二宮: 一昨年に東京国際大学女子サッカー部の監督に就任されました。監督挑戦のきっかけは?
大竹: 同校の男子サッカー部監督である前田秀樹さん(元日本代表)にお声をかけていただいたんです。女子サッカー部を創部するからという話でした。ただ、私の中で監督は「生活のすべてを懸けないと難しい仕事」だと思っていたので、その時点ではお断りしたんです。

 監督は自分らしくいられる場所

二宮: 確かに、ふたつ返事で引き受けられる仕事ではないですね。
大竹: お断りしたことに責任は感じていたので、女子日本代表で後輩だった知人を紹介したんです。また、他にも候補が5、6人いたそうですが、すべてうまく話がまとまらなかった。半年ほど経っても創部の話が聞こえてこなかったので、前田さんに「本当に女子サッカー部を創るんですか?」と伺ったんです。

二宮: 動向は気になっていたわけですね。
大竹: その時も前田さんは「やるよ」と仰っていたのですが、一向に立ち上がらないんですよね(笑)。それで、私の中でいろいろなことを考えたんです。大学をはじめ、女子サッカーに力を入れるチームが増えることで、選手の受け皿が大きくなる。そうなると指導者の数も必要になってくる……。最初にお話をいただいてから1年ほど経っていたと思います。気持ちの整理をつけて前田さんに「やってみたいです」と伝えました。そうしたら「おお、そうか」となって、そこからはトントン拍子で話が進みました。2週間後に理事長にお会いして、すぐ契約に至りました(笑)。

二宮: 大学側は大竹さんが決断をするのを待っていたのかもしれません(笑)。
大竹: タイミングもあったと思います。引退してからは正直、「現役時代の喜びに変えられるものがない」との悩みがありました。仲のいい元競泳の岩崎恭子ちゃん、田中雅美ちゃん、レスリングの山本美憂ちゃんたちと集まった時も、よくその話になっていたんです。私たちは引退して、メディアでのお仕事などいろいろなことをやってきました。でも、現役時代のようにすべてを賭けて没頭できるものがない。みんな、「それが苦しい」と言っていましたね。

二宮: 一言で言えば、現役時代以上の達成感が味わえないということでしょうか。
大竹: 「どんなに体がボロボロになっても、現役でできるんだったらそれが一番いい」という話になるんです。だから、引退した人たちが監督やコーチとして現場に戻りたい気持ちがよくわかります。プレーはできなくても、競技に没頭できますからね。私も監督をやらせてもらって、引退してから初めて自分らしくいられると感じています。

 ゴールを奪うためのポゼッションサッカー

二宮: 大好きなサッカーに携われるとはいえ、創部したての部を指導するのは大変だったでしょう?
大竹: 正直言って、なでしこリーグなどのトップレベルと「ここまで実力差が離れているのか」と驚きました。それはウチの選手も対戦相手も同じ印象です。ただ、一生懸命さはトップの選手たちと何ら変わりません。サッカーが大好きという気持ちも。まだまだ実力はついてきてないけれども、サッカーが大好きな女の子たちがたくさんいる。この状況を知って、とてもうれしくなりましたね。

二宮: それだけ情熱の注ぎ甲斐があるというわけですね。
大竹: あとは、高校年代の指導をもっと充実させる必要があると感じました。たとえば、私はベレーザというクラブチームで中学生からプレーしてきました。ベレーザには女子サッカーのトップレベルの選手が集まってくる。だから下部組織のメニーナ(中学〜高校年代)であっても、大学生のチームに負けないんですよ。それは経験豊富な指導者の下で、理論に基づいたメニューを毎日こなしていることが大きいのでしょう。前回も話題に上がりましたが、女子は男子と比べて成長が早い。ですから、成長期に充実したトレーニングができるかできないかで、選手のその後が大きく変わってきます。

二宮: 大学から本格的に指導するのでは間に合わないと?
大竹: 間に合わないというか、もったいないですよね。高校の3年間でもっと細かいスキル、頭を使うサッカーを指導者が教えられるようになれば、女子サッカーはさらに強くなると思うんです。もちろん、大学に入ってから成長する選手もいます。ただ、それでも急激に伸びるわけではありません。大学の女子サッカーには、高いポテンシャルを持った選手がたくさんいます。その多くが才能を伸ばしきれなくて上のステージに行けていない。大学で指導するようになってからこの現状を知って、すごくもどかしい思いです。

 努力の仕方を教える

二宮: そのなかで東京国際大ではどういうチームづくりを?
大竹: ディフェンスを重視していますね。もちろんオフェンスも大切ですが、まずは守備がしっかりしていないといけません。

