルーサと対したときに、ワシントンとレンジャーズ選手たちの経験不足が響いてくるように思えたのだ。
(写真:誰からも愛される好漢ワシントンだが、今季も世界一にはたどり着けなかった)

 案の定、第5戦に勝って先に王手をかけたレンジャーズだったが、セントルイスに移っての最後の2戦で連敗。第6戦での奇跡の逆転勝利で気勢を上げ、地元ファンの前で勢いをつけたカージナルスの前に、最終戦では意気消沈してしまったようにも見えた。

 今季のカージナルスまで含め、ワールドシリーズが第7戦にもつれ込んだ場合にはホームチームが過去9連勝。莫大な重圧が必然的にのしかかる中で、地元で戦える利点は語るまでもない。DH制度の有無に患わされず、1年を通じて築きあげてきたラインナップで決戦に臨めることにも重要な意味がある。
 今シリーズでのレンジャーズはセントルイスで1勝3敗。ジャイアンツと対した1年前のワールドシリーズでもサンフランシスコで2戦2敗と勝てず、結果的に2年連続で敗退の憂き目を味わうことになってしまった。

“敵地での戦い方まで含めてチーム力”と言えばそこまでではある。しかし前述通り、今季は常識的に考えてレンジャーズの方がホームフィールド・アドバンテージを得てしかるべきだったとすれば、簡単には納得しかねる。
 筆者もまたカージナルスの神懸かり的な勝負強さに感動させられたもののひとりであり、彼らの栄冠にケチをつける気は毛頭ない。ただその一方で、不当とも思える形で最後の2戦をホームでプレーする権利を奪われたレンジャーズに、多少なりとも同情を覚えずにはいられなかったのも事実である。
(写真:実力伯仲の今シリーズでは、セントルイスで1試合多く開催されたことが勝負を分ける要素の1つとなったように感じられてならない)

 この議題をこのコラムで取り上げるのは、実は2008年に続いて2度目。結論を繰り返すと、大事な最終決戦のアドバンテージが、オールスターゲームの結果によって左右されるというルールは馬鹿げているとしか言いようがない。
「今年のオールスターで決勝弾を打たれたのはレンジャーズのCJ.ウィルソンだったから自業自得ではないか」などという意見も論外。頻繁に選手が入れ替わる球宴はあくまでファンサービスのためのエキジビションであって、それ以上のものではない。

 このシステムに異論を唱えてきたのはもちろん筆者だけではない。しかし数多くの批判的な声を聴いても、バド・セリグ・コミッショナーは「過去のシステムだって決して良くはなかった」と現状維持の姿勢を貫いている。
 確かに1年ごとに両リーグが待ち回りという従来の制度も不公平ではある。しかしそうだとすれば、NBAやNHLのように、シーズン中により多くの勝ち星を挙げたチームがアドバンテージを得れば良いだけのことではないか。そうすればレギュラーシーズンのゲームにより大きな価値が付加されることになり、一石二鳥。1年で162戦を行なうMLBでは、長丁場を乗り切って好成績を残したチームに大きな恩恵がもたらされてしかるべきである。

 現行の理不尽なシステムになって以降、幸か不幸か、ホームフィールド・アドバンテージが明白な形でシリーズの趨勢に響くことはなかった。
 導入前年に行われた2002年のワールドシリーズは第7戦にもつれ込んだが、シーズン中により良い勝率を残したエンジェルスが第6、7戦を地元アナハイムで開催し、ジャイアンツを逆転で下して王座についた。そして近年はどちらかと言えば一方的なワールドシリーズが続き、ホーム&アウェーの矛盾は話題にもならなかった。
 
 しかし今季はシステムの欠陥が比較的分かりやすい形でさらされ、シリーズが終わった今でも少なからぬ人々がこの部分に言及している。そんな今だからこそ、MLBは真剣にこの問題を検討すべきだ。
(写真:テキサスのファンたちも勝負どころの第6、7戦でチームを支える権利を奪われてしまった)

 現在の制度は、球界を挙げてのお祭りであるオールスターゲームの本分を見失わせている。そして何より、MLB最大のイベントであるワールドシリーズに誤った形で影響を与えている。
 一般的に最も大きな注目を浴びるこれらの2つのゲームを、より適切で、より公平な舞台に一刻も早く戻さなければならない。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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