沖縄にサッカー専用競技場を造るための調査検討委員会が設立され、わたしも、そのメンバーに選ばれた。いいものを造るためには、まずいいものを見る必要がある。そのため、後ろ髪を引かれつつもクラブW杯に背を向け、沖縄の関係者と駆け足で欧州を回ってきた。
 正直、衝撃を受けている。
 カシマスタジアムが完成した時、「これで日本も欧州のスタジアム水準に大きく近づいた」と思った。埼玉スタジアムが完成した時は「これで追いついた」と思った。それが間違っていたとは思わない。けれども、02年を最後に進化も成長も終えてしまった観のある日本のスタジアムに比べ、欧州のスタジアムはいまなお日進月歩を続けていた。

 その好例がドイツである。今回、わたしは過去に訪れたことのあるいくつかのスタジアムを再訪したが、そのすべてが、5年前とは違った姿になっていた。座席を増設したところ、陸上競技場をなくしたところ、屋根を架設したところ、トイレの数を増やしたところ――。W杯の遺産を食いつぶしているのが日本のスタジアムだとしたら、ドイツのスタジアムはW杯をきっかけにしていた、と言えるかもしれない。

 さらに、欧州ではスタジアムが単なるスタジアムではなくなる時代に突入しようとしている。フランス北部のリールで建設中のスタジアムは、ピッチの半面が可動式になっており、動いたグラウンドの下からはテニスやバスケットなどができるアレーナが出現する仕組みになっていた。ホテルやショッピングモール、老人ホームなどを併設しているスタジアムもあった。

「助言をするとしたら、サッカー場を造る、という発想は捨てよ、ということです。いまやスタジアムの建設は、都市計画として考えるべき時代なのです」

 全世界に超近代的な複合型スタジアムを建設しているデュッセルドルフの建設会社「HPP」で聞いた話には、目からウロコがボロボロと落ちる気分にさせられた。内田が所属するシャルケの“アレーナ・アウフ・シャルケ”などをデザインしたシュミッツ氏は言う。
「雨に濡れる。汚いトイレに並ぶ。アクセスが悪い。誰がそんなスタジアムに行きたがるでしょうか」

 氏の元には全世界から設計の依頼が殺到しており、その中には中国・大連からのオファーも含まれている。
 シュミッツ氏は、自らが考える究極のスタジアムだという模型も見せてくれた。あまりに奇抜な姿に「SFの世界ですね」とつぶやくと彼は笑った。
「でも、現実なんだ」
 円錐形をしたその超複合型スタジアムは、いまから11年後、カタールに出現する。

<この原稿は11年12月22日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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