二宮: 守備からというのは、なでしこジャパンのサッカーにも通ずる部分があります。やはり目指すのはなでしこのようなスタイルでしょうか?
大竹: うーん……なでしこというより、ベレーザのスタイルですかね。ベレーザもなでしこのサッカーと似ているんですよ。まずは高い位置から守備をすること。どんなに相手のほうが実力は上でも、引いて守ることはしません。高い位置でボールを奪えれば、そこから攻撃につなげられますからね。

二宮: オフェンスで指示していることは?
大竹: ボールを奪ってから、細かいパス回しで攻撃を組み立てることです。ただ、単にボールを支配するだけでは相手は怖くありません。各選手がボール離れを早くして、勝負どころではしっかりとドリブルなどで仕掛ける。ゴールを奪うためのポゼッションサッカーを目指しています。

二宮: 全員が仕掛けられるという点では、バルセロナのようなサッカーですかね。バルサはFWを置かない「ゼロトップ」を採用しています。
大竹: 次元が違いますよ(笑)。ゼロトップは、バルサのように全員が超一流の技術を持っていて初めて機能するんです。また、バルサは多くの選手がボールを持った味方を追い越していますよね。常にゴールに前進する意識を持たなければ、ゼロトップは相手にとって怖くない。ただ、中盤でパスを回しているだけになってしまいますから。

二宮: 現役時代の自身の経験を選手に伝えることはありますか?
大竹: うーん……その時のケースによりますね。私が成功した方法だからといって、他人にもそのやり方が適しているとは限りません。ですので、いつも「自分に合ったやり方を覚えなさい」と言っています。たとえば食事ひとつとっても、私の現役時代はお肉を食べるのはあまりよくないと言われていたんです。でも、私はお肉を食べたほうが動ける体を維持できましたからね。

二宮: 自らの考えを押し付けるようなことはしないと?
大竹: 努力の仕方だけは教えます。私の場合、家に帰ってから必ず腹筋、背筋、腕立て伏せを行っていました。練習でみんなと同じメニューをやるだけでは、差がつかないからです。あとは捻挫の予防のために、ゴムチューブを足にかけて足首を外、内、前に動かすストレッチもやっていましたね。また同じ練習でも苦しいところで手を抜かず、さらに一歩踏ん張れば効果は違ってくる。常に100パーセントで練習する意識を持ちなさいとは伝えています。

 主人の第一印象は「何なの?」

二宮: 6月には13歳年下のJリーガーである弦巻拳東選手(松本山雅FC)との結婚が話題になりました。ご主人との馴れ初めは?
大竹: 実はかなり昔なんです。私が現役時代、拳東はヴェルディの下部組織でプレーしていました。ベレーザもヴェルディも同じ経営母体なので、当時は練習場所も同じでした。さらに筋トレルームは男女兼用だったので、そこで拳東が私を見たことがあるらしいんです。当然、その時、私は気づいていません。それを知ったのは引退後です。取材などでヴェルディのクラブハウスに行った際に、拳東と少し話をする機会があって言われました。ただ、その頃は「ふーん、何なの?」という感じで全然気にも留めなかったですね(笑)。

二宮: 「何なの?」が恋に発展したきっかけは(笑)?
大竹: ある日、取材で練習場にいくと、拳東の顔がキラキラと光っていたんです! 「なんであの選手だけにスポットライトが当たっていて、キラキラするんだろう?」と、それからすごく彼のことが気になるようになりました。後日、練習場に行った時も、周りに他の選手もいるのに私の目には拳東だけがキラキラと光り輝いて見えました。

二宮: ということは大竹さんの一目ぼれ?
大竹: 一目ぼれなんですかねぇ。とにかくキラキラしていることが気になっていたので(笑)。そしてお互いにブログを通して連絡を取り合うようになって、徐々に仲良くなっていきました。そこから付き合う流れになっていったんですが、付き合う前に「俺と結婚できる?」と聞かれたんですよ。

二宮: 大竹さんの返事は?
大竹: 年齢のこともあるし、一瞬、答えられなかったんですよ。すると彼が「ほらね。じゃあ、いいよ。忘れて」と……。直後に「できる! 結婚できる!」と慌てて返事をしている自分がいました(笑)。それが付き合い始めるきっかけになりましたね。

