バーレーンは野蛮だった。彼らは山田の顔面を踏みつけたプレーを故意ではなかったと強弁するかもしれないが、避けようとする気配がまるでなかったのも事実である。頭を踏むという行為は、格闘家であっても躊躇することがあるというのに、である。退場を宣告したイラン人主審の判断は、まったくもって妥当だった。
 ただ、バーレーンは野蛮なだけのチームではなかった。試合開始からしばらくの時間、そして後半が始まってからかなりの時間、試合の主導権を握っていたのは彼らの方だった。多分に荒っぽさを含んでいたとはいえ、ボールを持った日本選手に対するアプローチの厳しさは、勝利をつかんでいてもおかしくないレベルにあった。日本が苦戦したのではない。バーレーンが手ごわかったのだ。

 そんな中、目を見張らされたのはボルシアMGから合流し、先制点をあげた大津である。相手の激しさに若干うんざりした様子の選手もいる中、彼だけはバーレーンのチェックをまるでこわがっていなかった。体力的にキツかったのか、後半は存在感が激減してしまったが、攻撃陣のレギュラー争い激化を確信させる出来だった。

 大津は、まだブンデスリーガでは1試合分にも満たない時間しか出場できていない選手である。にもかかわらず、同世代の日本人選手の中に入ると、自信の厚みはいささか別格にさえ感じられた。おそらくは、ボルシアMGのファーブル監督の課す練習の内容が相当に充実しているのだろう。昨季の終盤に監督に就任するとチームを降格の危機から救い、今年は一気に首位争いをしている理由が、大津からうかがえる気がした。

 それにしても、最終予選の初戦で当たったマレーシアといい、今回のバーレーンといい、確実に日本を倒すだけの武器は手にしてぶつかってきている。いまのところ結果には表れていないが、極東と中東、ともにW杯出場経験国を中心に回ってきたアジアのサッカーが、新たな時代に突入しつつあるのではないかという予感がする。日本にとってはますます厳しい、しかし、勝ち抜くことによって得られる経験値がより大きくなる時代がやってくる。

 27日に国立で戦うシリアは、日本を苦しめたバーレーンから3得点を奪っている。おそらくは、この直接対決で勝利を収めた側が、ロンドン行きに大きく近づくことになるだろう。経験によって選手は変わる。短期間でも大きく変わる。サッカーの母国と言われる国での真剣勝負を味わうために、選手たちには大いに貪欲になってほしい。

<この原稿は11年11月24日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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