ロンドン五輪の興奮冷めやらぬなか、欧州フットボール界の新シーズンが幕を開けた。昨季、ドイツ・ドルトムントでMVP級の活躍を見せた香川真司は世界的メガクラブのマンチェスター・ユナイテッドに移籍。五輪で日本の躍進に貢献した清武弘嗣(ニュルンベルク)と酒井宏樹(ハノーバー)は今季からドイツへ渡った。さらに大津祐樹(ボルシアMG)や宮市亮(ウィガン)など、ロンドン五輪世代の選手たちが欧州に挑む。

 香川、成功のカギは守備の対応力

 香川の新天地であるマンUについては、今さら説明の必要もないだろう。彼に求められているのは、チャンスメイクはもちろん、ドルトムント時代にみせた高い得点力だ。昨季の香川のゴール数は13点(欧州リーグ日本人最多)、これに対してマンUの中盤の選手ではナニの8得点が最多。アレックス・ファーガソン監督が、2列目の得点力向上のために香川を獲得した理由がそこにある。

 プレシーズンマッチでは早速、得点力の高さを証明した。7月25日の上海申花戦で初ゴールを挙げると、今月11日のハノーバー96戦では3対3の同点の場面から決勝点。ハノーバー戦では、ルーニーからのアシストを決めるなど、チームメイトとの連係も順調のようだ。

 香川の武器はなんといってもボールコントロールの巧みさだ。なかでも、トップスピード下でのコントロール力は世界屈指といっていい。印象的だったのが昨季、第36節のボルシア・メンヘングランドバッハ戦で決めたゴールだ。カウンターから長い距離のランニングで攻め上がり、PA内左サイドへのパスに反応する。全速力で追いつくと飛び出してきたGKをワンタッチでかわし、すかさずゴールに蹴り込んだ。ハイスピードのなかで、あれだけ的確に、そして冷静にプレーできる選手は、そうはいない。

 香川のプレースタイルは、相手がボールを奪おうとチャージしてきた時にこそ真価を発揮する。プレミアリーグのコンタクトの激しさはブンデスリーガ以上だ。それは香川にとって望むところではないか。

 マンUは4−4−2フォーメーションをメインに、オプションとして4−2−3−1も採用している。香川がドルトムント時代に慣れ親しんだのはトップ下。4−2−3−1下では、同位置でプレーする可能性が高い。20日のエバートンとの開幕戦ではトップ下でフル出場した。ただ、クラブは昨季のプレミア得点王ロビン・ファン・ペルシをアーセナルから獲得。4−2−3−1で彼を頂点に据え、ルーニーをトップ下に配置するパターンも考えられる。そうなったとき、4−4−2と併せて香川は左MFとしてプレーすることになりそうだ。本職ではないが、左MFは日本代表での定位置。ポジションによって戸惑うことはないだろう。

 レギュラーを争うのはイングランド代表のアシュリー・ヤング。ヤングも緩急をつけたドリブルでチャンスをつくりだすことに長けている。ただ、昨季のゴール数は6であり、決定力で上回っている香川がスタメンレースの一歩先を行く。

 課題となるのがディフェンス面での対応だ。サイドMFに求められるのは、攻守のバランス力である。サイドでは選手が密集することは少なく、1対1の局面を迎えやすい。攻撃では相手を突破する、守りでは突破されないことが要求される。また、左MFは左SBが攻めあがった場合に生じる自陣のスペースをカバーしなければならない。そこで連係がうまくいかず、穴をつくってしまってはファーガソン監督も起用しづらい。守備面でどれだけ指揮官の信頼を得られるかがポイントと見る。

 スピードもフィジカルコンタクトも世界一といえるプレミアで揉まれれば、彼がスケールアップすることは間違いない。マンUの心臓として、移籍金約20億円の価値を証明して欲しい。

 清武は“第2の香川”になれるか

 その香川と入れ替わるようにドイツへと渡ったのが清武だ。卓越したボールコントロール力とチャンスメイク力を兼ね備えていることから“第2の香川”としての期待がかかる。

 ニュルンベルクはブンデスリーガで9度の優勝を誇る古豪。フォーメーションは4−2−3−1を採用している。この点で清武は五輪代表でもA代表でも同布陣での戦いを経験しており、スムーズに対応できそうだ。ポジションは右MFが既定路線だが、昨季トップ下のレギュラーを務めた選手が移籍したことで、その後釜に据えられる可能性もでてきた。デビュー戦となった19日のドイツカップ1回戦では、途中出場からトップ下でプレーしている。2列目の中央が主戦場となれば、ミドルシュートやゴール前への飛び出しなどポイントゲッターとしての働きも求められる。

 懸念材料は五輪に参加したことで、シーズン前のキャンプに参加できなかったことだ。これはチームメイトとの連係を深めるうえで、また指揮官からの信頼を得るうえでかなりの痛手だ。清武としては、途中出場から首脳陣とファンの信頼を勝ち得ていくことが当面の目標だろう。

 香川は1年目で8ゴールをあげ、一気に名を上げた。清武もアシストやゴールなど、目に見える結果を残すことでステップアップを果たしたい。五輪では全6試合に出場し、3アシストと活躍を見せており、その勢いをリーグ戦に持ち込めるかが焦点だ。