二宮: ロマンチックですねぇ。ご主人とはサッカー談議も盛り上がるでしょう?
大竹: サッカー談議といいますか、大学の選手のプレーするビデオを一緒に見てもらって、「どう思う?」と聞いていますね(笑)。すると彼は「こうしたほうがいいんじゃない?」と教えてくれます。拳東からも、彼の出ている試合を「見て」と言われることもありますよ。

二宮: 大竹さんからはどんなアドバイスをするんですか?
大竹: シュートを打てる場面でパスやドリブルを選択していると「なんでシュートを打たないの!」と怒りますね(笑)。相手にとって怖いのは前に仕掛けていく選手。いつもゴールに対して後ろを向いていたり、後方にボールを下げたりする選手は怖くない。常にゴールを頭にイメージしながら動くことが相手の脅威になるんです。そういうことを話しながら、映像を見て「ほら、今の場面はこうすれば打てるでしょう?」とアドバイスすることもあります。あとは、2人で人生の目標を立てて、それを達成するためには、何をしていく必要があるのかは話し合っています。2人で人生を良くしていくために、少しずつ課題をクリアしていく毎日ですね。

 当面の目標は全日本選手権出場

二宮: まさに“人生のパートナー”ということですね。ただ、今は大竹さんが埼玉、ご主人が長野県の松本と離れて暮らしています。これは寂しいでしょう?
大竹: そうですね。月に1回会えるか会えないか。付き合っている時は、離れていてもしょうがないと思えるから平気でした。ですが、今は「結婚したのになんで離れていなきゃいけないんだろう」と、悲しい気持ちになることがあります。

二宮: 時にはひとりで寂しくて泣いてしまうことも(笑)?
大竹: それはないですよ(笑)。私にも監督という大切な仕事があります。今は、離れていても自分のやるべきことをしっかりやる。今は離れていても一生一緒なんだからと思って我慢しています。

二宮: 東京国際大の監督としての今後の目標は?
大竹: 今は関東大学女子サッカー1部への昇格ですね。創部初年度の昨年は3部リーグに参戦して、全勝優勝で2部昇格を決めました。なんとか今シーズン、1部に上がりたい。昇格すれば大学日本一を決める全日本大学女子サッカー選手権にも出場できます。今年は部員数も増えて確実にレベルアップしているので期待しています。

二宮: 全日本女子サッカー選手権に出場できるようになれば、古巣のベレーザなどとも対戦する可能性が出てきます。
大竹: 楽しみですね。現役時代は、全日本選手権のトーナメントの組み合わせが決まっても、見ることさえしませんでした。それほど、決勝まで勝ち進んで、優勝することに自信を持っていましたからね。今はいつトーナメント表に東京国際大学の名前が載るか楽しみにしているんです(笑)。

二宮: 目標を達成して、祝杯があげられるといいですね。
大竹: 選手とお酒を飲んだことは今までないのですが、のちのち卒業したメンバーと思い出話をしながら、お酒が楽しめるような関係ができるといいなと思っています。

二宮: 最後に改めて、そば焼酎「雲海 黒麹」のはいかがでしたか?
大竹: そば焼酎と聞いた時は、どうしても食べる「そば」をイメージしていました(笑)。でも、クセがまったくなくて、とても飲みやすい。ソーダ割りも炭酸がマッチしていて、おいしかったです。

二宮: 今度はご主人と一緒に、ぜひソーダ割りを(笑)。この続きを、またどこかでやりましょう!

(おわり)

<大竹七未(おおたけ・なみ)プロフィール>
1974年7月30日、東京都生まれ。小学2年時より双子の妹・夕魅とサッカーを始める。13歳で読売ベレーザ(現日テレ)に加入。独特のリズムと高速ドリブルを武器にFWとしてゴールを量産。Lリーグ(現なでしこリーグ)では史上初の通算100得点を記録。ベレーザの全日本選手権4連覇、日本女子リーグ3連覇に貢献した。日本代表では2度のW杯(95年スウェーデン大会、99年米国大会)、1度の五輪(96年アトランタ大会)に出場。国際Aマッチ46試合29得点。01年に現役引退後は、解説者として活躍。10年から東京国際大女子サッカー部の監督に就任した。この6月にはJリーガーの弦巻拳東(松本山雅)と結婚。


★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

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<対談協力>
三国一 アイランドイッツ店
東京都新宿区西新宿6−5−1 新宿アイランドタワーB1F
TEL:03-3346-3591
営業時間:
平日  11:00〜23:00(L.O.22:40)
土曜  11:00〜22:30(L.O.22:00)
日祝  11:00〜22:00

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◎クイズ◎
 今回、大竹七未さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:鈴木友多)
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