中国2部リーグの深圳紅鉆で監督をやっているトルシエが、キャンプのため久しぶりに沖縄へやってきた。率いているチームの状況はあまり芳しいものではないようだが、中国での生活は大いに楽しんでいるという。
 「外国人枠がJリーグより多い分、そしてギャラが高い分、質の高いサッカーをするチームが増えてきている。ACLで柏と同じ組に入った広州恒大なんかは、アジア最強といってもいいんじゃないかな」

 調べてみると、広州はACLの初戦、韓国の全北現代を5−1と粉砕している。それも、敵地で。なるほど、これはちょっと普通のスコアではない。柏との対戦は4月4日に予定されているが、楽しみな一戦になりそうだ。
 ちなみに、いま中国のトップクラスのチームでは、1試合あたりの勝利給が日本円にして300万円程度になるところも珍しくないという。ただ、チームによっては負けた際に返金を求めるところもあるらしく、無条件で高収入が約束されている、というわけではないらしい。

 「ただ、クラブが外国人頼みになってしまっている分、代表ではカギとなるポジションの選手が育たないということになってしまっている。五輪予選もW杯予選も、早々に敗退してしまったしね」

 20年前のわたしは、プロ・リーグさえできれば日本のサッカーは無条件で強くなると確信していたし、実際、Jリーグが発足してからの日本代表はメキメキと強くなった。だが、確信は、もしかすると錯覚だったのかもしれない。中国で同じことは起こらなかった。期待した人、覚悟した人が多数いたはずだが、そうはならなかった。少なくとも、活況を呈しているリーグほどには中国代表は強くならなかった――いままでのところ。彼らがW杯に出場したのは、依然として日本と韓国が予選に参加しなかった02年大会のみ、である。

 「日本の最終予選? もちろん簡単な試合などあるはずもないが、イラン、ウズベキスタンと同じ組になってしまった韓国より恵まれたのは間違いないね。よほどのことがない限り、日本とオーストラリアで決まりだろう」

 基本的にはわたしも同じような印象を持っているが、ただ、五輪予選を見ても、近年のアジアがもはや以前のアジアでなくなりつつあるのは明らかである。日本は大丈夫だと信じたいが、いずれかの本命がブラジルまでたどりつけなくなってしまう可能性は否定できない。それがタフな組に入った韓国なのか、それとも主力の高齢化が目立ち、五輪予選でも敗退したオーストラリアなのか……。全アジアをしびれさせる最終予選が、まもなく始まる。

<この原稿は12年3月22日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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