【パッカーズ、連覇なるか】

 昨季スーパーボウル王者のグリーンベイ・パッカーズは、今季もレギュラーシーズンでは15勝1敗と圧倒的な強さをマークしてきた。エースQBアーロン・ロジャース(今季のQBレイティング122.5はリーグ記録)のシーズンMVP受賞も有力。連覇が難しいとされるNFLで、ロジャースに率いられたパッカーズが2年連続のスーパーボウル制覇を果たすかどうかこそが今プレーオフの最大の見どころと言ってよい。
(写真:“アメリカの情熱”と呼ばれるNFLのプレーオフはまさに全米を熱狂させる)
 ロジャースを絶対の軸に、WRグレッグ・ジェニングス、ジョーデイ・ネルソン、TEジャーマイケル・フィンリーらが織りなすパス攻撃は脅威。その攻撃力に対抗し得るチームは多くない。ただ、そのパッカーズも実はここまで完璧な形で勝ち続けてきたわけではない。

 15勝のうち6勝は8点差以内の接戦で挙げたもので、しかも1試合ごとに奪われた平均ヤーデージ411.6はなんとリーグ最下位。今プレーオフ中もニューオリンズ・セインツ(総獲得ヤードはNFL1位)、ニューヨーク・ジャイアンツ(同8位)といった攻撃力の高いNFCチームと対戦したとき、ディフェンス難ゆえに苦しむケースは充分に考えられそうだ。

 しかしこの包囲網を突破できれば、すでに現役最高のQBの一人に挙げられるようになったロジャースの評価はさらに上がるはず。特に今季のシーズンMVPに加え、もしも2年連続でスーパーボウルMVPを受賞するようなことがあれば……そのときには、ロジャースの名声は早くも歴史的な位置に到達することになるかもしれない。

【AFCを勝ち抜いてくるのは】

 パッカーズ、セインツがやや抜きん出た感のあるNFCに対し、AFCは混戦が予想される。
 第1シードはお馴染みのニューイングランド・ペイトリオッツ。しかしパス守備はリーグ史上ワースト2位という数字が示す通り、今季のペイトリオッツは過去のようにスキのなさを感じさせるチームではない。
(写真:この時期はスポーツファンの間の話題もNFL一辺倒になる)

 昨季スーパーボウルに進んだピッツバーグ・スティーラーズも、QBベン・ロスリスバーガー、RBラシャード・メンデンホール(出場は絶望)といった主力がケガに悩まされている。この状態で、すべてアウェー戦となりそうなプレーオフを何とか勝ち上がっていけるのかどうか。
 さらにエースQBマット・ショーブ不在のヒューストン・テキサンズ、勝ち越しチームには1勝6敗と苦しんできたシンシナティ・ベンガルズ、シーズン最後の3戦で全敗したデンバー・ブロンコスも、総じて評価は高いとは言えない。

 そんな中で有力候補となりそうなのは、最も不安要素が少ない第2シードのボルティモア・レイブンズ。QBジョー・フラコは絶対の存在ではないが、ラン攻撃と強固な守備で勝機を見出すパターンは確立されている。今季ホームで8戦全勝だったレイブンズにとって、ディビジョナル・プレーオフを地元で戦えるのも有利な材料と言って良い。
 本命不在の中で、勝ち方を知ったペイトリオッツの存在はもちろん怖い。しかしディフェンス力では上回るレイブンズに、今季は11年振りのスーパーボウル進出への絶好機が到来したと見る。

【ジャイアンツは奇跡を再現できるか】

 NFCの中で、ニューヨーク・ジャイアンツをダークホースに挙げる関係者は少なくない。シーズン中の9勝7敗という成績は二流に思えるが、最後の2週でニューヨーク・ジェッツとダラス・カウボーイズに連勝して息を吹き返した。ここにきてディフェンスが落ち着き始めているだけに、誰にとっても対戦したくない危険なチームではあるのだろう。

 振り返れば2008年、第5シードでプレーオフに進出したジャイアンツは、無印の状態からタンパベイ・バッカニアーズ、カウボーイズ、パッカーズ、ペイトリオッツを撃破。まさかの快進撃でスーパーボウルまで勝ち抜き、奇跡的な形で頂点に立った。そして今季のロースター構成、周囲に漂う空気は、あの年のチームによく似ていると言われる。
 実際にトム・コフリンHC、QBイーライ・マニングがチームの中心である点は4年前から変わっていない。特にマニングが一皮むけたプレーを続けているのは心強い材料だし、RB、WR、守備ラインにも武器になる選手は揃っている。
(写真:4年前の王者ジャイアンツは油断ならないチームだ)

 2008年と比べてNFCのレベルは上がっているかもしれないが、それでもジャイアンツは今季、第1シードのパッカーズ、第2シードのサンフランシスコ49ersと終盤までもつれ込む大接戦を演じている。そして幸運にも、シーズン中に唯一惨敗を喫したセインツとの対戦の可能性は高くない(あるとすればNFCチャンピオンシップ)。だとすれば……?

 まずは今週末、地元で戦うアトランタ・ファルコンズとのワイルドカード戦が第1関門となる。ここを首尾良く勝ち抜けば、翌週のディビジョナル・プレーオフではパッカーズと激突。シーズン中には35—38で惜しくも敗れた昨季王者とのリマッチが実現すれば、このマッチアップは番狂わせの匂いもほのかに漂う魅力的な一戦となりそうである。

【“神の子”ティーボウ、初のプレーオフへ】

 今シーズン、最も大きな話題を集めた選手は間違いなくブロコンスのQBティム・ティーボウである。チームは開幕から1勝4敗の苦しいスタートを切ったが、6戦目から2年目のティーボウを先発起用すると戦況は一変。ゲーム終盤の逆転劇を繰り返し、6週目から7勝1敗と勝ち続けて一気にプレーオフに手が届く位置までたどり着いたのだ。

 フロリダ大学を全米王者に導いた大学時代から、ティーボウの走力はQBとしてはずば抜けていた。しかしパサーとしての能力は疑問視され、今季もパス成功率は46.5%。それでもここ一番ではビッグプレーを成功させ、ブロンコスに神懸かり的な勝利をもたらしてきた。
 敬虔なクリスチャンであることから、授かった愛称は“神の子”。実際にその勝ち上がり方が、観ているものに何か特別な力を感じさせたことも確かだった。
(写真:ティーボウの説明し難い活躍は地元メディアにも大きく取り上げられた)

 ただ、そのティーボウとブロンコスも、シーズン最後の3ゲームには連敗。地区レベルの低さにも助けられて2005年以来の地区優勝を達成したものの、「アン・オーソドックスなプレースタイルはすでに見切られた」と語る識者も一気に増えていった。「スポーツイラストレイテッド」誌のウェブサイトで選定されたプレーオフチームのパワーランキングでも、ブロンコスは全12チームの中で最下位にランクされている。

 今週末のワイルドカード戦で対戦するのは、去年のAFC王者スティーラーズ。ここでティーボウは、再び驚異的な勝負強さを発揮できるか。それとも懸念されている通りに、大舞台で地力の物足りなさを思い知らされてしまうか。
 伝統の強豪チームを相手に、ブロンコス不利の予想は圧倒的。ただ、8勝8敗でも地区優勝を飾れたこと、ここにきてスティーラーズの主力にケガ人が続出していることなど、ティーボウの“魔法”がまだ続くことを予感させる要素も少なからずあるのだが……。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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