現役2大ボクサーによる最強決戦はやはり行われない運命なのだろうか。
 元恋人に暴行した罪で1月6日から収監される予定だったフロイド・メイウェザーだったが、その収監日当日に刑執行の延期が決定。5月5日に予定される次戦の挙行が可能になった時点では、誰もが熱望するマニー・パッキャオとの一戦が実現に向かうかと思われた。
(パッキャオ(写真右)はブラッドリーと、メイウェザーはコット(写真左)との対戦が決まった)
 5月の試合後にメイウェザーが3カ月に渡って収監されるとなれば、2012年以内にもう1戦行なえるかは微妙なところである。メイウェザーは来週(2月24日)に35歳になり、パッキャオもすでに33歳。すでにピークは過ぎたと目される2人だけに、対決を来年以降に持ち越せば、もう本当に時期を逃してしまう感は否めない。
 そんな背景を理解してか、メイウェザーはツイッター上で、パッキャオはフィリピンメディア相手のインタヴューなどで直接対決希望をアピール。両者の言葉が盛んに報道されていた頃には、「もしかしたら、今度こそ」と多くの関係者に希望を持たせた。

 しかし、この決戦は結局はまとまることなく、2月に入って両雄はそれぞれ別の相手と5、6月に次戦を行なうことを発表した。関係者の話を聴く限り、当人同士の公での派手な発言があったとはいえ、両サイドの正式な交渉はどうも行なわれなかったようである。
 2人のドル箱ボクサーは誰と戦っても莫大な興行収入をあげるだけに、わざわざ直接対決させて敗戦のリスクを負いたくない。両陣営がそう考えたのだとしたら、その気持ちも理解できなくはない。

 対決すればとてつもない額の利益を得られはするだろうが、パッキャオが契約するトップランク社と、メイウェザーが提携するゴールデンボーイ・プロモーションズは興行収入を折半しなければならない。だとすれば、それぞれ自前の興行で利益を総取りした方が手っ取り早いと考えるのも筋は通っている(実入りは減るかもしれないが、手間とリスクが省ける)。

 ただ、そんな興行上の事情を理解した上でも、ファン、関係者は落胆を禁じ得ない。人気、実力を兼ね備えた世代を代表する2人のボクサーが、ほぼ同等の階級に揃うことなど、そう頻繁にあることではない。このまま両者が対戦を避け続けた場合、特にメイウェザーのレジュメには一点のシミが残ってしまう。
 2人が次戦を問題なく突破し、メイウェザーが刑期を首尾良く終え(品行方正なら短縮されることもあり得る)、11月についに相見えるという電撃的な展開に一縷の期待を寄せたいが……。


 5月5日@ラスベガスMGMグランドガーデン・アリーナ
WBAスーパーウェルター級タイトルマッチ
ミゲール・コット(37勝(30KO)2敗)
 対
フロイド・メイウェザー(42勝(26KO)0敗)

 前述通りメイウェザーとパッキャオの両陣営は交渉の席に就いた形跡はなく、最終的には対戦相手としてコットの取り合いとなったようである。
 パッキャオ側もコットとの2009年11月以来の再戦を望んでいた。しかし現在スーパーウェルター級王者のコットに、ウェルター級近くのウェイトまで下りてくることを要求。この点が決め手となって、スーパーウェルター級リミットでの対戦を受諾したメイウェザーがコットを射止めることになった。

 長く中量級を湧かせてきた将来の殿堂入り確実なボクサー同士。コットが全盛期を迎えていた08年頃に実現していれば、という想いが頭をよぎらないこともない。現時点で対戦しても、よりピークに近く、スピード、ディフェンス力で大きく上回るメイウェザーの断然有利は動かないところだろう。

 ただリカルド・マヨルガ、アントニオ・マルガリートを相手にした、ここ2戦でのコットは動きが良かったし、メイウェザーにとってスーパーウェルター級でのファイトは2007年5月以来(オスカー・デラホーヤ戦)となる。コットが馬力を上手く活かして戦えば、意外にもつれることもあり得るかもしれない。

