ブルガリア・リーグのスラビア・ソフィアに、シンガポール・リーグでプレーしていた日本人選手、秋吉泰佑の入団が決まった。契約は2年半。G大阪やC大阪からのオファーを断った上での入団だったという。ブルガリア・リーグでプレーする初めての日本人選手となる秋吉には、ぜひとも頑張ってもらいたいと思う。
 それにしても、世界中どこのリーグであっても飛び込んでいくブラジル人ほどではないものの、日本人選手もずいぶんと海外でプレーするようになった。もはや“日本人=サッカー下手の代名詞”だった時代は完全に過去のものとなり、また、“日本人選手=スポンサーとセット”的な見方も次第に薄れつつある。日本人選手が海外へ飛び出していく流れは、間違いなく今後も加速していくことだろう。

 だが、その逆の流れに相変わらず勢いなり新鮮味が出てこないのはいかなるものか。つまり、ブルガリアに初の日本人選手が誕生したように、Jリーグ初のシリア人選手、マレーシア人選手といった“初”の存在が一向に生まれないのはどうしてなのか。
 折しも、Jリーグ自体はアジア市場への進出を真剣に考え始めている。しかし、いくらJリーグ側が放送権を売り込んだところで、現状ではさして大きな反響があるとも思えない。アジアの多くの国からすれば、Jリーグは欧州リーグと同じぐらい遠くて無縁の存在であり、どうせ遠くて無縁のサッカーを見るならば、世界的な名手の多い欧州のリーグにチャンネルをあわせるのは自然の流れだからだ。

 しかし、自国の選手がプレーしているとなれば、話は劇的に変わってくる。カズが、中田が、イタリアに渡ったからこそ、多くの日本人は欧州のサッカーに興味を持つようになったのではなかったか。
 もしJリーグが本気でアジア市場を開拓しようというのであれば、Jリーグでプレーするアジア人選手を増やす必要がある。アジアからの選手を獲得したチームに対する優遇措置等、リーグとして各クラブの獲得意欲を刺激するような案を出してみても面白い。

 アジアのサッカーは、ここに来て急激な成長と変化を遂げつつある。そのことは、日本に限らず、韓国やオーストラリアも、今回の五輪予選で大苦戦を強いられていることからも明らかである。にもかかわらず、アジアを選手獲得の場として見なすJのクラブが一向に現れないことに、わたしはちょっとした苛立ちさえ覚えてしまう。日本が手をつけなければ、近い将来、間違いなく欧州のクラブがアジアに目をつける。ごくごく近い将来に。

<この原稿は12年2月23日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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