 一方で、ハノーバーに移籍した酒井は試練に直面している。五輪で負傷した左足首の回復が遅れ、未だチームの全体練習に合流できていないのだ。19日のドイツ杯でもベンチ入りメンバーに入れず、苦しい日々が続いている。ただ、ここで焦って復帰を急げば、再発のリスクがある。まずはしっかりと完治させることが先決である。

 そのうえで、復帰後のライバルとなるのは、主将のスティーブ・チェランドロだ。しかし、33歳の彼には衰えが見られる。スピード、コンタクトの強さ、クロスの精度など、サイドバックとしての能力では酒井が1枚上だろう。

 酒井の魅力は日本人離れしたフィジカル能力の高さと高速クロス。昨年末に日本で行われたクラブW杯や今夏の五輪では、外国人選手にも当たり負けしない強さを見せた。また身長183センチの高さは、セットプレー時の貴重な得点源になる。

 代名詞でもある高速クロスを上げる瞬間の足はがに股で、本人は「この蹴り方じゃないと速いクロスが上げられない」という。また、「味方に合わせるというより、DFがクリアしづらいボールを入れている」とも語る。その意味で、まずクロスの性質をチームメイトに理解してもらうことが大切だ。それができれば、ドイツの地でもアシストを量産できるだろう。

 経験値アップを図りたい宮市

 五輪代表には選ばれなかったものの、宮市亮(ウィガン)も見逃すことはできない。昨季は出場機会に恵まれなかったアーセナルから、シーズン途中でボルトンに期限付き移籍。瞬く間にレギュラーの座を奪取すると、FA杯2回戦のミルウォール戦でイングランドでの初ゴールを記録した。また、チェルシーとのリーグ戦(第26節)では、左サイドをひとりで仕掛け、対応した2人のDFを置き去りにする圧巻のスピードでスタンフォード・ブリッジに詰め掛けた観客の度肝を抜いた。もはや彼のスピードがワールドクラスであることに疑いの余地はない。

 13日にはウィガンに期限付き移籍することが決定した。宮市が得意とする左ウィングではヴィクター・モーゼスがレギュラーを務めてきた。しかし、モーゼスはここにきてチェルシーなどのビッグクラブへの移籍が取り沙汰されている。仮に移籍することになれば、宮市にとってはポジション奪取の千載一遇のチャンスとなる。そのうえで多くの試合に出場し、課題であるフィジカル面の強さを向上させられれば、間違いなく大きなインパクトを残すだろう。

 もうひとり、五輪で3得点を挙げた大津にも注目だ。ロンドンでその名を上げたアタッカーは、ドイツで2年目のシーズンを迎える。昨季はリーグ戦でわずか3試合の出場にとどまり、悔しいシーズンを送った。ただ、ブンデスでの1年間でフィジカル面は大きくレベルアップし、持ち前の速いドリブルに力強さが加わった。五輪でも再三、積極的な仕掛けから日本のチャンスを作り出していた。

 主戦場のサイドMFには左にフアン・アランゴ(ベネズエラ代表)、右はパトリック・ヘアマン(U-21ドイツ代表)がレギュラーを張っている。今季は熾烈なレギュラー争いに割って入るだけでなく、それに勝つことが目標だ。ただ、本人は出場機会に恵まれなければ期限付き移籍を志願する考えも明かしている。いずれにしても、今季はステップアップを果たすための勝負のシーズン。ロンドンで見せたゴールラッシュの再現を期待したい。

 その他にも、高木善明(ユトレヒト)、宇佐美貴史(ホッフェンハイム)、酒井高徳(シュツットガルト)らロンドン五輪世代の選手が欧州の舞台でそれぞれ2年目のシーズンを迎える。このなかから香川のようにメガクラブに引き抜かれる新星は現れるのか。若きサムライたちが欧州で成長していく過程を、逐次「スカパー!」でチェックしておきたい。

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 主要リーグ開幕戦、および第2節の日程 ※日本人選手在籍クラブのみ、試合開始は日本時間

【プレミアリーグ】
第2節(8月25日)
・マンチェスター・ユナイテッド(香川真司) × フルハム 23:00〜
・サウサンプトン (李忠成) × ウィガン(宮市亮) 23:00〜

【ブンデスリーガ】
開幕戦(8月25日)
・ハンブルガーSV × ニュルンベルク(清武弘嗣) 22:30〜
・ボルシア・メンヘングランドバッハ(大津祐樹) × ホッフェンハイム(宇佐美貴史) 22:30〜
・フランクフルト × レヴァークーゼン(細貝萌) 25:30〜
(同26日)
・シュツットガルト(岡崎慎司、酒井高徳) × ヴォルフスブルク(長谷部誠) 22:30〜
・ハノーバー96(酒井宏樹) × シャルケ(内田篤人) 24:30〜

【セリエA】
開幕戦(8月26日)
・ペスカーラ × インテル(長友佑都) 19:00〜
・ローマ × カターニア(森本貴幸) 19:00〜

※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。
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