 コットがアメリカ国内ではメイウェザー、パッキャオに次ぐ人気を誇っていること、メキシコの新星サウル・アルバレスがセミファイナルでシェーン・モズリーと対戦すること、シンコ・デ・マヨ(メキシコ人の祝日)の5月5日に開催されることなどもあって、この興行の大成功は確実。
 メイウェザー対パッキャオが実現しない限り、このカードが2012年最大の興行収入を稼ぐことになるはず。当日のMGMグランドガーデン・アリーナは、とてつもない熱気に包まれることは間違いない。
(写真:5月5日のラスベガスはお祭り騒ぎになることだろう)

 6月9日@ラスベガス
WBOウェルター級タイトルマッチ
マニー・パッキャオ(54勝(38KO)3敗2分)
 対
ティモシー・ブラッドリー(28勝(12KO)0敗)

 第1希望のコットを奪われたパッキャオの方は、ティモシー・ブラッドリー、ファン・マヌエル・マルケス、ラモント・ピーターソンの中から次戦の相手を選ぶと伝えられた。そしてパッキャオ陣営が選択したのはティム・ブラッドリー。
ここまで連勝街道を走ってきたブラッドリーは、スキルとスピードを備えた好ボクサーである。パッキャオ戦も見応えのある試合になる可能性はある。

「専守防衛だったジョシュア・クロッティとパッキャオ戦に似たパターンの大凡戦になるのではないか」という声も聞くが、28歳と年齢的にも今が最盛期のブラッドリーは少なくとも勝ちにはくるように思う。
 快進撃を続けていた頃のパッキャオなら、それでもスピードを活かして圧勝するだろう。しかし下り坂にいるのなら相手の底力に苦しみかねない。ややスローダウンも囁かれるパッキャオの現在の力を測るのに、ブラッドリーは格好のリトマス紙的な対戦相手ではあるのかもしれない。

 ただ……、この試合が発表されたとき、アメリカ国内のほとんどのファンから落胆の声が挙がった。ブラッドリーは実力者ではあるものの、観ているものをワクワクさせるスターボクサーではない。確固たるファンベースは持たず、中規模程度の会場も満員にできないような選手である。
(写真:ブラッドリーも好ボクサーだが、興行価値は低い)

 いかに百戦錬磨のトップランク社と言えど、ブラッドリーの売り出しには苦しむはず。もちろんパッキャオの試合なら誰が相手でも大イベントにはなるが、メイウェザー対コット戦には米国内の興行収入で遠く及ばないだろう。ペイパービューの売り上げでもメイウェザー対コット戦は150万件前後が期待出来るのに対し、パッキャオ対ブラッドリーは100万件程度に止まるのではないか。

 少々気の早い話だが、ここで2強の最新試合の興行成績に大きな差が付くことは後々にも響きかねない。秋にメイウェザーとパッキャオの直接対決に向けての話し合いが行なわれたとして、メイウェザーに条件交渉面で新たな武器を与えてしまうことになりかねないようにも思えるのだ。

 そんな事態を避けるため、パッキャオには久々にインパクトのある勝ち方が求められてくる。過去4戦はKO勝利を逃し、前戦ではマルケス相手に負けに等しい苦戦を味わった後だけに、スピードを利して淡々とポイントを積み重ねるだけでは大きな賞讃は得られないはずだ。
(写真:前戦でマルケスに苦しんだパッキャオにとって名誉挽回の舞台となる)

 間違いなく内容が問われることになるブラッドリー戦。これまで何度も私たちを驚嘆させてくれたパッキャオは、再びファンを驚かせ、予想を超えるパフォーマンスを見せることができるだろうか。




杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY
※Twitterもスタート>>こちら
◎バックナンバーはこちらから